593 シェミリ・ギア・ソリッド
ここはどこ!? 私は誰!?
私は魔島の姫シェミリ。
自分が誰かはわかってるわよ。驚きすぎて混乱しているわ私。
でもここがどこなのかは本格的にわからんわ。
魔島ではないということはわかる。
逆に言えばそれだけしかわからない。
リテセウスくんの転移魔法に咄嗟に組み付いてやってきた場所だけど。転移魔法だけに移動の過程すらまったくわからず、どうやって魔島に帰っていいのかすら謎だわ!
……あッ、そうだ!
ともかくも私をここへ連れてきたリテセウスくんはどうしているの!?
ここへやってきたのが彼の転移魔法によるものなら、彼もまたこの近くにいて当然……!?
「…………」
いたぁぁーーーーーーーッ!?
やっぱりすぐ近くにいた!?
慌てて気づかなかったけれど、本当すぐ近くで私に背中を向けているわ!?
さ、さすがにバレたわよね?
こんなに近くにいて、身を隠す場所もないし、まして転移魔法発動時はガシっとしがみついて密接に触れ合ったんだから気づかないはずがない!
ど、どうやって言い訳しようかしら?
そ、そう、これは事故よ! たまたま散歩中に足がよろけて倒れ込んだところにリテセウスくんがいたの! そして、その瞬間に転移魔法が発動したのよ!
……苦しいか。
仕方ない、こうなったら全力で土下座するしかないわね! と姿勢を整え、地面におでこを叩きつけようとする寸前……。
「あー! 帰ってきたぞ農場に! 農場に帰ってきたなー!」
!?
いきなり何!?
リテセウスくんが急遽口走った言葉は、私に向けられたものかと思ったが違った。
彼は相変わらずこっちに背中を向けて、私へ視線も合わそうとしないし……。
……もしや私の存在に気づいていない?
「いやー! 転移魔法の瞬間腰に何かしがみついてきたかと思ったけど、気のせいだったかなー! ウンウン! 僕けっこう分厚い服着て胴体の感覚もよくわからないし! 空気圧とかであたかも誰かにしがみつかれたような錯覚があってもおかしくないなー! ウンウン!」
やっぱりそうだわ!
信じがたい話だけれど、リテセウスくんは私の存在に気づいていない!
しがみつかれてもなお気づかないなんて鈍感にもほどがあるけれど、これは私にとっては好都合なんじゃ?
だってここは、リテセウスくんの本拠なんでしょう?
その内部に気づかれないまま潜入できたからには、彼の強さの秘密を暴く千載一遇のチャンス!
……でもまったく気づかれていないというのもムカつくわね。
彼が私に気づかない=意識していない=どうでもいいって思っている、ってことじゃないの?
「……」
「ぐわッ!?」
ああッ、ムカつきのあまり無意識のうちにローキックを繰り出してしまったわ!
これ今度こそバレる!?
「ぐぐぐぐ……、いや、今足がガクッときたのは持病の癪のせいだね! よくあることさ!」
これでもまだ気づかないなんて!
バカで助かったわ!
「あー、ここ農場では、人族や魔族、あと人魚族の前途有望な若者を集めて英才教育を施しているんだよなー。そのお陰で僕もメチャクチャ強くなれたんだよなー」
なんですって!?
物凄く説明臭いセリフだったけれど、それによればやはりこの土地に強さの秘密が!?
「ここから少し離れたところにある農場に行って、授業風景でも観察したらきっと学べることがたくさんあるだろうなー。ここは転移ポイントだから、本拠からちょっと離れたところにあるんだよなー」
なるほどそういうことね!
ではリテセウスくんに気づかれないうちに、そっとこの場を離れて本拠とやらに向かうとしましょう。
もし気づかれたら拘束されて、観察することもできなくなっちゃうかもだからね!!
そっと足音殺して……、ふぎゃッ!? 転んだ!?
さすがにバレて……、バレてない! リテセウスくんはいまだに向こうの景色を満喫中だわ!
よし今のうちに……撤退完了!
* * *
こうして農場とかいう場所に無事潜入できた私。
これから徹底的に調査を開始してリテセウスくんの強さの秘密を暴いてみせるわ!
彼の独り言によれば、最初の場所からいくらか移動したところに、農場の本拠があるとのことだけど……?
……あ、あったわ。
それらしい場所が。
ここは……、畑? かしら?
実った植物がとても綺麗に整えられていて、人の手が加わっているということが一目でわかるわ。
しかも広大で、こんなに広い農地が一ケ所にドンと固まっているなんて、魔島にもないんじゃないかしら?
うむむ……!?
侮れないわね……!?
しかし今は『英才教育の授業風景』とやらを見つけるのが先よ。
行けばすぐ見つかるかとも思っていたけれど、こんなに広いんじゃ苦労しそうね。
でも畑には結構背の高い作物も伸びているし、隠れながら進むにはもってこいだわ!
この私の身を潜める技術の高さを見せつける時ね。
「「…………」」
「ひおわうッ!?」
と思ったら、いきなり目の前に壁が立ちはだかったわ!
壁かと思ったら人だった!
いや、人のような……魔物?
オークだわ!
この土地にオークがいるなんて、やっぱり魔族の管理する場所なのかしら!?
ということはヤバい!
オークに見つかれば、その主にも即座に報告が行って、たちどころに捕縛されてしまうわ私!
だって私、ここでは立派な侵入者!
「……なあ、どうする?」
私のことを見下ろしながら、二体のオークが会話を交わすわ。
擬人モンスターにしては流暢な喋り。
「あからさまに侵入者なら対応も即座にできる。サーチアンドデストロイ。『野菜ドロボーには速やかな死を』が我が君のモットーだ」
「しかし目の前の彼女は、ドロボーにしてはあまりにマヌケっぽくないか? こんなキラキラ目立つ外見で、息を潜めてもいなかったし。どっちかといえば迷子と言った方が自然な……?」
「絶域にあるこの農場へ偶然、迷い込む者がいると?」
「まったくありえないというわけでは……、……すみません」
なんか私のことはそっちのけで話し込んでいるわ!
よし、その隙をついて逃亡……うッ。
「動かないでくれよ。手荒なことはしたくないからな」
「はいいいい……!?」
機先を制されて斧を突きつけられたわ!
今の一応酬だけでわかる。このオーク、私よりも遥かに強いわ!
オークなのにウソでしょう!?
「おいおい、あまりビビらすなよ。相手は女の子だぞ」
「そ、そうだな……!」
「オレたちオークが若い女の子に近づくだけでも学生連中からからかわれるんだ。その上に襲おうとしてたなんて噂が広がってみろ。ドデカい尾ひれがつくに決まっているぞ」
「『オークだからやっぱり女を襲って孕ませちゃうんですか!?』って誰だよそんなデマ流したヤツは? 殴りてええ……!」
なんだか善良なオークたちの懊悩が垣間見れるわ!
「というわけで、怖さで震える女の子が相手だ。相当慎重にやらないと、また一段と風評被害が酷くなるぞ!」
「クソッ、ただ畑の雑草取りできただけなのに、なんでこんなタフな事態に……!?」
どうやらオークたちは、私への対応で苦慮しているようだわ!
それならば、まだ生き延びる手はある。
「わッ、私は……!」
「はい?」
「ここで英才教育を受けている生徒よ! ちょっと道に迷ってここまで来てしまったの!」
どう!?
手に入れた僅かな情報を元に設定を作り出し、身分を偽装して切り抜ける戦法!
王女の私だからこそ考え付けるナイスなアイデアよ!
「……農場の留学生にこんな子いたっけ?」
「いないだろ。留学生全員の顔と名前を正確に覚えているとは言わんが、彼女は他の魔族留学生と雰囲気が違いすぎている」
冷静に判断されてしまったあああああッ!?
どうするの!? 私やっぱり捕まってしまうの!?
「でもまあ留学生というなら、速く青空教室に行かないと。この時間だともう授業が始まっているぞ」
「ま、まあそれは大変だわ! 遅刻になったら皆勤賞を取り逃してしまう!」
「ウソ設定で見栄張るのやめろよ」
呆れ顔のオークさんたちだったが……。
「じゃあ、オレたちが案内しよう。どうせどこで授業しているかも知らないんだろう?」
「おい、いいのか? こんなあからさまな不審者を……!?」
「ここで揉め続けて犯罪者のレッテルを張られるのとどっちがいい?」
「紳士的にエスコートしよう!」
なんだかよくわからないけれど、目的地まで辿りつく道順ができたようだわ!
さすが私の潜入技術ね!
「あ、そうだ」
オークさんの一人が、その辺に伸びている作物から実を一つ千切ってきたわ。
「一つぐらいならいいだろう。せっかくだから食べていきなさい。聖者様の農場に来て何も味わわずに帰るのはあまりに可哀想だからな」
「トマトならそのまま齧っても大丈夫か」
よくわからないけど差し出された実を頂いて、一口齧ってみたわ。
!?
うまあああああああッ!?
とても美味しいわ! 何コレ!? 瑞々しくて味が濃厚で! 何の料理もしてないのにこの美味しさ!
とっても美味しいわああああッッ!!






