582 二つ目の魔国
はい、俺です。
息子可愛い。
そして二人目もスクスク成長してプラティのお腹の中が大きくなっております。
何事も順調で平和そのもの。
そんな中、魔王さんが訪問してきて言いました。
「戦争になるかもしれない」
「平和破れる!?」
唐突に戦乱が訪れてきやがった。
でもなんで?
この世の中、もう戦争なんて起こりようがないとばかり思っていたのですが?
元々地上で覇を競い合っていた魔族と人族の戦争があって、それが目の前にいる魔王ゼダンさんの明君で終結した。
そして海底の人魚国とも王者アロワナさんと魔王さんがマブダチで実質上の同盟関係。
この世界、他に勢力がないからには一体どこと戦うの? って話になる。
だから戦争など起こりようがないと思っていたのに……!?
「……実は、別の新しい魔族の国が発見されてな」
別の魔族の国!?
「我々の魔国とはまったく別の、遥か離れたところで繁栄している国家だ。真魔国と名乗っている」
「まるでそんな本家主張みたいな……!?」
「発見されたのは向こうから連絡が来たからなのだが、その連絡の内容が問題なのだ」
果たしてその真魔国さんとやらは一体何と伝えてきたのでしょうか?
「『自分たちこそが魔族の正統であるから、お前たちは従え』と。真魔国の長らしい、真魔王を名乗る者から通達があった」
真魔王って……。
「あちらの要求は、我々が完全無条件に平伏し、支配下にはいること。当然ながら我々は、そんな無茶な要求を飲むことはできん」
当たり前のように飲めない要求。
互いの主張が相いれなくなった時、起こるのは血みどろの戦いだった。
「というわけで我ら魔国は再び戦乱のただ中に突入することとなる。敵の能力は未知数で、ひょっとしたら人間国をも上回るかもしれぬ。そうしれば再びいつ終わるかもしれぬ大戦争となるだろう」
無論俺はそんなことゴメンだ。
世界が平和になったからこそオークボ城やら温泉旅館やら喫茶店やらを開いて楽しくやれているのに。
戦争なんかが起こったらすべてが台無しだ。
戦争など許されない。
「我も同感だ。そこでなんとか戦争を回避する方法はないかと聖者殿にも相談したくてな」
「俺にも……ってことは……?」
「もう一人の盟友たるアロワナ殿にも既に知らせている。もし戦争になった際は味方してくれると確約があった」
海底の大国である人魚国が一緒に戦ってくれるなら、こんなに心強いことはない。
仮に戦争にならないとしても抑止力として、敵国を大いにビビりあがらせてくれることだろう。
「しかし物事に絶対はない。そして万が一にも負けることがあってはならないのが戦争だ。我は万全を期して戦いに勝つ方法を模索したい。できれば戦わずに勝利したい」
孫子みたいなこと言って……!
しかし戦わずして人の兵を屈することは善の善なるものだと俺も思う。
何より混乱がなくていいしね。
平和に日々が過ぎ去ることを守り抜けるならば、俺も喜んで協力させてもらおう。
「聖者様は常に我々の考えもしない妙案を思いつくのでな。大きなことを始める前に是非とも意見を聞いておきたい」
「そうですねえ、まずは相手のことを知らないと何とも言えないんじゃないですか?」
敵を知り、己を知れば百戦をして危うからずんば虎児を得ず。
これも孫子の言葉だ。
その教えの通り、問題の真魔国とやらがどの程度の規模で、どの程度の国力を持ち、どんな英雄豪傑を抱えているかを知らねば正しく対処することもできない。
ゼダンさんの魔国が、既に人間国をも併呑して地上最強の国力を持ち、アロワナさんの人魚国というこれまた強力な同盟相手を持っているとしても。
それらを超えた強さを持つ敵なんて案外ゴロッと出てくるものだ。少年漫画などでは。
だからゆめゆめ油断してはいけない。
「聖者殿の言う通りだ……。しかし我々は、相手のことを何も知らない。そもそも自分たち以外に魔族の国があるなどと、まったく知らなかった。夢にも思わなかったぐらいだ」
「そうでしょうね。たとえるなら充分に大人になってから父親に『実はお前には腹違いの兄弟がいるんだよ』って言われるようなもんでしょうね」
「それは普通にあり得るから例えにならんな」
「ああ……!」
そういえばゼダンさんの実父は、あの大魔王バアルさんだった。
つまらん例え話で脱線してしまった。本筋へ戻ろう。
「それでも使者から話を聞き、真魔国とやらの大まかな来歴を聞くことができた。それによると……」
今から五百年ほど前、時の魔王は性悪状にして暴虐を行い『狂った魔王』などと称されていた。
ついには自分の治める魔都を自分自身の手で破壊し、人の住めない地獄へと変えてしまった。
当時魔都に住んでいた人々は難民となり、あちこちを彷徨い歩いた……。
「そうして人々が離れた場所に新しい街を作り直し、築かれたのが今の魔都。滅び去ったのが旧魔都と呼ばれている」
しかし旧魔都から脱出した人々は、一まとまりになっていたわけではない。
いくつもの集団に分かれて別の方向へと向かい、それぞれの行き着いた先で新しい住処を作り上げた。
それが今回新発見された、もう一つの魔国だという。
「真魔国と称する一派は、海を越えて、旧魔都崩壊の難を逃れたらしい。そのまま遠い海に浮かぶ孤島へと流れつき、そこで新たな王国を興した」
「それが真魔国……」
「彼らは、元々の魔国はもう滅び去ったものだと思っていたらしい。旧魔都崩壊が全土まで波及して。しかしそうでなかったことに最近になって気づいた」
「どうしてです?」
「原因は昨年、龍帝城で行われたダンジョン攻略競争にあるらしい」
「あれ?」
魔王軍四天王と、人間国のS級冒険者が、互いの優劣を競い合った争いでしたよね?
結局は単なるオリエンテーションとして無事終わったが、あれが何か影響を?
「あの時、聖者殿の奥方がダンジョン内の様子を外に伝える魔法具を使用していただろう?」
「ああ、あのテレビ中継みたいな……」
でもまだまだ研究が足りなくて、音声は伝えられないわ画質もそんなに良くないわで。
結局は正門前でやったグラシャラさんvsピンクトントンさんの無制限一本勝負が盛り上がりのすべてを持っていきましたがね。
「あの魔法具が出した念波が、思ったより広範囲に広がっていたようで周辺の海域にある真魔国がキャッチしたらしいのだ。それで我が国の存在を知ったと……!」
「プラティの研究が、そんな思わぬ事態を呼び込むなんて……!?」
さすが魔女。
狙いもしないのにトラブルを生産する。
「向こうも映像の解析やら分析やらに時間をかけ、やっと今になってこちらに使者を送るまでになった。しかし、その使者が携えてきたのが有無を言わさぬ併呑勧告だ。……元は同じ魔族、友好の申し出なら喜んで受けるというのに……!」
やはり魔王さんは名君で、何事も平和的に解決していきたいようだ。
そんな方針に俺も大賛成なので、できることなら戦争などせずに治めたいのだが……。
「だったらおれが行くか?」
ごく自然に話に加わったのはヴィールだった。
「人の子どもの国ぐらいおれが行ってバーッと焼き払ったらそれで済む話なのだ。大国も小国も関係ねー。おれたちドラゴンからしてみればな」
「たしかにその通りだけども……!?」
ヴィールは最強生物ドラゴン。
その戦闘力にかかれば人類の国家ぐらい規模の大小にかかわらず即刻滅ぼされるだろう。
それこそふざけた子どもが蟻の巣に溶かした鉛を流し込むぐらいの気軽さで。
しかしそれはいけない。
「ヴィ、ヴィール殿の心遣いは有り難いことだが、これはあくまで魔族間の問題。身内の騒動でドラゴンに手間をかけさせては、我の魔王としての資質が疑われてしまう」
上手いことやんわり丁寧に止めようとする魔王さん。
「お気持ちだけ有り難く受け取って、魔族の問題はこの魔王が、しっかり裁ききってみせようぞ!」
「お、いい心がけだなー。お前もジュニアの見本となるよう励むのだ」
そしてヴィールがテクテク去っていったのを見て、俺と魔王さんは胸を撫で下ろした。
「そりゃ超越存在に頼り切れば何でも秒で解決するだろうけど、頼りすぎるのもダメだよね」
「たしかに、頼れば頼るだけ堕落していきそうだ……!?」
ということで、改めて人の手でどげんかしよう。
俺もまた知恵を絞るぞ。
魔王さんに頼られたからには応えねばなるまいし、世界の平和に俺も尽力したい。
そして色々考えて……。
……思いついたことが一つ。
「やはりまだまだ相手のことがわかってないのが問題なのですよ」
そして向こうも、こちらのことをよくわかっていないのではないか?
ちゃんと知っているのだろうか。今のゼダンさんの魔国が、数千年続いた人魔戦争に終止符を打ち、地上統一を果たして過去にない繁栄を迎えていると。
それを知った上で有無を言わさぬ服従要求をしているんなら、凄まじい自信だと言わざるを得ないが……。
「必要なのは相互理解だと思うんです」
ずっと昔に離れた同族同士が、それぞれどんな数百年を歩んできたかを。
そのための秘策を俺が用意しよう。






