574 緑色の宝石水
緑色の泡立つ液体。
その上に、ひんやりと冷えた純白のクリームを乗せる。
そして忘れてはいけないサクランボ。
クリームソーダにはやっぱりサクランボがつきものだ。
緑と白、そしてチェリーの赤の三色が織りなす鮮烈なコントラスト。
ここに完成した、ファンタジー異世界で作り出した珠玉のクリームソーダ!
「これはなんですううううううううッッ!?」
「みどりいろです! 光り輝いているですううううううッ!!」
「みどりです! ぐりーんだよ、ですー!」
「よりどりみどりですー!」
試食してもらおうと呼んだ大地の精霊たちが、もうテンションハイMAXとなって打ち震えている。
今回のテーマの一つに『子どもウケする』ということが条件に入っているので、やはり子どもの意見をとっておきたかったのだ。
その子どもポジションで再び大地の精霊たちが登場。
そして彼女らが大興奮。
まずクリームソーダの母体となるメロンソーダが、見事なまでの緑色であることに。
しかしそれだけに止まらない。
「はッ!? 待つですッ!?」
「この緑色のシュワシュワの上に載っているのは……!?」
「しろいです? つめたいです? クリームです!?」
「これはもしや……!」
「「「「「あいすくりーむですううううううッッ!?」」」」」
メロンソーダの上に載ったアイスクリームに、大興奮の二段ロケットや。
「あいすいくりーむが、乗っかってるですうううううッ!?」
「こんな贅沢許されるですううううううッッ!?」
「シュワシュワのおみずおいしいですううううううッッ!!」
「あいすくりーむも、おいしいですうううううッ!!」
「二つを混ぜるとまた変わったあじわいですうううううッッ!!」
「さくらんぼーもおいしいですううううううッッ!!」
大地の精霊たちの味わいっぷりが思った以上に全力過ぎて引く。
それだけ喜んでくれたということなら、こちらとしても嬉しいが。
「くっくっく……、ガキどもが煩い限りなのだー」
狂喜乱舞する大地の精霊たちを見下ろし、大人の余裕を見せてくるのはドラゴンのヴィールだった。
「ご主人様の食い物が美味いのは当たり前だが、それにいちいち驚いているようでは未熟者なのだ。ここはもう『美味しくて当たり前』ぐらいの気がまえでどっしりと受け止めるのが……」
と言ってヴィールもクリームソーダを一口。
「うんめええええええええッ!! 甘い! 冷たい! シュワシュワ! 緑色! さくらんぼおおおおッ!! 驚きのポイントが多すぎて追いつかないのだあああああああああああッッ!!」
やっぱり煩い。
そしてやっぱり子どもといえば我が実子であるジュニアの反応も気になる。
もうすぐ二歳になる息子は、炭酸飲料も平気で飲める程度に成長したであろうが……。
問題のクリームソーダを一口飲んで……。
『このワザとらしいメロン味!』というような表情をしていた。
おおむね好評でよかった。
さあ、いかがですかなシャクスさん?
このクリームソーダがあれば、魔都の全ちびっ子が魅了されること必定!
クリームソーダをメニューに加え、今こそ喫茶店を異世界に。
「……もはや何も言うことはありませんな」
実は最初からいたシャクスさん。
クリームソーダのお披露目会を終始見守っていた。
「まさかここまで凄まじい子ども向けの商品を出してくるとは……。やはり聖者様は我らの想像を超えてくる……! というかこのクリームソーダ自体を独自で大売出ししたいぐらい……!」
シャクスさん目頭を押さえる。
手にはシャクスさんに用意されたクリームソーダが……もう空になっていた。
オッサンが貪るクリームソーダというのもまた乙だ。
「やはり聖者様は、我ら凡俗ごときの口出しなど無意味な、高次の存在。この上は四の五の言わず素直に従うのみです」
「では!」
「我がパンデモニウム商会は聖者様の喫茶店作りを全面的に支援します。魔都の一等地に店舗を用意し、最高のスタッフを取り揃えましょう。他にも足りないものがあれば何でもおっしゃってください!」
やったぜ!
ついに異世界喫茶店が実現するんだな! 努力が実を結んでとっても嬉しいぞ。
「そ……、それで聖者様、最初は何店舗出店いたしましょう?」
「え?」
何店舗?
何を?
「聖者様が差配する企画ですから、当然のように大々的に売り出していきましょう! チェーン店を拡大していってゆくゆくは魔国中……いえ旧人間国にも出店していき地上全土にシェアを! そのためにはまず魔都内でも最低百店舗は同時出店して……!!」
シャクスさんが熱っぽく語るのに相対し……。
「いや、一店だけでいいですよ」
「おええええええええええええええッッ!?」
元々そんな大々的にやるつもりはないし。
コーヒーをこの世界の人たちにも親しんでもらいたいという動機から始まった異世界喫茶店計画。
しかしあまり大規模で初めても全体把握できるかわからんし、そもそもコーヒー豆の供給足りなくなるかも。
今のところ農場だけで育てているからな。
「というわけで普通に一店舗のみで始められれば満足です」
たとえ一店舗でも、そこから少しずつコーヒー好きが広がっていったらいいなあと思うのだ。
「じゃあなんでウチに相談したんですか!? チェーン展開で大々的に売り出すためじゃないんですか!?」
「バッカスの時みたいなトラブルになったら嫌だなあと思って」
以前もバッカスが魔都で居酒屋(おでん屋)を出店した時、無許可営業とかで締め上げられて大騒動になったことがあった。
一度直面した間違いを繰り返し犯さない。
それが俺の美学さ。
「というわけでシャクスさんには後々トラブルにならないよう法的支援をお願いしたかったんです」
「それならそうと早く言ってくださいよ!!」
なんか泣きながら言われた。
もう既に思考の行き違いがあったようだ。
「だったら吾輩の本気のアドバイスは何だったんですか……? 大きなシノギになると思って現場リサーチも完璧にしてきたのに……!?」
「いえ、大いに参考になりましたよシャクスさんの」
子どもウケするメニューがいるというご意見……。
「サミジュラさんを通して居酒屋ギルドからも出店予定地を確保してもらったり、人員を集めてもらったりしているのに……!」
「なんかすみません……!」
まあ、でも本当に一店舗だけでいいんで。
一店舗で。
後々ゴタゴタが起きないよう商会のお墨付きだけお願いします。
「ちなみにですが……、メニューに出すのはコーヒーとクリームソーダだけで?」
「もちろん他にもありますよ」
あまりたくさん種類があっても回し切れないが、さすがに二品だけでは寂しすぎる。
他にも軽食メニューでもつけてバラエティを豊かにするつもりだよ。
前に出たホットケーキもメニューに加えるとして……。
「あとやっぱピザトーストも出したいと思っている」
「ピザトースト!?」
ピザ生地の代わりに食パンを使って、その上にどっさりチーズをまぶして他にもハムとかピーマンとか玉ねぎとかを散りばめるアレ。
喫茶店の軽食にはもってこいだよね。
「サンプルを作ってありますのでお召し上がりください」
「うまあああああああッ!? チーズが伸びてモチモチいいいいいッ!! そしてトーストのサクサク感んんんんッッ!?」
ちなみに食パンはヴィールのお手製です。
同じトースト系なら小倉トーストも用意しようかなあと思ったが、地域性が強いので差し控えておいた。
それからスィーツも用意したかったが、ショートケーキやらティラミスは作るのが大変だし、外の人たちに食わせるぐらいならウチらに食わせろとばかりに農場女子たちが消費していくことだろうから見合わせた。
せめてクッキーだけでもお出ししようと思ってストックを備蓄中です。
「食器類はエルロンらに拵えてもらおうと思っています」
「流行の最先端を行くエルロン様たちの作品を……!? こんなの、絶対大流行するに決まっています。それを一店舗だけに留めておくなんてええええええ……!?」
なんかシャクスさんがさめざめと泣きだした。
まあ、それはそれとして、いよいよ形になってきた喫茶店作りを頑張っていこうぜ!






