573 緑への道のり
先生のおかげで炭酸水をゲットし、異世界クリームソーダ作りにまた一歩近づいたぞ!
その炭酸水をキンキンに冷やして、砂糖をドサッと入れて、レモンをギュボッと搾って汁を入れる。
そして適当に掻き交ぜて透明な炭酸飲料サイダーの完成だ。
「んまぁー!? 何これ!? 美味しい! 美味しいわ!!」
試飲を引き受けてくれたプラティが目を星のように輝かせる。
大絶賛。
第二子を妊娠中のプラティは、アルコールもカフェインも自粛してもらっている時分なので、せめて炭酸でも味わってもらおうって配慮だ。
「このシュワシュワアワアワな飲み応え! まるでビールのようだわ! ビールが飲みたくなってきた!!」
やっぱり炭酸も禁止にしておくべきだったかな?
プラティの好評を得て、炭酸水→サイダーへの加工も成功したと断じておこう。
目的のクリームソーダへ一歩一歩近づいている手応えだが、まだ道のりは遠い。
クリームソーダがクリームソーダ足りえるのに必要不可欠なものを、この透明な炭酸水はまだ獲得していないからだ。
アイスクリーム?
いや、それはもう用意できている。
とっくに完成させて冷凍庫に保管済み。あとは完成したメロンソーダの上に乗せるだけだ。
「別にもう完成でいいんじゃないの? 甘くて冷たくてシュワシュワしてるだけでもう勝ったも同然よ? こんなの嫌いになる子どもがいるわけないわ!」
プラティが太鼓判を押してくれるのは嬉しいが、俺はまだ満足に達していない。
この段階ではまだ、上にアイスを乗っけるわけにはいかないのだ。
透明なサイダーの上には。
そう。
クリームソーダといえば、ベースにすべきはメロンソーダであろう!
同じ炭酸飲料でも、エメラルドのような輝きを放つ緑色のメロンソーダ。
フルーツ界のプリンスというべきメロンをイメージしたあの緑色と、バニラアイスの純白とによるコントラストこそがクリームソーダの真骨頂!
「というわけでいかにしてでも、この炭酸水を緑色に染め上げねばならぬ」
「緑色? なんで?」
そんな純粋な疑問にして投げかけられると怯むんだが……。
しかしながら、その緑色をこっちの世界で生み出すのも幾多の困難が予想される。
だってあんな鮮やかな緑色、自然界で生み出せるものかと。
だってあれでしょう?
ああいう鮮やかな着色って『緑〇号』的な合成着色料を使ってるんでしょう?
毒も食らう栄養も食らう。双方を美味いと感じ己が血肉に取り込む度量こそが肝要だとは言うけれど、まずそれ以前の問題として、あそこまで鮮やかな着色料をこっちの世界で作り出せるかどうか。
可能不可能の問題から俺たちは考えねばなるまい。
とりあえず難しい数式とか化学反応とか手に負えないから自然の着色技能でなんとかできないか、と考えてみるが……。
まあ無理っぽいよな。
たとえばメロンソーダいうくらいだからそれこそ本物のメロンで着色してみーやなんてことも考える。
一応ウチの農場でもメロンは栽培しているので。
しかし自然のメロンであんな鮮やかな緑色は出せないだろう。
『白なの? 緑なの? ハッキリしろよ!』的な緑だからなメロンの緑って。
しかも夕張メロンの果肉などは黄色に近い。
やはり天然色に頼るのはナシだ。
所詮見た目の問題だとわかっていても、見た目こそが大事だと言うのでメロンソーダのあの鮮やかな緑色は捨てがたい。
一体どうすれば……!?
また魔法で解決するか?
しかし、そうなったら何から何まで先生のお世話になって悪いし。
他にないか?
こっちの異世界ならではの解決法というか、ファンタジー世界ならではの特色がきっとあるはずだ。
それをもって、何としてでも異世界メロンソーダを……。
* * *
……そうして試行錯誤を繰り返した結果。
「できました! 異世界メロンソーダ!」
俺たちの前にあるのは、それこそ目の醒めるような鮮やかな緑色。
……の液体!
内部にシュワシュワとした気泡を収め、キンキンの冷気でグラスを結露させる。
「おおおおおおおッ!? 何これえええええッ!?」
お披露目に付き合ってくれたプラティも大興奮だ。
「なんて緑色なの!? 緑色が光り輝いているわよ!? これはもはやただの緑色は言い難い! 輝く緑色よ!!」
緑がゲシュタルト崩壊しそうな勢いで緑と連呼するプラティ。
緑の中にこっそり『縁』を交ぜてもバレなそう。
「一体どうやって、こんな緑色を作り出したの? アタシが知っているどんな薬草をすり潰して混ぜたとしてもこんなに明るい緑にはならないわ!?」
「発想の転換というヤツだよ」
俺だって、常に『至高の担い手』に頼るだけの男ではないってことでもある。
知恵と努力と発想でもってここまで進めてきた農場生活。
そんな俺の実績がモノを言ったってことだな!
で、具体的にはどうしたかっていうと……。
「我が君、我が君ー」
お。
オークボやゴブ吉、オークゴブリン軍団が戻ってきたな。
ダンジョン帰りか。
「ご要望いただいたモンスターを捕えてきましたぞー。どうかご確認ください!」
農場近くにあるダンジョンからは、そこで発生するモンスターを狩猟してタンパク源にしたり、皮、骨、牙といった素材で様々な生活用品を拵えたりする。
これもまたファンタジー生活の知恵だ。
オークボ、ゴブ吉たちがそうした役目を背負って定期的にダンジョンに入り、役立ちそうなモンスターを日々狩ってくる。
しかし今回は特別に、今まで注目を受けなかったとあるモンスターを届けてくれた。
「スライムです」
「えッ?」
傍から眺めるプラティが素っ頓狂な声を上げた。
スライムといえば、モンスターとしてはある意味もっとも有名で、誰もが知っているアレ。
半固体で半透明。プヨプヨした軟体でまともな生物かどうかもわからない流動物。
今までも洞窟ダンジョンの方でよく見かけられたモンスターであったが、俺たちの興味を引くことはなかった。
「だって、人の生活に何の役にも立たないモンスターでしょ? プヨプヨの体は水なのか肉なのかもわからないし食糧にもならないし、薬効もないのは魔女であるアタシが一番よく知ってるわ!」
さすがプラティ、モンスターのことをよく熟知している。
俺もそう思っていた。
スライムの軟体って、武器防具にも流用できないし本当に何の役にも立たないモンスターなのかと。
しかし違う。
俺は農場生活数年を経て、ついにスライムの有効活用法に気づいたのだ!
さて、今回オークボたちが掴まえてきたスライムは何種類もいた。
『大空を超える無限』スカイブルースライム。
『灼熱の牙』カーディナルレッドスライム。
『闇を貫く閃光』ライトニングイエロースライム。
『永久なる生命の活力』エバーグリーンスライム。
『産み出すことを許さない』ヴァージンホワイトスライム。
『全ての源』マザーブラックスライム。
前々から気づいていたことだが、スライムには種類があって、その一番大きな違いは色だ。
赤青黄色、様々な彩のスライムの中から……。
「今の俺の気分に相応しいスライムは決まった!」
と言って掴み取ったのは緑色をしたスライム。
「まさか……!?」
ここでプラティは察したようだ。
まず俺の目的に適った緑スライムをシェイクし、不純物を体内から振るい出します。
そうして純粋な緑色になったあと、エルフガラス細工班に作製してもらった注射器をブスリして、内容物を抽出します。
さらにそれを加熱して、濃縮させたらすさまじく濃厚な緑色の液体になりました。
それを一滴、炭酸水に垂らしたら……。
「ああーッ!? 見事な緑色にいいいーーッ!?」
そう、この緑色はスライムから抽出したものだったのだー!!
何の役にも立たないかと思われていたスライムが、食物の着色料として驚きの役割を果たす。
元々内部の成分は毒にも薬にもならないというのは調べがついていたし、従って味にも影響を及ぼさないから、ただ色付けしたいという目的を果たすだけなら持ってこいなのだ!
こちらの世界にしか棲息しないモンスターを使って問題解決!
それこそ異世界の知恵!
「それでも旦那様……! 食べ物にスライムって……! 何というか無害とわかっていても抵抗感が……!?」
大丈夫! 健康を害する成分がないことは度重なる調査で分かっているし!
この世界の緑色のスライムには毒はない!
「協力ありがとう、森へお帰りー」
役目を果たした緑色スライムは、解放してダンジョンへと帰してあげた。
他の赤青黄などの色のスライムたちも『オレたち何のために連れてこられたんだよ?』と釈然としない気配を出しながら、それでもダンジョンへ帰っていった。
とまあ紆余曲折はあったものの……。
炭酸に緑色、すべての必要なものを取り揃えて、最後にアイスクリームを加えて……。
今こそ異世界クリームソーダの完成の時!






