563 エルフたちの茶道ism
わらわはエルフエルフ・エルフリーデ・エルデュポン・エルトエルス・エルカトル・エルザ・エルゼ……以下略。
エルフ王じゃ。
世界でもっとも大きなエルフ集落を采配し、この世にたった一つしかない世界樹を擁する、もっとも偉大なるエルフ。
……いや、最近じゃともう一つ世界樹ができたんじゃが……。
それでもわらわこそがもっとも偉大なエルフであることは変わりない!!
畏れ敬え! わらわこそ高等種族エルフの中でもっとも高等なる存在ぞ!!
「相変わらず煩いのうお前は……!」
おおうッ!?
そういうお前は我が同類、エルエルエルエルシー!
略してL4Cではないか。
「略すなたわけが」
はふーん。
同じハイエルフと言えどもエルフにとって神聖なる記号『エル』をその名に二十二も刻むことを許されたわらと、たった四個しか刻まれないお前とでは格が違うがな、格が!
本来なら直に言葉を交わすことすら許されん間柄よ。
それを許してやっているのはわらわの慈悲と心得よ!
「単に加減を知らんだけじゃろうが。お前の名前を正確に覚えているヤツなんぞ誰もおらんぞ」
はぁッ!? 覚えろや!
神聖なるエルフ王の名じゃぞ!
「そんなことより、わらわとお前同時に呼ばれるなぞ珍しいのう? 一体何を意図しての招待なのやら……?」
はッ!? そうじゃった!!
今日はあの名工エルロン宗匠からの直々の御招待を受けているんじゃった!!
それをもって本日はエルロン宗匠の住処……農場へエルフ転移魔法でもって馳せ参じたのじゃ!
というわけでわらわたちは農場に生えたもう一本の世界樹の麓におる。
わらわやL4Cのようなハイエルフは、巨大な森か一本の世界樹によって浄化されたマナの中でしか活動できんのでのう。
「エルロン宗匠が直接呼んでくださるとは……一体どんなもてなしが用意されているんじゃ!? お土産に新作の陶器とかを貰えたり……!?」
「妄想に耽っているところ申し訳ないが、エルロン宗匠はあくまで我が集落出身のエルフじゃ。当然そっちの里長であるわらわの方を優遇してくださるのが当然!」
なんじゃと!?『エル』の記号を四つしか持っとらんヤツ!
「お土産の新作を持たせてくれるにしても、きっとわらわの方がより豪華なものになるに違いない! のうエルザリエル?」
「御意」
なんじゃ?
気づけばL4Cの後ろにもう一人エルフが控えておるではないか。
体つきも逞しく、眼光鋭い戦士エルフじゃのう。
いかにも森の外で、幾多もの戦闘経験を積んだに違いない。
「紹介しておこう。こやつはエルザリエル。我らがエルフ集落で森の再生事業を進めておる非常に優秀なエルフじゃ」
「恐縮です」
「だけでなく、あのエルロン宗匠の姉貴分でもある! ぬしとわらわたち、どちらがエルロン宗匠にとって近しい間からはここからでも察せられるというものじゃ!」
何じゃとおおおお!?
くっそ、コネばかり振りかざしおって! 直接的な関係はなくとも、わらわの方がより名匠を敬愛しているということをわからせてやるぞ!
「ならば!」
「おう! いざ行かん!」
招待してくださったエルロン宗匠の下へ!!
* * *
「皆さま、本日はようこそおいでくださいました」
おおエルロン宗匠!
宗匠はエルフ族の誇りじゃよ!
ご本人による出迎え、ありがとうございます!!
「こちらこそハイエルフであるお二方を私ごときが呼びつけて、不敬の極みと言われかねぬところを快く招待に応じてくださり光栄の極み。歓迎の準備はできておりますので、どうぞこちらへ……」
ふむ、そうか。
では遠慮なく歓迎を受けようではないか!!
「エルロン宗匠、今日はエルザリエルも連れてきたぞ。宗匠も、かつての姉貴分に会いたかろうと思うてな」
「チッ、……いえ、お気遣い感謝いたします」
今舌打ちした?
この二人、本当に仲がいいの?
ま、まあいいか。……それよりエルロン宗匠は今日変わった出で立ちをしておるのう?
そのやたらと動きにくそうな服装はなんじゃ?
「私の服装にお気づきになりましたか。さすがエルフ王にございます」
いやいやいやいや……。
エルフ王なら気づいて当然よ!
「これはワフクというもので、バティに急遽仕立ててもらいました。茶席に出るには、これがもっとも相応しい服装だというので」
チャセキ?
「皆さまは初めてということで普段の格好でもかまいません。では茶室へ案内いたします」
チャシツ?
とにかくエルロン宗匠のあとへついていく。
世界樹のマナ浄化作用は非常に広範囲で、多少離れたところでまったく問題ない。
それよりもエルロン宗匠は、一体わらわたちに何を見せようというのじゃろうな?
てっきり陶器の新作を見せてくれると思ってワクワクだったんじゃが?
「着きました。こちらです」
と到達したのは、一つの建物の前。
なにやら小さくて、木造で土壁、何ともみすぼらしい感じが……?
「オークたちの協力で建てた茶室にございます。どうぞこちらからお上がりください」
中に入っても、やはり外見通り狭いのう。
農場の他の家屋にもある『タタミ』とかいう床は心地よいが……。
「これらすべて、聖者様よりアイデアを貰って設えたものです。侘びた茶室、淑やかなる和服。それらもすべて茶席の主役である、この器を引き立てんがため」
「おおおッ!?」
これはああああああッ!?
ついに出てきたぞ! エルロン宗匠の新作じゃああああッ!? 我ら感激の極みじゃああああ!!
これは、碗か!? 杯か!?
多くの水を溜めておけそうなほどに大きな陶器製の碗が、漆黒に染め上げられて黒光りしているではないか……ッ!?
漆黒の碗!
我らエルフにとって黒という色は黒鉄を連想させて、そこまで好ましい色ではないが……。
土から作られたこの黒碗からは、不思議と懐かしさすら感じる……!?
「聖者様から創意を分けてもらい、我がセンスの粋を凝らして作り上げたものです。茶を飲むための碗。つまり茶碗です!」
チャー!?
一体何を行っておるのじゃエルロン宗匠は!?
しかしやることなすことすべてに素敵な新しさが溢れて、このエルフ王胸がキュンキュン高鳴っておるぞ!!
「しかし器には、それに合った水で満たさねばならない。今こそ注ぎましょうぞ! 聖者様が作りし極上の飲み物、お茶を!」
何を言っているかサッパリじゃがエルロン宗匠!?
黒器に注ぐのは……、やっぱりわからん!!
なんじゃその緑色の粉末は!?
さらにその上からお湯を注いで……シャカシャカ掻き混ぜるのじゃ!?
「できました。これが茶席で楽しむお抹茶です。お二人ともご賞味あれ!」
差し出された、黒碗に満たされる緑色の液体……!?
しかも忙しなく掻き混ぜたせいか泡立っておる……!?
こんな見たこともない謎の物体、本来ならば毒ではないかと口入れるのも拒みたくなるが……。
しかし美しい!?
黒光りする碗と鮮やかな緑のコントラストが、目の覚めるようではない!
それが益々我が喉に渇きを及ぼして……。
……飲む。
美味いぞ!!
ただのお湯ではない、眠気も吹っ飛ぶような苦味がありつつ口当たりもまろやかで、何と美味なる液体なのだ!?
「これが茶でございます」
「チャー!?」
「聖者様から広く伝わっていくだろう妙薬。しかし水を収めるには器がなくてはなりません。つまり茶の流行と私の陶芸の真価は表裏一体。私はこの機に乗じ、茶を世界に広めたいと思っています」
なんと言うエルロン宗匠の野望じゃ!!
こんなに美味い茶と共にすれば、茶を満たす器だって大流行するに決まっているではないか!!
「茶と共に器も愛でる……、この形態を『茶道』と呼び慣わし、世界に広めたいと思っています。エルフ王様たちにも是非ともご協力を」
もちろん協力させてもらおう!
我らエルフは、これより全面的にエルロン宗匠を支援し、共にサドーを広めていこうぞ!
「私も協力させていただきます! このサドーをこそ、エルフ族の新たなる誇りに!」
L4Cのヤツも乗り気じゃ!
集落が分散していたエルフ族がサドーの下で混然一体となり、皆で発展していくのじゃああああ!
「おい」
「はい? ぶごぉッ!?」
えええええええッッ!?
殴った!? エルロン宗匠が殴られた!?
一体なんてことをしておるんじゃ!? それをやったのはL4Cのヤツが連れてきた……エルザリエルとかいうエルフではないか!?
「我が妹分ともあろう者が軟弱になりおって……エルフの真情は武。森に攻め入るものを皆殺しにする弓矢の恐ろしさだろう」
「エルザリエル様!?」
「それをこのような小手先の芸にうつつを抜かして。一から性根を鍛え直してやる!」
待ってえええええええ!
待つんじゃお前! エルロン宗匠は卓越した技の持ち主なんじゃよおおおお!
エルフの宝なんじゃよおおおお!
だから殴るな! やめて! わらわもL4Cも賛同してるんじゃから素直に従えよ! ハイエルフじゃぞ!
……こうしてわらわとL4Cの二人がかりでなんとか止めたが……。
武闘派ばかりのエルフ族に侘び寂びの精神はまだまだ浸透せぬのかもしれないの。






