553 深淵の憂さ晴らし
風雲オークボ城・上級者向けEXモード。
開始直後にして早くも犠牲者が出てしまった。
「ダルキッシュ殿が……!?」
「二年連続クリア記録を持つダルキッシュ殿が……!?」
そこへゾス・サイラさんが虚空から浮かび上がるように現れた。
隣にいるオークボとガッツリ腕を組んで。
「ホホホホホ……、早速一人脱落かえ?」
出てきたゾスサイラさんは楽しそう。
彼女のあんな悪そうな笑み久々に見た。
最近はあくせくしていることが多かったからな。
「おのれ魔女! こんな姑息な罠を!」
「視覚誤認による陥れはよくある手じゃぞ? こんな古典的手法に引っかかる方が間抜けなのじゃ」
「何おおおおおおッ!?」
「あとわらわは元から魔女ぞ。『アビスの魔女』ゾス・サイラというのじゃ。のうオークボよ?」
ますます強く腕に組み付かれて『はい』と答えるのが精いっぱいのオークボだった。
「だが逸るでないわ。わらわは関門の解説に来てやったのじゃぞ」
「解説? この狡い錯覚の罠のか?」
いきり立つ上級コース参加者たち。
いい塩梅で細くなり遠近法に見えてしまうニセ平均台を指さす。
「アレはほんのご挨拶のようなものじゃ。しかしアレのせいで向こう岸へ渡る手段がのうなってしまったじゃろう?」
「む、たしかに!?」
平均台を伝って向こう岸へ渡るのが第一関門『イライラ平均台』の趣旨だったというのに。
その平均台が先細りになって向こうまで届いてないんなら、どうやって渡ればいいのか?
「ここからが本題じゃ。よく見るがいい」
ゾス・サイラさんがパチンと指を鳴らすと、空堀の上にあるものが現れた。
それはブロックだ。
人一人なんとか上に乗れる程度のブロックが複数、空中に浮いている。
「なんだあれはー!?」
「空中浮遊するブロックがいくつも、向こう岸まで続いている!? ……そうか、これは!?」
あのブロック一つ一つに飛び移りながら向こう岸に渡れということだった。
なんかのアクションゲームみたいだな?
「ははは、そういうことなら簡単だ! あの程度ヒョイヒョイ飛び移って即クリアしてくれよう」
「あッ、まだ説明の途中じゃぞ?」
参加者の一人が早速跳躍し、こちらの岸から一番手前にあるブロックに飛び乗ろうとする。
しかしその寸前ブロックは横にずれ、足場を失った参加者は空堀の底へと落ちていった。
「ぎゃあああああああッ!?」
ちなみに底へ落ちても魔法的な処理が施されているので無事です。
失格するだけです。
「慌てん坊は損するぞえ。このブロックはな、わらわの魔法で浮遊しているが、それだけでなく一ケ所に留まらず動き回るんじゃ」
「ええええッ!?」
「規則的に、精々上下か左右に往復するだけなんで安心せよ。落ち着いて動きを見れば捉えられるはずじゃ」
益々アクションゲームみたくなってきた。
「よし、ブロックの動きを見ながら慎重に進んでいくぞ!」
「スタートする前に二人も消えてしまった……!」
さすが上級者向けコース。通常とはまったく趣が違うぜ。
しかし相手もまた経験豊富な上級者なので、趣旨さえ飲み込めば安定してブロックを飛び移っていく。
あっという間に中間まで到達した。
「ようし、残りあと半分! 慣れてしまえば簡単なものよ!」
「あッ、一応言っておくが後半からブロックの挙動が変わってのう」
ゾス・サイラさんの説明が終わる前に踏み出す、一番先頭の参加者。
「ブロックが消えたり現れたりするんじゃ」
「ぎゃああああああッ!?」
踏もうとしたブロックが、その寸前に消えた。足場もなく真っ逆さまに落ちていく。
「うおおおおッ!? よりシビアで鬼畜な仕様に!?」
「ちょっと待って!? 次のブロックが現れる瞬間と、その前のブロックが消える瞬間がほぼ同時だぞ!?」
「これタイミング予想しながら飛び移らないとダメじゃないか! シビアすぎる!」
今度は鬼難易度な昔のアクションゲームみたいになってきた。
それでも多大な脱落者を出しつつ、何とか堀を渡り切った人々。
「疲れた……!」
「キツい。ただの平均台より百倍キツい……!」
トリッキーな動きをするブロックを追うのは、想像以上に神経をすり減らす。
そして次の関門、大岩が転がってくる坂のアトラクションだが……。
「これもわらわが手を加えてな。こちらの操作で坂の勾配を変えられるようにしたのじゃ」
「え!? どういうこと!?」
やはり随行して各アトラクションの解説をするゾス・サイラさん。
その間もずっとオークボと腕を組んでいる。
「とりあえず今の坂角度は五度ほどじゃ。これを十度に変える」
「ぎゃああああああッ!?」
地面が動き、坂が急斜面になっていく。
これどういう魔法を使ったらこんな効果になるの!? と戸惑うところだが、ゾス・サイラさんって思った以上に有能な魔女なのだ。
「次は十度から二十度にするのじゃ」
「ぐおおおおおおッ!?」
「一気に九十度じゃ」
「ぎえええええええええええッッ!?」
「さらに百八十度じゃ」
「あんぎゃああああああああああッッ!?」
ちょっと説明できないぐらいに天変地異になって混乱する参加者たち。
もはや転がった岩がどうこう言う次元の話じゃない。
「第三関門はそもそもわらわの受け持ちエリアじゃからな! 上級向けとしてがっつり強化してあるぞ! 普通コースでは叩けば増えるだけの遊戯用ディープ・ワンを配置しておいたが、なんと! この上級コースには……!」
待ちかまえていたのは、ディープ・ワンと呼ばれる戦闘用ホムンクルス。
……のようにも見える、オークボのようにも見える何か?
「オークボの遺伝子を取り入れて改良した我が最高傑作オークボ・クローン・ディープ・ワンじゃ。わらわの技術が未熟なせいで、オリジナルの十分の一の力も出せんがのう」
仮に十分の一以下だとしても、元がオークボならその力は絶大。
一体で国一つ滅ぼすのは容易だろう。
無論、そこまで到達した挑戦者たちは残らず蹴散らされた。
「「「「「ぐわあああああああああッ!?」」」」」
アロワナさんも第二関門で岩と一緒に転げ落ちていったので、これにて全滅。
上級コースは誰もクリアできないまま終了となりましたとさ。
* * *
……さて、お気づきの方もおられようが。
この上級コース、監修たるゾス・サイラさんの主張が強く出すぎている。
お陰で誰もクリアできない鬼畜難易度になってしまったが、実はそれが狙いだった。
彼女のストレスが度を越えてきていたからな。
逃走犯から宰相に格上げ(?)されて、様々な方面から手腕を求められ、こないだの三種族対抗、新・龍帝城攻略競争でももっとも活躍していた。
そのお陰で多くの負担が彼女に集中していた。
ここらでガス抜きでもしておかないと、どこかで爆発しかねない。
そんな時都合よく開催を控えていたのがオークボ城。
彼女の好きなように暴れさせ、スッキリとストレス解消してもらうには絶好の機会であった。
終始オークボを付き添させて接待漬けにし、全力の罠で無双。
そう、上級コースで楽しんでいたのは、やりごたえのある高難易度に挑戦する参加者たちではなく、実は仕掛ける側の方だったのだ!
高難易度とあらかじめ断っておくことで許されるやりたい放題!
それで全員ゲームオーバーになりながらも納得してもらい、ゾス・サイラさんもストレス解消で明日からの宰相の仕事に打ち込めればいいことづくめだ。
こんな感じで様々な問題を解決しつつ、今年のオークボ城も好評のうちに幕を閉じた。
今回あった主な出来事。
・シルバーウルフさんが冒険者ギルドマスターに就任。
・そして結婚。相手は猫。
・ゴブリンチーム発案の空飛ぶアトラクションが大盛況。
・ゾス・サイラさんが上級コースで無双しストレス解消。
・プラティがタコ焼きをたくさん売った。
・ラーメンと納豆もよく売れた。
・俺、また第二関門(一般コース)で敗退。
・魔王さんは第三関門まで進んだ。
・一般コースでの天守閣到達者はナーガス前人魚王、他多数。
という感じで実り多き祭りであった。
来年もまたやりたいオークボ城。






