548 変身
こうして火蓋が切られました。
S級冒険者ゴールデンバット。
同じくシルバーウルフ。
二人のプロフェッショナルとしての意地と誇りを懸けた一大勝負が。
いや、彼らには軽く競争して場を盛り上げてくれたらそれでよかったんだが……?
盛り上がりすぎて緊張感すらともなっている。
歓声もやみ、皆静かに固唾を飲んでいるじゃないかッ!?
「ちょっとブラックキャットさん!? 大丈夫なんですかねこれ!? ちゃんと適度な賑やかしにしてくれるんですかね!?」
「ダイジョブにゃーん。今日の勝負は冒険者業界の伝説として語り継がれることになるにゃーん」
よくないですよそれ!?
セレモニーが本編食っちゃう勢いじゃないですか!?
「さあ、それでは勝負開始にゃ! レディゴーにゃーん!!」
「開始の掛け声まで勝手に!?」
こうして始まったゴールデンバットvsシルバーウルフの真剣勝負。
二人の意地と誇りと冒険者としての在り方。
一体どちらの主張する冒険者が正しいのかを、この一戦で決める。
……と言わんばかりのガチぶりであった。
「おいやめろ! オークボ城の本戦迎えるまでに皆完全燃焼してしまう!!」
「真っ白に燃え尽きるにゃーん!」
だからそれをやめろと!
そうこうしているうちに選手はスタートラインを踏み越え、コースを爆走。
なんか流れで冒険者の意地を懸けた争いになってしまったが基本としてこれが風雲オークボ城の競技であることに変わりはない。
いつものオークボ城アトラクションを掻い潜り、天守閣まで辿りつくのが彼らに課せられたミッションなのだ。
ここで改めてオークボ城アトラクションをおさらいしておこう。
まずは堀に渡した平均台を渡っていき……。
坂を転がる大岩をよけながら登っていき……。
初見殺しで有名なゾス・サイラさん謹製、叩けば叩くだけ増えていくホムンクルスが待ち受ける部屋。
以降色々と侵入者を迎え撃つ仕掛けが施された、まさに難攻不落のオークボ城なのだが……。
今回のゴールデンバットとシルバーウルフさんの二人も、それらを乗り越えて先にゴールした方が勝ちのはず。
まずはシルバーウルフさんが平均台に乗って、軽快に進んでいく。
「前回と同じ仕掛け! ならば攻略には造作もない!!」
そうだ。
シルバーウルフさんは前回のオークボ城に参加した経験がある。
ドリアンと二人三脚という滅殺級のハンデを背負ってだが、それでも全関門をクリアして天守閣に到達してS級冒険者としての面目躍如をやってのけたものだった。
それだけに今年も用意されたアトラクションはすべて経験済み。
それは幾多の修羅場を潜り抜けたベテラン冒険者にとって、この上ないアドバンテージとなる。
「S級冒険者に一度見た罠は通じない! この勝負、一度この関門を経験した私の圧倒的有利だ!」
平均台を渡りながら勝ち誇るシルバーウルフさん。
下は空堀。それなりに掘られた空堀なので相当に深い。
落ちたらと思うと並の恐怖ではないはずなのだが、そこは一流冒険者。怖いもの知らずでズンズン進んでいく。
「しかし卑怯とは言うまいな!? プロの冒険者となれば、攻略対象の事前調査は基本中の基本! つまり経験の差もそのまま実力の差ということだ!」
既に一般参加者のペースの倍近い速さで関門を乗り越えていくシルバーウルフさん。
今回はドリアンハンデがないだけに、スムーズさも半端ない速さだ。
もう第一関門の平均台を渡り終えてしまった。
「普通に平地を走り抜くのと変わらない速さ?」
「あれぐらい冒険者ならできて当たり前にゃーん」
何故かブラックキャットが誇らしげ。
そんなに自慢したいなら自分も参加すればいいだろうに。
しかし、このエキシビションはあくまで競争の体をとっている。
シルバーウルフさんばかりが急進しても、もう一人と抜きつ抜かれつのデッドヒートを演じてくれないと仕方ないんだが……。
……そのもう一人の競争相手はどうしている?
……いた!
ゴールデンバットはまだスタート地点で……。
一歩も走り出してもいないじゃないか!?
「何やってんだアイツ!? やる気あるのか!?」
俺も主催者側としてオークボ城を盛り上げたいがためにイベントを組んだのだから、この勝負放棄ともいう態度には憤慨だ。
やる気がなければ銃殺刑だぞ!
「……愚かなりシルバーウルフ。だからこそお前は一流を超えられないというのだ」
「何だと!?」
余裕のゴールデンバット。
距離が離れているはずだがよく声が通じるなあ、あの二人?
「お前はいまだに三流冒険者の常識に囚われているから、この程度の有利で得意がっていられるのだ。教えてやろう。オレが何故S級冒険者となり、その中でも最高と呼ばれるのかを」
なんだ……?
ゴールデンバットの体が……メキメキ音をたてながら変わっていく!?
「S級冒険者を構成するほとんどが獣人であることは偶然ではない。……人族の過去の悪行によって植え付けられた獣の因子、それを現代まで受け継いできたオレたちには普通の人族を超えた獣の能力が備わっている」
シルバーウルフさんなら、狼の獣性によって人一倍優れた嗅覚が。
ゴールデンバットはコウモリの獣人ゆえに聴覚に優れ……。
ブラックキャットは猫の獣人として暗闇も見渡せる便利な目がある。
彼らはそのおかげで冒険者の最上級を極めたというが……。
「獣人の力はそれだけにとどまるのではない。鍛錬し、修羅場を潜り抜けることでさらに開花する獣人の領域があるのだ。シルバーウルフ、お前は知らないだろうがな。見せてやろう」
これが……!?
「獣の力を極めた者が使う、『獣性解放』だ!」
ゴールデンバットが変身した!?
強大に、そしてより獣めいた姿に……!?
「なんと! あれが『獣性解放』というヤツにゃーん!?」
「知っているのかブラックキャット!?」
すっかり実況と解説役になっている俺たち。
「私たち獣人は、訓練を積むことで意図的に自分の中の獣を引き出すことができるにゃ! そうなったら体は大きくなり、野性を取り戻すしで普通より数段強くなれると聞くにゃーん!」
ブラックキャット、彼女も獣人であるわりに伝聞調で解説する。
「……キミはできないの? それ?」
「できないにゃーん! 今いる獣人で『獣性解放』ができるヤツなんて一人もいないはずだったにゃーん!!」
え? そうなの?
でもあの蝙蝠野郎は使っているよ?
「昔は使える人がたくさんいたと聞いているにゃが、今になるほど血が薄まって野性に還るのが難しくなったにゃーん。S級冒険者でも使えないはずにゃーん!」
『しかし、オレは使えるのだ』
より獣に近い外見となって、声の質まで恐ろし気となったゴールデンバットが言う。
『これがオレの、幾多もの冒険を乗り越えて得た成果だ。数え切れないほどの純然たる試練がオレを、常識では踏み込めない領域へと導いた。それがこの姿だ!』
ゴールデンバットが生まれ持った獣性は蝙蝠。
その獣の因子を最大限にして、もっとも特徴になるところといえば……。
そう、蝙蝠は唯一自分の力で飛ぶことができる哺乳類ということだ。
『はーはははははは!!』
『獣性解放』で大きく広げた翼を羽ばたかせ、大空へと飛び上がるゴールデンバット。
それを地上から全員が見上げる。
俺も、観客たちも、そして対戦相手であるシルバーウルフも。
『わかったか!? これがオレの、ナンバーワン冒険者になれた理由だ! 蝙蝠の獣性を最大限に活用できるオレは、大空をも自由自在!』
彼は、通算で歴代最高数の新ダンジョンを発見してきたというが、アレを見て納得だった。
翼があって空から探せば、地上からは見えないものも容易に発見することができる。
そうすることで誰にも破られない記録を打ち立ててきたのか!?
そして……、その力を今見せつけるってことは……?
「あああああああッ!?」
そうだ!
平均台も、岩が転がる坂も、無限増殖ホムンクルスも、空を飛んで飛び越えられたら全部無力じゃないか!
そうやってすべての関門をかわして、真っ直ぐ天守閣に到達するつもりか!?
「昔のファミコンの裏技みたいな攻略法を!?」
「ズルいにゃーん! 正々堂々勝負するにゃーん!!」
抗議の声も、空飛ぶ蝙蝠野郎にはどこ吹く風。
『正々堂々? 持てる手段のすべてをもってダンジョンを攻略するのが冒険者の正々堂々だ。己の獣因子を最大限解放できるなら、それを用いてダンジョン攻略に役立てるのも当然のこと』
「まったくその通りにゃーん!!」
同業として論破されたブラックキャット。
『むしろ「獣性解放」を使えないことで窮地に追い込まれたシルバーウルフが悪いのだ。オレは、自分以外でこの領域に入ることができるのはアイツぐらいのものだと買っていたのに。そうはならなかった』
それはシルバーウルフさんが、ギルドへ奉公したり、後進の指導に力を入れたりで自分自身の冒険者活動が疎かになることもあった。
その差が今、明確に現れている。
『お前は無様に犬のごとく、地面を這って進むがいい。オレはその間に遥か先へと飛んでいくがな』
天空から降りてくる声に、反論できないシルバーウルフさん。
いやそれ以前に、いいわけないだろそんな反則技!
禁止! 空を飛ぶのは禁止です!
皆出あえ! あの蝙蝠を打ち落とせ!
競技の健全な運営のために!






