546 三度、風雲オークボ城
「風雲オークボ城! 今年も開催です!!」
宣言と共に拍手が巻き起こる。
もはや我が農場、冬の風物詩ともなっているアレ。
まあ開催場所は農場の外だけど。
今を去ること二年前……だっけ? オークたちの願望から始まった築城作業が、いまや地域を巻き込むイベントに。
基本的に設置されたアスレチックを突破し、天守閣へ辿りつくことを目的とした競技だ。
平均台を渡ろうとする選手をクッションカタパルトで狙い撃ちして落としたり。大きくて丸い岩を坂の上から転がして押し潰したりと楽しい仕掛けが目白押し。
去年などはアクシデントから一時開催が危ぶまれたが、今年はさしたる問題もなく開催されそうなので冬に入ってすぐさま準備に入ります。
「オークボ城も三度目の開催となり、益々好評を博しています。そこでさらなる新企画を取り入れることでさらなる飛躍を図っていきたいと考えています」
そこで目玉としてこの方たちの協力を取り付けた。
「S級冒険者の人たちです」
シルバーウルフさん。
ゴールデンバットさん。
ブラックキャットさん。
ピンクトントンさん。
ブラウン・カトウさん。
錚々たる面子が企画会議に席を並べております。
去年の風雲オークボ城、S級冒険者であるシルバーウルフさんが電撃参加することで会場は大いに盛り上がった。
あの時の体験を活かし『一人であれだけ盛り上がるんなら、五人呼んだらとんでもないことになるんじゃね?』という発想の元、S級冒険者の全員参加を目指してみた。
幸い交渉が上手くいって、無事快諾を取り付けることができた。
「交渉……? あれが……?」
シルバーウルフさん疑問に思ってはいけない。
たしかに博士まで出てきて何事かと思ったが、お陰でよりスムーズに説得が進んだ。
ダンジョン探索大好きゴールデンバットさんとブラックキャットさんは、今年のオークボ城協力と農場に関する情報秘匿を条件に、先生とヴィールのところのダンジョンに入れる権利を得たという。
ピンクトントンさんとカトウさんも順次快諾を表してくれた。
「あの……、私の承諾は?」
「え? シルバーウルフさんは協力してくれるでしょう?」
「するけど……!」
なら問題ないじゃないか。
というわけで今年の風雲オークボ城は豪華。
S級冒険者による全面協力が実現だよ!
「あわわわわわわわ……! S級、S級冒険者……!?」
その様に震えるのは、オークボ城開催地の領主として企画会議に出席くださっているダルキッシュさん。
「大丈夫……!? 大丈夫なんでしょうか!? S級冒険者と言えば人間国を代表する英雄。民からの憧れは、王族をも遥かに凌ぐと言います……!」
「そのS級冒険者が一堂に会したら、反響も大きいことだろうね」
「大きすぎて飛んでもないことになるかとッ!?」
ダルキッシュさん、絶叫。
そこまで凄いことなんでしょうか?
「S級冒険者の全員集合なんて、冒険者ギルドの式典でもなかなかないことですよ!!」
「どっかのアホが徹底して行事から逃げ回るからな」
シルバーウルフさんがぼそりと言った。
「これ参加報酬一人いくらかかるんです!? ギルドにも許可とってあるんですか!?
魔族側に決起集会か何かだと誤解されたらどうするんです!? それくらい面子が強い!!」
「落ち着いて、落ち着いて……!?」
しかしダルキッシュさんがここまで動揺するくらいだから、きっとお客さんも驚いてくれることだろう。
俺は成功の確信を深めた。
「領主殿、買い被ってはいけません」
今やS級冒険者の良識派としての地位を不動としたシルバーウルフさん。
「いかに階級を誇ろうと、結局のところ我々は冒険者。その日暮らしの無宿人でしかない。世の人々から尊敬を勝ち取る職業などではありません」
「何をおっしゃる! アナタたち冒険者が日々ダンジョン内のモンスターを駆除し、その素材を持ち帰ってくれるからこそ我々は日々を平和に、より豊かに暮らしていけるのではないですか! 私は領主として、アナタたちの活躍にいつも感謝しております!」
「恐縮です」
「しかし全冒険者の頂点に立つお一人がここまで謙虚でいらっしゃるとは……。S級冒険者への尊敬の念が益々湧きました。我が領を代表し、どうかこれからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。領主様の後援なくして冒険者の活動はままなりません」
互いに頭を下げ合うシルバーウルフさんとダルキッシュさん。
それを見詰める全員が思った。
――『これが大人の付き合いってヤツか……!?』と。
領地とかギルドとかを背負うと、どうしても自分勝手な発言ができずに最大限の配慮を持った言葉の選び方になってしまう。
領主であるダルキッシュさんはともかく、実力至上主義の冒険者の中でもああした配慮あるシルバーウルフさんはただ者ではなかった。
「フン、無駄な知恵を養いおって……!」
不機嫌そうなゴールデンバットの呟きは誰もが無視し、話しを進める。
「報酬は聖者様から頂いておりますので領主様は心配いただく必要は一切ありません。ギルドの方にも私から話を通しておきましょう」
「ですが……?」
「重ねて心配はいりません。こう考えてはどうでしょう。出てくるのが我々で、むしろ軽い方だと」
「は……?」
「別に不思議ではありません。聖者様の関係者には、我々などよりよっぽど物凄い存在がたくさんおられるのですから。たとえば……」
シルバーウルフさん、一旦溜めて……。
「ノーライフキングの先生が出演されるとしたら、どうでしょう?」
「……ッ!?」
言われた途端、場が静寂に包まれて……。
『ゴクリ』という生唾飲む音だけが響く。
「……たしかに、とんでもないことになりそうですな」
「それに比べれば我々S級冒険者の方がまだマイルドに済ませられると思いませんか?」
「わかりました、受け入れましょう」
二人は落としどころを見つけるように同意した。
でも、ここで言うべきだろうか?
今回既に、先生はゲスト出演が決定しているということに。
だって折角のイベントに先生だけ出れないんじゃ仲間外れになってしまうからな。
そのことを……、よし、今は伝えないでおこう。
だってサプライズって大事じゃない。
こうして色々と決まるべきことが決まっていき……。
「では今回のオークボ城でS級冒険者様たちに参加いただくとして……具体的にはどのように関わっていただきましょうか?」
「普通に競技に参加するんじゃダメなの?」
「それじゃ面白くないにゃーん! 普通にやったんじゃ簡単に優勝してしまうにゃーん!」
そういうものか。
まあ、全冒険者の頂点に立つ最上級冒険者だからな。
ただ圧倒するだけじゃゲームは盛り上がるまい。
「じゃあ、どうする? 去年のシルバーウルフさんみたいにハンデつけとく?」
「だからアレはガチに殺しに来る手法であってハンデとは言わない!!」
「あ、いいこと思いついたにゃん!!」
色々ブレインストーミングしていたところ、ブラックキャットさんがS級冒険者の一人として発案する。
「液ビショビション・マッチョするにゃあ!!」
「エキシビションマッチ?」
間違え方が狙ったかのようであるが、俺もよくそこから正解を導き出したな。
エキシビションと言うのは、模範演技。
公式な試合の前に、見本とか余興とかの意味合いで見せるものだったはず。
「私たちが素人に交じってガチ競技したら大人げないばかりだけれど、損得切り離して『余興』という形で本気のプレイを見せつけたら盛り上がるはずにゃ! プロの技を見せてやるにゃー!」
「なるほど、それはよさそうだな」
せっかく一流冒険者に出てもらうんだから、ハンデありの制限されたパフォーマンスより本気の本気を見せつけた方がお客さんも喜ぶはずだ。
S級冒険者の皆さんも、別に賞品目当て(オークボ城で全関門制覇して天守閣まで辿りついた参加者には賞品が贈られます)でやるわけでもなし。
それならばエキシビションで盛り上げに専念した方がいいよねッ、という話だ。
「よし! それ採用しましょう! S級冒険者によるエキシビション競技を敢行する!!」
「ちょっと待つにゃーん。話は最後まで聞くにゃーん」
何でしょうブラックキャットさん。
まだ付け加えたいことでも?
「せっかくだから対戦カードを絞るにゃん。S級全員一斉にもいいけど、もっと選りすぐった方が盛り上がるにゃん!」
と言いますと?
「ゴールデンバットvsシルバーウルフの一騎打ちにゃん! S級冒険者のナンバーワンを決める戦いに盛り上がりは確実にゃん!!」






