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53 魔法とは

 こうして魔王夫妻を迎えた我が開拓地だが、魔王さんホントに帰らなくていいの?

 部下の人たちが心配するんじゃないの?

 と何度となく聞いてみるが、魔王さんの返答はいつも大らかだ。


「いいのさ、ヤツらもたまには、我の見ていないところで羽を伸ばしたかろう」


 浮かべる笑顔が黒いのは、俺の気のせいだと思いたい。


 さて魔王夫妻は、みずからをお客様と弁えず、我が開拓地での作業に率先して参加した。

 魔王さんは、みずから鍬を振るって農作業に従事し、俺やオークボたちと一緒に窯作りに勤しむ。

 魔族の長にこんな肉体労働させていいものかと不安だったが、当人は「よい汗が流せる」と充実していた。


 一方新妻のアスタレスさんの方は、零落時期同様畑仕事と狩りを半々にこなしつつ、俺について料理の勉強。

 やはりあの若さで四天王とか要職に就くだけの才能があるらしく、調味料の扱いもすぐさまマスターしてしまった。


 調味料自体ここでしか作られないので、ここから離れちゃうと意味ないと思うんですが……。

 ああ、ここから購入する予定なんですね。

 毎度ありがとうございます。


 いつかは魔族の本拠に戻り、為政者の道を共に歩んでいく予定の二人。

 しかし今は、少しの間だけそれを忘れ、二人で営む生活を楽しんでいるかのようだった。


 ただし、魔王夫妻としての務めをまったく忘れているわけでもない。


 時折、仕事の合間に魔王さんとアスタレスさんが、並んで先生から何かしら講義を受けているのを見かけることがあった。


 千年以上を生きるノーライフキングの先生は、比喩でも何でもなく生き字引。

 この世界の謎の大抵を脳中に収め、学ぶことは多い。

 当然のことながら使う魔法は強力だし、色々なものを乞うて教えて貰っているらしい。


 …………。

 アンデッドの王の指導を受けている魔王って、字面だけでも最凶じゃないですかねえ?


 俺も感化されて、机を並べて授業を受けるようになった。この世界の歴史とか一般常識を修めるにはよかったが、魔法の修行はさっぱりだった。


 俺が神様から贈られたギフト『至高の担い手』は、魔法には作用しないらしい。

 魔法の杖とか魔導書とかあれば、その性能を充分以上に引き出して魔法の達人になれるのかもしれないが、この世界の魔法は、そうした補助は一切使わず自力でやるものなのだそうだ。


『魔法には、大きく分けて三つの系統があります』


 先生が、俺のレベルに合わせて超初歩レベルの講義をしてくれた。

 他の人は全員知ってる一般常識なので、まあ恥ずかしい。


『魔族が使う魔術魔法。人族が使う法術魔法。そして人魚族が使う薬学魔法ですな。他にも色々な種類の魔法がありますが皆すべて、この三種のいずれかより枝分かれした亜種になります』

「一番大きな違いは、どの種族が使うかってこと?」

『そうですな。相性があって、違う種族の魔法を学んでも使いこなすのは非常に困難です。恐らくは加護を受ける神の違いだろうと言われます。魔法もまた、それぞれを守護する神や精霊との交感によって顕在化いたしますからの』


 人族はゼウス。

 魔族はハデス。

 人魚族はポセイドス。


 こないだその一人と直に会ったばかりなので、実感が半端ない。


『無論、各種の魔法によって特色が大きく違います。もっとも出来ることが多く。効果の種類が多岐にわたるのは魔族の魔術魔法です』

「魔族を守護する冥神ハデスの眷族神が多い上に、精霊の類とも交感できるからな。地の神でもあるハデスから見て、地上の精霊たちも下級の眷族なのだ」


 魔王さんが補足説明してくれる。


『それに対して人族の法術魔法はかなり限定的です。魔族ならば訓練次第で誰でも魔術魔法が扱えるのに対し、人族は僧や神官など、一部の聖職者しか魔法が使えませぬ』


 使える人員だけでなく、効果も色々限定らしい。


『魔族の魔術魔法は攻撃や補助、日常生活にまで多岐に渡って有効利用できますが、人族の法術魔法は、術の数自体が少なく、出来ることも限定されます』

「出来ることが少ない、ってこと?」

『そうです』


 たとえば……、とまた魔王さんが補足説明した。


「我ら魔族が、聖者殿の住まわれるこの場所を発見できたのは、魔術魔法の一種である千里眼魔法を使ったからだ。冥神ハデスの眷族神、死後の裁きに携わるアイアコス神の助けを借りて行使する魔法だな」

『それを使えば一つ所にいながら世界中のいかなる場所をも目の前のことのように眺めることができると言います。まあもちろん無制限ではなく、術者の力量が大きく影響しますがの』


 なるほど。

 魔族はその術で、ここに暮らすプラティを発見、アスタレスさんを送り込んできたのか。


「人族の魔法ではそういうことはできないの?」

「然り、だから人族がこの場所を見つけてやってくるということはまずあるまい」


 それを聞いて安心することにするか。

 ただでさえ魔族さんを相手にわやわやしている時に、人族まで押し掛けてきたら厄介だしな。


『という感じで、魔族の魔法にできて人族の魔法にできないことはとても多いのです。その代わり、人族の法術魔法には人智を超える壮絶な術があります』


 たとえば勇者召喚の魔法。

 俺がこの世界に呼び出された術か。


「時空を捻じ曲げて別世界を繋げるのだから凄いと言えば凄いが……。それがどう役立つのかは使い手の知恵に依存するところが大きいな」

『法術魔法はそういう傾向が強いのです。使い手である人族を助けることよりも、その力の元となる神の権威を示す方を重視されているというか……』


 なんすかそれ?


『ちなみにワシのように尋常の生命を捨てれば、法術魔法でも魔術魔法に匹敵する万能性を獲得することができます。ノーライフキングの使う魔法も生前の種族そのままですが、結局高じればどれも変わらぬものとなりますな』

「それは頂点を極めた者だけが言っていいセリフですな」


 先生と魔王さんが一斉にハハハと笑い出した。

 レベルの高い会話だ。


『最後に人魚族の使う薬学魔法ですが、これは当人に説明してもらった方がいいでしょう』

「え? アタシ?」


 一応、最初から一緒にいたプラティに振られる。


「人魚族の使う薬学魔法は、魔法薬を作るための魔法よ。他の魔法ともっとも違う点はそこね」

『薬学魔法の効果は例外なくすべて魔法薬によって発揮されますが、それ自体は魔法ではありません。魔法薬を作る。それこそが人魚たちの魔法なのです』


 ややこしい。


「人魚は魔法薬を作る時に、魔力を薬に混ぜ込む。それが薬学魔法になるの。魔法薬作りには当然材料となる薬草が必要だけど、それを揃えて調合法もわかったとしても、人族や魔族に魔法薬は作れないのよ」


 肝心の薬学魔法を人魚しか使えないから。


「何故そんなややこしい仕組みを持った魔法を海神ポセイドス様が人魚に与えたのかはわからない。海中という環境上その方が都合がいいからとか、簡単に力を扱えて傲慢になることを防ぐためとか色々説はあるけど、真実はご本人に聞いてみないとわからないわね」

『召神するか?』

「やめて!!」


 先生、こないだハデスを呼び出してから神様召喚にハマった?

 大事になったら嫌なので極力止めることにしよう。


『まあ、そのような感じが魔法の基礎講座ですな。聖者殿の知識探索に役立ったのなら幸いです』


 うん、俺覚えた。

 すぐ忘れそうだけど。


 じゃあ勉強はこれぐらいにして畑仕事に戻るか。


「ちょっと待て!!」


 と思ったらヴィールが乱入してきた。


「まだ肝心なことを講義していないじゃないか! おれたちドラゴンの使う竜魔法を! ご主人様に説明!」

『おぬしらの使う魔法は何でもありすぎて説明し辛い……!』

「ドラゴンという種族自体が他種族にとって謎だらけなんだよな……!」


 先生も魔王さんも、ヴィールに迫られ困り顔だ。


「役立たずめ! じゃあいいおれが直々に説明してやる! 聞いてくれご主人様! 俺たちドラゴンの使う最強魔法! 竜魔法の凄さを! そしておれを見直してくれ!!」

「そろそろ畑仕事に戻らなきゃ……!」


 よく学び、よく働く。

 それが大事だよね。

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