535 三人が気苦労
えー、一同を代表して……。
S級冒険者のシルバーウルフだ。
竜の皇帝ガイザードラゴンが支配するダンジョンを攻略中。
しかも別陣営と事実上の攻略競争下にある中、その競争相手とダンジョン内でかち合ってしまったようだ。
魔族チームと……、人魚族チームであったか。
まさか一挙に会することになろうとは!?
しかし異変と言えば異変めいたことには……。
遭遇した別チームは各自一人ずつしかいなかった。
「仲間たちはどうした?」
たしか同時にダンジョンに入った時にはそれぞれ三、四人はいたよな?
それが一人ずつしか残っていないということは……!
「脱落したか」
「煩いのう! お前らだって随分減っておるではないか!?」
どうやら図星を突いてしまったらしい。
この随分怖そうな外見の人魚……、これぐらいの猛者でないと生き残ることはできなかったんだな。
やはりどのルートで進んでも竜のダンジョンは恐ろしく困難らしい。
「フン、結局のところ素人が舐めてかかればこういう結果になるのだ。ダンジョンを甘く見たな」
と上から目線全開で語りかけてくるのは我がチームのゴールデンバットだ。
おい、やめろ。
「ダンジョンは、危険とロマンが溢れた聖域。それに全力を懸けて挑むのは冒険者にのみ許された聖業だ。なにしろ冒険者はプロだからな。アマチュアは分際を弁えてすっこんでいるべきなのに、遊び半分でいるから怪我をする!」
「なんだとー!?」
ホラ挑発的な言い方をするから相手もケンカ腰になる!?
「我ら魔王軍がアマチュアで遊び半分だと!? 魔国の守護を担い、人間国を討ち滅ぼして今や地上最強の軍となった魔王軍を、冒険者風情が貶すか!?」
「ダンジョンにはダンジョンの流儀がある。地上の概念をそのまま持ち込むから魔王軍はダメなのだ。無駄な足掻きなどせずに魔国すべてのダンジョンを最初から、我ら冒険者にゆだねればいいのだ」
「何だと貴様!?」
やめて!
こんなところで言い争いしないで!
ヤバくなりそうなこの状況で止められるのは私以外いなかった。
「どちらの主張が正しいかを決めるのがこの勝負だろう! ならば勝負の途中で言い争いなどせず、勝負に集中すべきではないか!?」
「そうだな」
あれッ?
魔王軍の人、意外なほど素直に引いてくれた?
どういう心境なのだろう?
自分の所属する集団のメンツのために噛みつかざるを得なかったが、大事にもしたくないので制止されるのを待っていたというか?
だとしたら、この魔族にも相当な苦労性が感じられる……!
「我ら魔王軍の強さは、勝負の中でしっかりと示す。この魔王軍四天王の一人『貪』のマモルが!!」
「威勢がいいのはまるでF級の半人前のようだな。自信と実力が均衡していない」
こらぁ!
ゴールデンバットくんいちいち挑発するな!?
「すみません! アイツはああいうヤツなんです! 犬が吠えてると思って聞き流してください!!」
「犬はキミなのでは?」
「何だとぉ!?」
このシルバーウルフに対して言ってはならんことを言ったなあ!?
ぶっ殺すぞ貴様ぁ!?
「す、すまんあまりにツッコミどころだったものでつい……! いや、冒険者の中ではキミの方があっちのマント男より遥かに話せるのはたしかだな。失礼した」
マント男とは、ゴールデンバットのことだね?
そしてこの魔族、やはり話のわかるタイプと見ていいな。
無駄に争う気もないが、自陣の気分も考えて表向きだけでも対立のポーズをとっておかないと……、という気分が窺える。
色んなところに気が回りすぎて余計な苦労をするタイプと見た。
凄く親近感を感じるぞ!
「とにかく、ここで互いにいがみ合ってて何も進まんのはたしかじゃ」
怖い外見の人魚が言う。
しかし怖いのは外見だけで、実は話してわかるタイプではないか?
「どっちにしろこのダンジョンをクリアするかリタイアするかでしか状況を脱することはできんのじゃ。ならば全員それに集中した方が有益じゃろ。わらわも一刻も早くここから抜け出したいわ」
「そうだな……!?」
どうやら、ここまで生き残った者たちだけに、彼らは相当な分別があって話が通じる相手だ。
そこで私は妙案を思いついた。
「どうだろう? ここからはここにいる全員で協力して進まないか?」
「何ッ!?」
「何じゃと!?」
驚いている。
「本来ダンジョン探索というのは複数人のパーティで行うものだ。大体四人前後の単位でな。ダンジョンのソロ攻略など無謀。お前たちも最後の一人となって進み続けるのは危険が過ぎる」
であれば、ここは敵と言えども協力し、臨時パーティを組んで進む方が得策ではないか?
「しかし……! 互いの優劣を競い合うというイベントの趣旨にそぐわぬのでは? 協力してクリアしたら勝ち負けなど決まらないだろう!?」
魔族の一人が真面目にもスジ論を展開する。
対して人魚さんの方は……!?
「わらわはかまわんぞえ。どうせ一人だけでこの先進むのは無理かなーと思っとったんじゃ」
「ええッ!?」
「元々勝負などわらわには関係なかったし、しかしギブアップはさすがにプライドが許さん。というわけで勝率が上がる方法は大歓迎じゃ」
「うむ……、むしろ他種族と協力して乗り越えるさまを見せた方が融和のメッセージとなり、冒険者を受け入れやすくなるか? 魔王軍としてのメンツも保ちつつ冒険者の実力も認め、おまけに人魚族の存在も好意的に受け止め……!?」
魔族の人がガンガン計算を進めている。
「よし、不本意ではあるが、その案乗ってやろう」
「というていですな?」
「そういうこと」
なんか短く話していくうちに考えが通じ合うようになってきた。
軍隊は常に対面を気にしないといけないからな。
「私はS級冒険者のシルバーウルフ」
「魔王軍四天王『貪』のマモル」
「『アビスの魔女』ゾス・サイラじゃ」
互いに名乗り合って、種族間を超えた臨時パーティが成立した。
何故だろう不思議だな?
最初のS級冒険者大結集のパーティですら充分夢の組み合わせだったが、今組んだ俄か仕込みのパーティの方がよっぽど心強い感がある。
気持ちが通い合っているというか。
このパーティなら最後まで戦い抜けるという安心感があるぞ!!
「いや、オレはお断りだが」
そこへ介入してくる異分子!
ゴールデンバット。
「ダンジョン攻略など、オレ一人で充分可能なのに何故異種族なんぞに頼らなくてはならない? 勘違いしているぞ。ダンジョンは一人の力で攻略してこそ意義があるのだ。パーティなど邪道だ」
煩いソロ信奉者。
お前がパーティ組めないのはただ単に人望がないからだろうが。
「シルバーウルフだってダンジョンに入る時はソロだろう。ソロ攻略こそ最上級者のスタイルなのだ」
「私は基本パーティで入るわ。ソロでやることもあるけど、あくまで息抜きの時だけだ」
でも結局ソロ攻略の時こそ到達階数新記録を出したり思わぬお宝ゲットしたりするんだけどね。
仕方ない。
一匹狼の本能が根差しているのだ。それと同時に狼は群れをつくる動物だからパーティを組むのも仕方のないことだ。
我ながら矛盾に満ちた獣性を背負ってるなあ!
「オレはこのダンジョンを心底満喫するためにも少数精鋭を所望する。オレについてこれる猛者はシルバーウルフお前だけだ! くだらん馴れ合いはやめろ!」
「煩いなあ! だったらお前一人で進めばいいだろう!?」
むしろ三種族で協力して進むことに融和的意義を見出しているんだから、これからの時流を考えてもいいことじゃないか!
お前もS級冒険者なら、そういうところにも気を回せや!
「まあまあ……!」
「大丈夫じゃ、お前の方が人族の相対的意思だと信じておるからな……?」
ほら!
むしろ他種族の人たちが率先してフォローしてくれているじゃないか!
私は今まで誤解していたのかもしれない! 魔族や人魚族の方がよっぽど他人に対する気遣いがいいではないか。
「いや、むしろ私以外の魔族は誰も気遣いしてくれないというか……!?」
「おぬしと出会えて人族も捨てたもんじゃないと思えてきたぞー? 半分ワンちゃんじゃけどなー?」
とにかくこれで我々はもっと先に進むことができる!
最終パーティ完成だ!






