534 三者三揺
はい。
魔王軍四天王の一人マモルです。
またの名を『影からマモル』。
我がチーム最高戦力ベルフェガミリア様が早々にリタイアし、大ピンチに。
あの方の超絶能力なしに一番偉い竜が住むというこのダンジョンを攻略できるのか!?
「情けないですよマモル殿!」
というのは四天王の一人『妄』のエーシュマ。
「ベルフェガミリア様一人に頼ってばかりでは、それこそ四天王の名折れ! あの方がおらずとも四天王は最強無比であることを知らしめるチャンスと捉えましょう!」
純粋だなあこの子!
そしてこの純粋さがトラブルの元にもなる!
「まずは並みいる敵をなぎ倒して進みましょう! 獄炎霊破斬!」
ちょっと飛ばしすぎじゃないですかね!?
大技連発して最後までもつの? 途中でバテたりしない?
「死んだー」
「それ見たことか!!」
即座に魔力切れを起こしてスタミナ切れした。
無計画に魔法を使いすぎるから!
「仕方ありません……、ここは皇帝竜のダンジョンだけあって出没するモンスターも凶悪。難易度は間違いなく星五つでしょう……」
「レヴィアーサくん!?」
「むしろ全力を出さねば先に進めない。エーシュマの好判断と言えます……」
たしかに、エーシュマが全力ぶっ放してきたからこそ我々は消耗せずに進むことができたのかも。
お陰でノーライフキングの先生が担当するエリアは無事越えることができた。
『面倒くさい』さえ言わなければ本当にただモンスターがクソ強いだけの何の変哲もないダンジョンだった。
「あのエリアを抜けられたのも、すべてはエーシュマのおかげです。しかしそのために彼女は全魔法力を出し切ってしまった。もう先には進めないでしょう……」
「そうだな」
「しかし功労者である彼女を置き去りにはできません。私は彼女を連れて脱出しようと思います。彼女のことは任せてください」
「そうか」
「あとのことはマモルさんにお願いします。魔王軍の誇りに懸けて、必ず踏破してくださいね」
「わかった」
……。
レヴィアーサくんさあ……。
エーシュマの看護にかこつけて早引きしやがった!?
くっそ!
途中から魂胆に気づいてはいたが、疲労人をいたわるという理論武装を盾にされては突っ込みもできなかった!!
ああいう形で有能さを発揮しやがって!
どうせ有能さを示すんなら、組織に貢献する形でしてほしいんだが!
……しかし、ああこれで……。
四天王チーム私一人になってしまった!?
たった一人!? 一人でこの先に行けるの!?
非常に不安だがしかし、私の働きに魔王軍の行く末がかかっていることだし、先代ラヴィリアン様のやらかしを帳消しにするためにも、たった一人になったって何としてでも竜王ダンジョンを踏破しなければ!!
* * *
S級冒険者のシルバーウルフだ。
ノーライフキングの博士が統括するエリアで、仲間を二人も失ってしまった。
いや死んでないけれど。
どうせ今も軽快なリズムに乗って踊ったり、激臭にフレーメン反応起こして遊び倒していることだろう。
そして、生き残ったのは二人。
私と、そしてS級冒険者のゴールデンバットであった。
「情けない連中だな」
ゴールデンバットは、今現在S級冒険者の中でも最高の腕前を持つと言われている。
蝙蝠の獣人としての鋭敏な聴覚だけでなく、すべての能力が他を圧倒しているからだ。
戦闘能力、踏破能力、知力、しぶとさ、どれをとっても他の追随を許さない。
ヤツと同じS級冒険者の肩書きをとった私ですら、コイツと並べられることで何度劣等感を味わったか……。
「まさかここに来るまでで五人から二人に減ってしまうとは。あのような連中がS級などと、ギルドの基準は緩くなったのではないか? なあシルバーウルフ?」
「何故私に聞く?」
「お前はギルドと仲がいいからな。どうせ新しいS級を選出する時にも意見を求められているのだろう?」
逆にお前はギルドと完全に没交渉だよな!?
S級たる者、冒険者たちの頂点に立つからには業界全体に貢献しなければならない。
後進を育て、ギルドとも連携して冒険者という職種そのものを守らなければ。
という意義もS級冒険者にはあるんだが、お前がその辺まったく放棄するためにしわ寄せが全部こっちに来るんだけど?
「オレはオレのために冒険者となったのだ。他人のことなど知るか。むしろ他人に奉仕するために優れた者の才能が浪費される。そのことこそ冒険者業界全体への害ではないか? どうだ?」
「どうだと言われても……!?」
「お前だからこそ言っているのだ。星の数ほどいる冒険者だが、このオレに迫るほど優秀な冒険者はシルバーウルフ。お前だけだ」
「はー?」
「他のS級など所詮名ばかりにすぎん。このダンジョンでオレとお前以外脱落してしまったのがいい証拠だ。お前もオレを見習って自分のために冒険するんだな。それが本当に優れた冒険者のあるべき姿だ」
一度も勝てない相手から言われても、あんま心が動かんのだけれどなあ。
私がS級にまでなれたのは、自分の才能だけではなく多くの人の援けがあったからなのは事実だ。
だからこそ恩返しのためにも今度は自分ができる限り援ける側に回りたい。
……って言うとまた『群れを作る犬の根性』とか揶揄されるので言わないけど。
とにかく私のように他人に頼って強くなれた私には、一人で何でもできるゴールデンバットのようなヤツは超苦手なのだ。
そんなのと二人きりで進む……!
胃が苦しい……!?
* * *
『アビスの魔女』ゾス・サイラじゃ。
なーんか虚しくなってきたのう。
わらわのう、魔女とか呼ばれてそれなりに傾いていたつもりだったんじゃ。
『禁忌を侵す者』『異端の魔法薬使い』とか言われての。
わらわ自身、そう言われて悪い気はしなくてのう。
周囲からの印象に合わせてワルな自分を演じとったのかもしれんわ。
というのを、あのガラ・ルファを見て思い知ったわ。
マジもんのヤベーヤツってああいうのを言うんじゃな。
当のガラ・ルファはどうしたかって?
さすがに自分の敷地内で世界滅亡生物を拵えられたのにキレたのか、ドラゴンによって没収されていきおったわ。
――『何やってるのよアンタ! さすがに失格です! ルール違反です!』
って言ってボッシュートしていきおった。
連れていかれざまガラ・ルファは……。
――『違うんです! ちゃんと止める手段があったんです! だから落ち着いていたんですよおおおッ!?』
と弁明していきおったがな。
――『私はマッドじゃありません! そう仮にマッドだったとしても、マッドという名の淑女ですよおおおおッ!!』
とも言っておった。
わけわからん。
しかしまあ、本物を目の前にしたらフェイクなんぞ一挙に霞んで散り去ってしまうもんじゃなあ、とも思った。
思えばわらわ、若い頃はシーラ姉様に振り回されて過ごし、農場の連中に出会ってからはプラティのヤツに振り回されて過ごし、愛弟子のパッファが人魚王妃になってからはアイツに振り回されて宰相なんぞに就任して……。
振り回されてばかりの人生じゃあるまいか!?
こんなヤツがよくまあ禁忌の異端のだと粋がっておれたもんじゃ。
ふッ……。
わらわって自分では気づかないだけで、ただ単に面倒見のいい女だったんじゃな。
世界を引っくり返す研究より、宰相でもして世界に貢献した方がお似合いじゃわ。
さーって、どうするかのう?
気づいたらダンジョンに潜る人魚組はわらわ一人になってしまったし。
単独でこれ以上の攻略はさすがに無理じゃろう。
所詮凡人じゃからなわらわ。
あー、かといって人魚宰相の肩書きを貰っておる以上、無様な終わり方はできんしのう……。
ギブアップとかもっての外じゃし、どうしたら……。
「ま、とりあえず進んでみるかのう」
体育座りをやめて立ち上がり、進むのじゃわらわ。
ガラ・ルファのゴタゴタで、あの黒竜が守るエリアもなし崩し的に突破できたし。
まあ、行けるとこまで行ってみるかの。
* * *
「あ」
「あ」
「あ」
そして集った、選ばれし者たち。






