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521 無垢のダンジョン

「ウチのダンジョンを……勝負の場に?」


 そういう目的でアレキサンダーさんは農場を訪ねたのか。


 魔族と人族のダンジョン勝負。

 攻略競争なら、どちらの領内にあるダンジョンかで不利有利の不均衡ができてしまう。

 どうしてもな。


 それならば両族どちらも入ったことのない未踏ダンジョンで勝負するのが一番公正というわけだが、そんなダンジョンが都合よくあってたまるかという話だった。


「しかしある。ここのダンジョンだ」


 我が農場の近くにも、ダンジョンはある。

 ノーライフキングの先生、ドラゴンのヴィール、それぞれの支配するダンジョンが二つも。


 それぞれ立地の都合上、農場の住人しか利用しないダンジョンだ。

 冒険者ギルドにも魔王軍にも管轄されず、人知れぬダンジョンと言っていい。


「これこそ公平な勝負の場に相応しいダンジョン。そうは言えまいか? 全人類の未来のため、聖者度には、このどちらかのダンジョンの使用を許可してほしいのだ」


 全人類の未来のために甲斐甲斐しく動くドラゴンもこれまた珍しい。

 アレキサンダーさん、きっと誰かに言われるまでもなく率先して動いているんだろうなあ。


「俺でお役に立てることなら喜んで協力させていただきますが……」


 時には社会貢献もしないとな。


 我が農場の周囲にあるダンジョンの、主はあくまで先生もしくはヴィールだが。

 俺にできることはあの二人に渡りをつけて許可を要請することぐらい。


 それでも先生はいい人だし、ヴィールもイベント大好きなタチだから快諾してくれることだろう。


 しかし、俺の脳裏にはまったく別の、ある恐れが浮かんでいた。


「ウチのダンジョン、魔族や冒険者も使ったことありますよ?」

「え?」


 アレキサンダーさん、めっちゃ意外げな表情。


「本当に?」

「本当です」


 たとえば魔族の四天王エーシュマやレヴィアーサが、一時期この農場に住み込んで修行していた時期もあったし、その時は各ダンジョンに潜ったりもした。


 また、いつだったか農場留学生の指導のためS級冒険者のシルバーウルフさんが特別講師として招聘されたこともあったなあ。


「授業のためにダンジョンに潜ってましたし、また自分の趣味でも潜ってましたねえ」

「そうだった……! アイツを紹介したの私ではなかったか……!!」


 自分の迂闊さを責めるように頭を抱えるアレキサンダーさんだった。

 そんなに思い詰めないで。


「その人たちが勝負に参加するかわかりませんけれど、もし一方にだけ経験者が加わったら、やはり大きなアドバンテージになるかと?」

「ううむ困ったな……! それでは、ここのダンジョンもダメということに……!?」


 本当に誰も入ったことのないダンジョンなんて、もう地上に存在しないのかもしれないな。

 それこそ人跡未踏の未発見ダンジョンを探し出すぐらいしか。


 さて、どうしたものかとアレキサンダーさんと二人、頭を悩ませていると……。


「ふぇっふっふっふっふ! 話は聞かせてもらったのだー!」

「あッ、ヴィール」


 そこへウチのドラゴン、ヴィール(人間形態)がやってきた。

 また外へラーメン売りに出ていたのが帰ってきたか。


「今日もたくさんの下等生物どもにゴン骨ラーメンを食わせて回ったのだ! でもおかしいな? まったく減らないぞ?」

「そりゃ百分の一に薄めていたらなあ?」


 ドラゴンから搾り取ったエキスのスープは劇薬で、人間が摂取したら爆発したり不死身化したりと大変だ。

 だから影響ない薄さにして多くの人々に配り歩いているヴィールだった。


『もう仕方ないから捨てちまえよ』と思ったこともあったが、下手にその辺に撒いたらドラゴンエキスの効果でどんな事態が出来するかわからんので気軽に捨てることもできない。


『産業廃棄物か!?』と思ったりもしたが、ヴィールのペースに任せて少しずつ消費していくしかないだろう。


 以上は余談。


「それよりも兄上! ウチに来ておきながらこのおれに何の相談もなしとは一体どーいう了見なのだー? おれにもたっぷり頼るがいい!」

「…………」


 気まずげに視線を逸らすアレキサンダーさん。

『いや、お前に相談しても得るものなさそうだし……』という気配が無言に伝わってくる。


「いや、……たまたまお前がいなかったのでな?」


 しかし当たり障りのない言い訳で本音を包む最強竜さん、優しい。


「そうかー、擦れ違いになるところで申し訳なかった! しかしこのグリンツェルドラゴンのヴィールが駆けつけたからには心配ご無用! 謎はすべて解けたぞ!」

「謎!?」


 こないだのミステリー企画のノリを引きずったままのヴィール。


 それよりその口ぶり……。


「ヴィールは、勝負のダンジョンに心当たりがあるのか?」

「おうよ! 誰も使ったことのないダンジョンが相応しいんだろう!? 打ってつけがあるのだぞ!!」

「マジで!?」


 そんな都合のいいダンジョンが都合よく存在していたのか!?

 大丈夫?

『ご都合主義』とか言って叩かれたりしない!?


「マジなのだ! では早速そのダンジョンへ行ってみよう! ロンよりツモだ!」


 論より証拠かな!?


 とにかくヴィールに急き立てられる形で、そのダンジョンとやらに向かうことになった。


 ヴィールもアレキサンダーさんもドラゴン形態に戻り、俺はドラゴン馬のサカモトに乗って同行する。


「夕飯までには帰ってきてねー?」


 とプラティのお見送り。


 ところで待って?

 何故俺まで同行する形になってるの?


「ここより先に俺は必要なのでしょうか?」

『この世に必要ないものなんてないのだー!!』


 畳かけようとしてくるヴィールと共に、俺は一陣の風と混ざりながら大空を駆けていくのだった。


 そして、辿りついた先は……!


    *    *    *


「……どこ?」


 俺にもよくわからない場所だった。

 道程、海は越えていったと思う。


「するとここは新大陸か何かか?」


 海の向こうにある未踏の陸地なら、誰も入ったこともないダンジョンもそりゃまあ、あるかもしれない。

 しかし、新大陸の発見てそれにとどまらない新時代の幕開けになるのでは?


 大仰になりすぎない?


「何を言ってるのだご主人様? ここは新大陸なんかじゃないぞ、ただの小島なのだ」

「えー?」


 よく見たら、たしかに見渡す限り海岸線で陸地自体そんなに大きくなさそう。


「孤島かー」


 しかも人の住んでいる気配はまったくないし、まるきり遭難者が流れ着いた無人島といった感じだ。


 ここで生き残りをかけたサバイバル生活が!!


 ……っていう話が始まりそう。


「この島のどこかにダンジョンがあるのか?」


 たしかにこんな無人島にダンジョンがあったら、誰も発見できなくて手付かずだろうが。


「さー? あるかなー?」

「はあッ!?」


 何言ってんだこの竜!?

 勝負の場になる未踏ダンジョンがあるから俺たちをここに連れてきたんじゃないのか!?


 ダンジョンがないなら無駄足じゃないか!

 俺だけでなくアレキサンダーさんまでご足労を懸けたのに……!?


「この島は……、もしや……!?」


 そのアレキサンダーさんが、やはり人間形態になって忙しげに周囲を見渡していた。

 まるで、ここに見覚えがあるかのように。


「ここにダンジョンがもうあるかどうかは、直接聞いて確かめに行くのだ。出発おしんこー!」

「ええー? どこ行くの!? 待ってよ!!」


 かまわず歩き出すヴィールに、置いてかれちゃ敵わないと慌ててついていく。


 アイツはどこへ向かっているんだ?

 どうやら島の中央へ向かっているようだが……?


「おーい、愚かなる弟よ! 貴様の賢い姉が訪ねに来てやったのだー!」

「これはヴィール姉上! ようこそ我が城へお越しいただきました!!」


 そして、しばらく歩いた先で出会ったのは……!


 やはりドラゴン。

 新たなる皇帝竜となったアードヘッグさんではないか……!?

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― 新着の感想 ―
このダンジョンはやばない?w
[一言]「ロンよりツモ」で飲んでいたコーヒーを吹いた。
[気になる点] 出発おしんこ・・・ ちょいちょいぶっこんできますね 昭和臭と親父臭が香ばしい・・・
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