516 百花繚乱おにぎり考
農場に帰ってきました俺!
時候は既に秋。
実り多き刈り入れの季節だ。
もっともウチの農場はプラティのハイパー魚肥のおかげで年に何回も刈り入れできるんだが……。
それでも秋の季節は、何ともやり遂げた感のある特別な時期だ。
そんな秋に、黄金色に実った稲穂を刈り入れ、脱穀し、もみ殻を除いて、精米。
末に出来上がった白米は、いつ見ても美しく感動する。
さて、この新米で最初にすることと言ったら何であろう?
農場では決まっている。
新米をまず最初に食べていただくお方は決まっている。
神だ。
この異世界にやってきた俺に力を与えてくださった造形神ヘパイストス。
俺が異世界でなんとかやっていけているのも、あの神様がくれたギフトのおかげ。
その感謝を表すために、我が農場では新米が穫れたら真っ先に神様に捧げるルールとなっている。
……いや、本当に。
去年一昨年もそうやって捧げてきたんだぞ。
語られていなかっただけで。
だから今年たまたま思いついたとかじゃなくて、既に伝統となった我が農場での行事なのだ!
「……ってわけでー」
ヘパイストス神におにぎりを捧げていこうと思います。
何故って、あの神様はおにぎりが大好きだから。
新米収穫のタイミングなのもそこに意義があるのだし、今年も最高のおにぎりを神様に味わっていただこう。
そこで……。
「新作おにぎり試行会~!」
今までになかったおにぎりを試作する会を始めたいと思います。
もう定番のおにぎりは大体捧げ終わっちゃったんだよな。
明太子、昆布、鮭、ツナマヨ、梅。
神様に喜んでもらうためには、これら定番から突き抜けた新発想おにぎりを作らねばならない。
大丈夫。
勝利の方程式は、もう頭の中に組み上がっている。
知識もまた武器なり。
何を隠そうこの俺は、前の世界にいた時コンビニおにぎりマニアで、新発売したら必ずチェックを入れていた!
そんな俺にとって、購買者の目を引く変わり種おにぎりは脳内ストックはたくさんある!
「それでも異世界に移住して、けっこう長く経つし……! 記憶も薄れてきたよなー……?」
だからこそ今ここで、記憶を甦らせるよう実際に作ってみねば!
というわけで早速一作目、行ってみよう。
まず出来たての新米を、ケチャップを絡めて炒めます。
そうしてできたまっかっかのケチャップライスを握り、別に用意しておいた薄い玉子焼きで包む……。
「オムライスおにぎりだ!!」
大体どのコンビニにもあるよねオムライスおにぎり。
素材が安定して作りやすいのか。でも玉子焼きのふわふわ具合で個性を出している。
そのスピリッツを引き継いで、ここ異世界でも誕生しましたオムライスおにぎり。
さあ神よ御照覧あれ!
自宅に築いてあるヘパイストス神用の神棚へ、オムライスおにぎりを捧げる。
さあ、神はオムライスおにぎりを可とするか? 不可とするか?
神は、以前握り寿司を捧げたら『NO』と言われた過去があるからな。
あれで拘りは厳しい。
ケチャップを混ぜ、海苔ではなく卵で包み込んだ変則おにぎりを、神は認めたもうか?
『? ? !?!?!?』
神棚からも戸惑いの気配が伝わってくる。
『い、……YES?』
よっしゃあああああーーーッッ!?
通った!
神はオムライスおにぎりを認めたもーた!
その意気でどんどん行くぜー!
もちろん、今回試作するのは一作だけに留まらない!
新米祭りだからな!
たくさん作製して神にご満足いただかなくては!!
次に製作するのは……!
「バターライスおにぎりだ!」
「バター!?」
バターの話をすると疾風迅雷にやってくるぜ。
大地の精霊たち。
バター大好きちびっ子の彼女らは、バターを嗅ぎつける能力は警察犬をも超える。
「バター! バター!」
「バターをよこすのですぅ~~~!」
複数いる大地の精霊だが、バターに懸ける貪欲さは皆共通。
既に炊き上がって、あとはおにぎり型に握るだけのバターライスだが……。
どうしよう?
神棚の方をチラリと流し見る。
「…………?」
『………………ッ!?』
火花散るよな無言の意思が交錯し……。
『い、YES……ッ?』
「わー! やったーですー!!」
「かみさま、やさしーですー!!」
さしもの神と言えども可愛さには抗えなかった。
こうして神への捧げものであったバターライスは、可愛い大地の精霊たちによって強奪。
大地の精霊たち、神棚に向かって横一列に並ぶ。
「いちどー、れい、ですー!」
「「「「「かみさま、ありがとやんした、ですー!!」」」」」
うむ。
礼儀正しくていい子たちだね。将来ウチのジュニアにも見習わせたい。
さあ、あまねくお食べ。
「バター! バター! ばたばたばたばたばたばた……!!」
「あべべべべべべべべべべべべ……ッ!!」
食い方が汚い。
これはウチのジュニアに見習わせたくない。
さて。
バターライスおにぎりは大地の精霊たちに強奪されてしまったため、代わりにチーズおにぎりを作ろう。
チーズをのせたおにぎりをオーブンで焼いて、溶けたチーズがおにぎりの表面に張り付くのだ。
まさにチーズトーストのおにぎり版。
トロリと溶けたチーズの質感に、食欲は否が応にも高まるものだ。
「チーズはいいですー」
「バターの方がいいですー」
コイツら……ッ!?
まあ、だからこそ強奪される心配もなく神に捧げることができるんだけどな、チーズおにぎりを。
さあ神よ、御照覧あれ!
『YES』
神、即答だった。
バターおにぎりで焦らされたんだろうな。
さあ、まだまだ行くぜ。
ソーセージおにぎり、半熟煮卵おにぎり、肉巻きおにぎり、チャーハンおにぎりなどアイデアは色々ある。
今度は何を召し上がってもらおうか……!?
「ちょっと待って旦那様!」
そこへスパーンと扉を開けて、我が妻プラティが登場。
「プラティ!? どうした!?」
「アタシからも……、いえ、アタシたちの息子からも神様へ捧げものがあるそうよ!!」
何ぃ!?
見るとプラティの胸に抱きかかえられた我が子ジュニア……、のさらにその手の中に握られた、ご飯の塊!?
「これはまさかジュニアの握ったおにぎりか!?」
「そうよ、アタシたちに加護を下さる神様への感謝を、この子も持っているの。そのお礼として、この子が小さいながらもおにぎりを握ったのよ。この小さな手で!」
本当かよ!?
……いや、あり得るな。
だって俺たちの息子だもの!
「本当に素晴らしい……! 見よ神よ! 御旗盾なし御照覧あれ! 我が息子はこんなにも小さいというのに、神への感謝を示しております!」
「どうかこの子が初めて作ったおにぎりをお納めください!!」
ジュニアが作ったおにぎり……小さいし、あと握りが甘くてぽろぽろ崩れるのを、恭しく神棚に捧げる。
「神よ!」
「神よぉ!!」
夫婦揃って恭しく平伏し、しばらく空白があったあと……。
『…………い、YES』
やったー! ジュニアのおにぎりが神にみとめられたぞ!
この歳で神に認められるなんて、ウチのジュニアはのちは博士か大臣かーーーッッ!?
「かみさま、空気よんだですー?」
「かみさまなのに、あんがいいいヤツですー?」
傍で見ている大地の精霊たちがなんか言ってるけど気にしない。
ウチの息子は日本一!
いや異世界一だッ!!






