513 ドラゴン温泉殺人事件・解決編
「わかんねー!」
ギブアップした。
この密室トリックをどうやっても解き明かすことができない!!
「いいじゃん! そもそもミステリーは謎解きを探偵に任せときゃいいんだよ! 読者が解く必要はないんだよ!!」
身も蓋もないことを言う。
そもそもヴィールがちゃんとした答えを用意しているかどうかすら疑問だしな。
だってあのドラゴンだし。
個人の性格としてテキトーで飽きっぽい上に、ドラゴンという種族として人間の常識など通じまい。
そんなヴィールの用意したトリックなんて『ドラゴンの腕力で死体を密室に投げ込みました。証明完了!』とかになるのも全然ありえるわけで!
そんな相手と推理勝負したって徒労だろ! という感じが沸々とするんですよ!!
「ん? ん? ご主人様わからないのか? んんんー?」
クッソ、ヴィールのヤツしたり顔で!?
よぉし! だったら答えを開帳してもらおうじゃないか!
もしドラゴンの超パワーでないと成立しない、ノックスが助走つけて飛び蹴りしてくるようなトリックだったら猛抗議してやる!
「よーし、では関係者をもう一度犯行現場に集めるのだ! 謎はすべて解けたのだー」
* * *
こうして殺人現場に設定された温泉旅館の一室に再び集められた俺たち。
その中には被害者役の大魔王バアルさんも、
……ってこの人、あからさまに一っ風呂浴びてきた風体をしている!?
死体役サボって温泉に浸かってきたな。
「皆さまお集まりのところで、この名探偵ヴィールがドラゴン色の脳細胞を披露してあげるのだ」
ドラゴン色ってどんな色だよ?
「そもそもこの事件は奇妙な点が多いのだ。密室の殺人現場、殺された被害者、謎の犯人、すべてが謎に包まれているのだ」
いっぱしの探偵気取りで事件の概要から語りだしたけど、あんまり頭のよくない語り口調にしかなってない!?
大丈夫? 麻酔針の飛び出す腕時計使う?
「しかし! この名探偵ヴィール様にかかってはすべての謎は解かれて消えるのだ! 今からこの密室で起きた出来事を再現して見せるのだー!」
そういうとヴィール、くるりと踵を返したら、スタスタどこぞへ向かって歩き出す。
『どこへ行く?』と思ったら、普通に部屋の隅だった。
なんだ? まさかそこに秘密の抜け穴でもあるのか? と思ったら……。
物陰でわかりづらかったが、そこにはレバーがあった。
『何故そんなところにレバーが?』と疑問に思う暇も与えずヴィール、そのレバーを上から下へと動かす。
すると途端に……。
「おおおおおおッ!?」
部屋が揺れた!? 全体的に!?
「おッ? おッ? おおおッ!?」
そして何だこの浮遊感はッ!?
揺れが止まった時、ヴィール会心の表情で……。
「これが密室トリックの真実なのだー!」
「いや、わかんねえよッ!?」
単にレバー下ろして部屋が揺れただけじゃないか!?
これが一体どういう……!?
「大変よ旦那様!」
「えッ? どうしたのプラティ?」
「ここ、四階よ!」
え? 何を言っておられる?
事件が起きたのは五階だろ? 今も俺たちは五階の殺人現場に集められて……!?
「いや、ここ本当に四階だ!?」
窓の外から見る景色も一段低いし、廊下に出て周囲を見回すとたしかに『4F』の札がついている!?
一体どういうことだ!?
「まさか……、さっきの部屋の揺れは……!?」
「ご主人様の思った通りだ!」
ヴィール、下がったレバーを今度は上へ。
するとまた部屋が揺れて……。
「五階だーッ!?」
まさかこれ……。
部屋自体がエレベーターになっているのか!?
それでスイッチ一つで四階五階に行ったり来たり!?
「犯人は、これを利用して密室を作り上げたのだ」
「まず『これ』がある件について!?」
「犯人はまず、四階に被害者を呼び出して殺す。そのあとに部屋諸共五階に上げれば殺人現場も移動するのだ。犯人はそのあと悠々と四階から出ていけばいいのだー」
そうすることによって密室殺人は成立……!?
「ご主人様の作ったエレベーターにヒントを得たのだ! ここを利用する客どもは大概エレベーターを使うから、発想を得たとしてもおかしくない!」
いやそれ以前に……!
「なんでこんな大掛かりな仕掛けがついているんだよ!? 部屋を丸々エレベーターにしたってこと!? いつの間にどうやって!?」
「旅館を建てる時、オークどもに命じて作らせたのだ」
「犯人はアイツらか!?」
我が農場で建築マニアと化しているオークたち、この旅館を建てたのもアイツらの趣味の延長みたいなものなのだが……。
「複雑な構造なんでアイツら喜んで加担したぞ。作り甲斐があるってな!」
アイツらの建築技術どんどん上がっていくなあ!?
こんなものまで作り出せるようになっていたとは!?
「でもこれちょっと反則臭くない? ミステリーとしては?」
建物自体に設定された抜け道とかカラクリって、トリックとしてはフェアだったっけ?
あんまり突き詰めると、どこかにケンカ売ることになりかねないからやめておこう。
「このトリックを用いたなら、犯人はある程度絞り込めますな」
関係者として集められたルキフ・フォカレさんが語る。
「大魔王様は、殺される直前まで私と共に行動していた。殺されたならその直後ということになる」
「何か真面目に考察しだした……!?」
「別行動になったあと私は最上階の天空風呂へ行った。しかしこのトリックを使ったなら犯人は五階より下の階にいたことになる。この部屋が五階と四階の間を行き来するならば……!」
犯人は殺害時刻に、四階より下の階にいた者!?
『ワシもその時刻は天空風呂におりましたな』
「アタシもジュニアと一緒に女湯に入っていたわよ? 他にも入浴客はいたから裏は取れるんじゃない?」
先生とプラティにも強固なアリバイがあった!
すると残るは……。
「俺?」
「そうなのだ! ご主人様が犯人だったのだー!!」
な、なんだってーッ!?
推定犯行時刻、旅館内を見回りしていた俺だけがアリバイが曖昧だッ!?
その隙を突いて俺がバアルさんを殺したッ!
「仕方ないんだッ! バアルさんは事あるごとにエルロンやら腕のいい職人を引き抜こうとしてくるし、ウザくて仕方なかったんだああああッ!!」
「本当に殺害の動機が簡単にまろび出てくるの」
被害者当人が一歩引いたところで口笛を吹いていた。
そんなわけで第一回、ヴィールの湯けむり推理ゲームは犯人=俺という衝撃の結末によって幕を閉じた。
「悲しい事件だったのだ……」
「ねえ、ちょっといいかしら?」
美しくまとまろうとしたところでプラティが言う。
「このエレベータートリックなんだけど……、この部屋自体がレバーを上げ下げして移動するなら。被害者を殺したあとに四階から五階に上げるためにもレバーを操作する必要があるのよね?」
「そりゃそーなのだ?」
「五階に上げたあとここが密室になるなら、レバーは誰が上げたことになるの?」
「あ?」
所詮ヴィールが考えたトリックなど穴だらけだった。
犯人が俺だという結論にたどり着いた論法も、ただアリバイを当たっただけでトリック関係なしに俺だけが容疑者として絞れちゃうしなあ。
「色々と再考の余地があるな」
「今度こそ一つの穴もない完璧なトリックを考えてやるのだー!!」
ヴィールは意気込んでいたが、まあたしかに楽しいイベントではあったかな?
知恵も働かせられるし、探偵役になれるという非日常感が程よい興奮を与えてくれる。
「じゃあこれ、温泉旅館の正式なアトラクションとして採用する?」
「いや、やめておこう」
この温泉旅館は、来てくれる人の疲れを癒すために建てたもの。
たとえ楽しむためと言えども体や頭を使い倒して余計疲れるようでは、そもそものコンセプトに齟齬が出てしまう。
ヴィールがこういうことをやりたいなら別のイベントにシフトして、この場ではお蔵入りにした方がいいかな。
「今年のオークボ城ででも実装してみるか?」
「天守閣連続殺人事件だな!?」
あッ、いかん。
もはや来年のオークボ城が殺人カラクリ満載になるイメージにしか!






