498 死杖づくり
ところで、途中からまったく存在感のなくなっている人がいませんか?
四天王ベルフェガミリアさん。
先生が登場した辺りから完全に一言も口出ししていない。
喋らないし、そもそもの存在が消えてしまったかのようだ。
というか本当に消えていた。
周囲を見回しても姿がない。
執拗に探してやっとこさ、ハンモック広げて眠りについているところを見つけた。
「必殺! ハンモック返し!!」
「ぐべッ?」
ハンモックから落とされて地面に激突ベルフェガミリアさん。
「何で寝てるんですか!? 世界が滅びかねない異常事態の最中、どうして中座して居眠りしてるんですか!?」
いやもう居眠りとは言いがたい! ガチ寝だ!
「昼間っから本気で寝るんじゃない! 夜寝られなくなるぞ!」
「大丈夫、昼中寝たって夜もちゃんと寝れる男さ僕は」
こんな人が大幹部で大丈夫なんですか魔王軍!?
そこがまた心配だ!?
『老師の弟子が、ふてぶてしさも師匠譲りにゃ』
先生と博士、ノーライフキングのコンビも呆れ顔。
その視線に気づいたのか……?
「やあやあ、先生お久しぶりです。あと博士、こっちにも猫配置してたんですか? 僕のところには一匹も回してくれないのに?」
ベルフェガミリアさんは、不死の王にすら物怖じせずに気さくな態度。
本当に心底大物だ。
『お前の傍にいたら面倒くさいこと全部押し付けられているのが目に見えているにゃ。お前の面倒くさがりは思い知ってるにゃす』
「そんなあ、博士がいてくれたら、わざわざここまでくる必要なかったのになあ」
『便利使いする気満々だったにゃ!?』
ノーライフキングを顎で使わんとする気満々の恐ろしい男。
そこまで不死王と砕けた関係を築いているのは、彼が、とあるノーライフキングと並々ならぬ関係であることが原因であろう。
「ベルフェガミリアさんって、ノーライフキングのお師匠さんがいるんでしたっけ?」
「そうだよ。老師と呼ばれるノーライフキングでね」
短く答えるベルフェガミリアさん。
その老師とかいうノーライフキングが先生、博士と同格なために弟子の彼とも交友が認められていると……。
改めて考えると恐ろしい……。
『しかし思ったんじゃがのう……』
はい?
なんでしょう先生?
『老師という立派な師匠がいるなら、まず彼に相談してみた方がよかったんではないか? 我々よりも……?』
…………。
言われてみればそうである。
浮かぶのも当然の疑問に対し、ベルフェガミリアさんの返した答えは!?
「だって師匠の住んでるダンジョン遠いんですもん。魔法で飛んで来れるこっちの方が断然面倒くさくないでしょう?」
『とんだ面倒くさがりにゃ!?』
「それに師匠のことだから絶対面倒くさがって引き受けないし」
『この弟子にして、あの師にゃ!!』
だから人のいい先生に持ち込んでくるなんて人選が巧みすぎた。
目論見通り先生は随分とやる気で、またしても頭骨だけになった皇帝を掌中で弄びながら何かしら目論んでいる。
『まあよい老師の教え子よ。ワシに一案があるので、この痴れ者を預かってもよいかの?』
「どうぞどうぞ、先生ほどの重鎮が担ってくださるなら、僕はもう思い煩うことはありません」
『では早速行動するかの。……博士』
猫に話しかける不死王という何とも言えない構図。
『なんにゃー?』
『こやつのことをお願いいたします。やはり暴なる力を封じるには幾重もの策を講じねば』
『精神的にへし折ればいいんにゃね? わかったにゃー!』
最強クラスの不死王二人による恐ろしすぎる以心伝心。
とりあえず皇帝の頭蓋を、博士に任せて先生はスタスタと行く。
「あれッ? どこに行くんです先生!?」
『聖者様もついてきてくれませんかな? アナタ様の許可がいりそうですからの』
俺の? 許可?
先生に求められれば何でもYESと言いそうですが。
「何をするつもりなんだろうな……?」
* * *
先生が辿りついたのは、桜の木の前だった。
農場の片隅にある、やたらと清浄な気を吐く桜木。
「これは世界樹桜……?」
『うむ、前々から気になっていましたが空気中のマナを一旦吸収し、汚れを漉しとってから清浄なるマナを放出しておる。その動き自体は通常の植物もしているが、この木だけはその浄化の勢いが凄まじい。また聖者殿が楽しい仕事をされたご様子』
「いえいえ……!?」
『一つお願いなのですが、この木の一部をワシに下さいませんかな? 何ほんの一部です。枝の一振り程度でかまいません』
「はあ……?」
『何、この木が傷つくことを厭う必要もありません。我が魔力をもってすれば……!』
まあ、先生のすることには無条件で信用しますし……?
戸惑いながらも俺が頷くのを確認してから、先生は世界桜樹に向けて手を伸ばす。
何か魔力が発動するのを感じた。
すると世界桜樹は幹から何かしらをシュルシュル突出させ、先生へ向けて伸ばしてくる。
枝が、幹の何もないところから鋭いスピードで伸びてくるかのようだった。
先生は、その枝を握り、引っ張ると、まるで水飴を千切るかのようにすんなり枝は幹から離れた。
世界桜樹本体には傷跡一つついていない。
先生の手には真っ直ぐに伸びた世界桜樹の枝だけが残った。
『うむ、いい枝ぶりだ。丈もちょうどよく芯がしなやか。手触りもよく馴染む』
本体を傷めずに、欲しい分だけ成長させて分けとる。
そんな芸当のできる先生に改めて俺は舌を巻くが……。
……先生は、世界桜樹の枝などとってどうするつもりなのだろう?
* * *
世界桜樹の枝をとって戻ってきてみると、皇帝がまた酷いことになっていた。
さっき先生にやられて、またまた頭蓋骨のみになっているが、それに加えてさらに酷いことに。
『ネコ、カワイイ……! ネコ、トモダチ……!』
「洗脳されている!?」
場を離れる時に博士にお任せしたんだが、ヤツの仕業か!?
当の博士は、猫らしい集中力のなさで、興味を余所に移し、その辺に生えている草を食んでいた。
『こやつがこれ以上ワルさをしないためには、野心から削ぎ取ってやるのが一番にゃー。これぞノーライフキング奥義、猫洗脳にゃ!』
『この成れの果てドクロに……、採取してきた世界樹の枝を……、合体!』
なにいいいいいッ!?
先生がしたことを端的に表現するならば……。
Ihavea 髑髏。
Ihavea 世界樹の枝。
合わせて。
髑髏付き世界樹の枝?
それはまるで杖のような様相だった。
頭頂の部分に髑髏飾りのついた……いかにもテレビの悪役が携えていそうな杖。
『完成しましたぞ。名付けて「不死王の杖」と言ったところですかな?』
「やっぱり杖なんですかそれ!?」
頭頂に髑髏が据え付けられた杖は、見た目も非常に不気味。
見る者を圧倒するかのようであった。
ましてそれを持っているのが先生なのだから威圧感は三倍増し。
『どんな処理をしようと、曲がりなりにも不死王であるこやつはマナを吸って糧とします。ならば、その吸収したマナを別の形で放出する機構を作ってやればいいのです』
「と言いますと?」
『我が魔法で、魔法機として組み替えたこの杖は、ノーライフキングの能力で集めたマナを、柄に使用した世界樹の枝がマナを浄化して放出するのです。けしてこやつの好きにはさせますまい』
つまりこの杖は、皇帝が再生のために集めるマナを、集めた傍から放出してしまうと?
『これを魔導具として使用すれば、皇帝が集め、世界樹が浄化したマナを使い様々な魔法を使えるでしょうな』
それって、自分自身の魔力を使用することなく魔法が使えるってこと?
この杖を使って?
「滅茶苦茶凄そうな装備じゃないですか!?」
『素敵なステッキなのにゃーッ!?』
それもうレジェンダリーウェポンな域じゃないですかね?
少なくとも使用された素材的にはそうだ。
【必要素材】
ノーライフキングの頭部×1
世界樹の枝×1
……てな具合に。
『ではベルフェガミリアくん。この杖はキミに託そう』
「はい?」
その恐ろしげなるものをしっかりと握らされる。
『この髑髏は元々キミが持ち込んだのであるから、キミが所持するのが妥当であろう。きっとキミなら適切に扱ってくれることと信じる』
「でも待ってください? ここまで強力な機構を持った魔法杖、しかも無害化したと言ってもノーライフキングを生体パーツとして組み込んだのは一歩間違えば大事故の元に……。どういうことかと言うと、滅茶苦茶面倒くさい……!?」
『キミなら安心して託せる。信じておるぞ』
面倒くさいことを極力避けてきたベルフェガミリアさん、最後に一番面倒なところを押し付けられて終わる。
結局人は生きていく上で、面倒くさいことから逃れられないのであった。






