04 水問題
生きていく上で何より大切なもの。
水。
人は食べ物がなくても一週間以上生きていけるが、水なしでは三日ともたないなんて話を聞いたことがある。
俺が開拓生活を続ける上で、飲料水の確保は何より最優先の必須事項だった。
即席ながらも家を建て、生活の拠点を確保したところで次は水の供給を確固たるものにしなければ。
俺のために即行で芽を出してくれた作物に水やりをするためにも、次の目標は水を得ることだ!!
* * *
解決した。
結論から先に語ってしまったが、まあ最初から順序立てて話してみよう。
まず俺は、一番目につくところから水を得る試みをしてみた。
海だ。
俺が住み着いた土地は、海に面している。
母なる海。
マザなる海。
寄せては返す波。その波の正体は水。
そう海とはそれ自体で無尽蔵にある水源なのだ!
……そこで「オイオイ、ちょっと待ってくれよ」と思う人もいるだろう。
海の水。即ち海水は塩水。
飲料水になどとても利用できない。
そんなことは俺にもわかっているさ。しかしだからと言って何もせず放置するには海は巨大過ぎる。
なんとかして、何より無尽蔵な海水を飲料水や生活用水に使用できまいか?
そう思って俺は色々と試してみることにした。
何より最初に思いついたことは蒸留だ。
海水を熱して沸騰させ、蒸気と不純物を分けてから冷却し、真水を作る。
まあ想像しただけで面倒くさいことこの上ないが、一回ぐらい試してみてもいいだろう。
幸い鍋は、都から買い込んできた道具一式の中にある。
その中に海水を汲んで。火にかけて熱して……。
ああでも沸騰した蒸気を受け止めて集めるにはどうする?
そもそも火の起こし方は?
色々悩んでいると、俺の興味が、ふと、あるものに移った。
鍋に汲まれた海水。
火にかけて沸騰されるのを待つばかりのソイツだが、実際のところ海水ってどれくらいしょっぱいのだろう?
元の世界で海水浴に行ったこともないではない俺だが、それも遠い昔の話だし、第一元の世界の汚い海の水など好んで飲んでみたりもしなかった。
しかしこっちの海は、当然というか澄んでいて綺麗だ。
試しに一口飲んで……、という気分にもなる。
そこで鍋の中の海水を手で掬って、一口……。
「……ん!?」
アレ!?
俺に舌おかしくなったか!?
確認のためにもう一口、海水を掬って口に運ぶ。
「……やっぱり」
全然しょっぱくない!
真水だ!
普通の水だ!!
どういうことだ海水だろたしかに!?
「もしかして……、こっちの世界じゃ、海水は塩水じゃないとか!?」
ありえない話じゃない。
ここは異世界、俺が元いた世界とはまったく別の場所だ。
あっちでは普通に当たり前だったことも、こっちでは通用しないことだってあるだろう。
と俺は、我が手の中に汲まれた真水のような海水を見下ろし思った。
……ん?
…………待て。
俺の手で掬った水。
この手は、昨日から信じがたい奇跡を何度も起こしているではないか。
握った道具に即して達人レベルの技を発揮したり。
土に触れば、種も撒いてないのに作物を芽吹かせた。
神からのギフト『至高の担い手』が宿った手。
「それに海水が触れたら……!?」
俺は試しに、手を使わず鍋から直接海水を口へ流し込んでみた。
「ッッ!? しょっぺえッッ!?」
辛い!
塩っ辛い!!
俺は思わず咳き込んで、口に含んだ海水を全部吐き出した。
「でもこれでハッキリした……!!」
非常識なのはこの世界じゃなくて俺だった。
俺の手だった。
我が手に宿る『至高の担い手』は、触れた海水を優良な飲料水に変質させてしまっていたのだ!!
「……どこまで万能なんだよ『至高の担い手』……!?」
ヘパイストスさん……。
アナタ、ちょっとスキル作りに気合い入れすぎちゃいませんか?
ああスキルじゃないか。それを超えた何かか。
ギフトだもんね。神からの贈り物という意味で。
これぐらい万能なのは当然か。
* * *
まあ、こんな感じで飲料水問題は容易くクリアとなった。
畑に撒く水も必要なので、鍋の水を手で掬って桶に入れ替える。
それだけであら不思議、海水が真水に変わってしまうのである。
その作業は面倒くさくて大変だが、煮沸で真水を作る行程を想像したら、そっちの方が遥かに面倒くさいのは明白のため贅沢を言うまい。
鍋の海水をすべて移し替え終ると、底にうっすら白いものがこびりついていた。
「……塩だ」
海水を構成する水分とミネラル。
『至高の担い手』は、触れただけでそれをキッチリ分けてしまったというのか。
塩分も塩分で、人が生きていくには欠かせない要素だから、これは助かる。
しっかり乾燥させてから鍋の底をこそぎ取り、塩をゲット。
畑の水やりも済んで、色々と順調だ。