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497 ノーライフキングvsノーライフキング

 ノーライフキングの皇帝が復活したああ……!?


 ついさっきまで頭蓋骨のみだったのが、今では全身の骨を揃えられて、すっかりパーフェクトグレードに……!?


 どっから出したのか真っ黒なマントまで羽織って、それこそ『皇帝』の風格たっぷり!


『ふははははは油断したな!? このノーライフキングの皇帝が、いつまでも無様な姿を晒すものか!!』

「再生しやがった!?」


 ノーライフキングが不死身なのは知ってたつもりだが、まさかここまで急速な復活を果たすとは……。


『ノーライフキングの肉体は、半分霊質も備えておりまするからな。周囲にマナさえあれば吸収し、それを元手に再構成させるなど朝飯前です』

『ダンジョンぐらい濃いマナでないと瞬時再生は不可能だがにゃ』


 説明してくれる先生と博士。

 だからこそこの皇帝、ベルフェガミリアさんとこの物置に放り込まれてた時は再生までに二年かかったらしいが……。


 しかしここ農場では瞬時に再生!?


『ふはははは! よくわからんが、この地はダンジョン並みに上質なマナで満ちておる! お陰で再生が容易であったわ! 我を完全に封じるつもりで連れてきたようだったが却って災いしたな! ふはははははは!!』


 勝ち誇った笑いを上げる皇帝。

 世界に災いをもたらす邪悪な不死王が、ここに復活してしまった。

 農場のせい?


 ここは農場主の責任として、この災害を外に漏らしてはならない!

 邪聖剣ドライシュバルツよ! お前の聖剣としての力に頼るべき局面が、唐突にやってきたぞ!


『お待ちください聖者様』


 ノーライフキングの先生に止められた。


『この狼藉者は、どうかこのワシにお任せください。先ほども言ったように、不死者の不始末を正すことも不死王ノーライフキングの務め。ワシも最近若者に教えているせいか責任というものに目覚めましての。同類の恥を放置しては。教え子たちに堂々と向き合えませんわ』


 先生が、教育者としての自覚を備えていらっしゃっている!?


 わかりました。そういうことなら先生にお任せいたしましょう。

 邪聖剣ドライシュバルツよ、キミの出番はナシだ! すまん!


『グフフフフフ……、愚か愚か。この皇帝に戦いを挑むなど……!』


 先生と皇帝。

 二人のノーライフキングが睨み合う。

 その隅で猫が毛づくろいしている。


『同じノーライフキングと言えども、その権能は千差万別。なりたての青二才と、数千年も生きた古老との実力差は埋めがたい。このノーライフキングの皇帝は、生前は魔王として権勢を振るいつつ、不死者の籍に入ってより五百年。その力は盛んであるぞ?』

『にゃーん』

『それに対して貴様は不死者となって百年か? 二百年か? その程度の歳月で永遠を理解した気になって、格上に挑む愚かさ。すぐに後悔するがいいわ……!』

『にゃーん』


 さっきから猫が煩い。

 いや、わざとか? 脅したっぷりの皇帝の口上を、雰囲気台無しにするための嫌がらせか?


『ええ、さっきから煩い猫め! この皇帝にケンカを売るか!?』

『不死者となるには知識と知恵が必要不可欠。にもかかわらず不死者となって無知を晒すなど小っ恥ずかしーヤツにゃ。先生の言じゃにゃいが、同類として肉球がムズムズするにゃー』

『何を言ってる、この猫……!?』


 まず猫が喋っているところから疑問に思えエンペラー。


 猫とは世を忍ぶ仮の姿。

 その正体は最強ノーライフキングの一人、博士なのは知る人ぞ知る!


『まあ、本体は自分のダンジョン奥深くに封印して、意識だけ飛ばして猫に憑依させとるにゃから、猫経由じゃ全力を出すにはほど遠いにゃー。しかしにゃー……』


 周囲の空気がザワリと変わる。


『なんだ? 何が……?』

『お前ごとき若造を捻り潰すのに、猫一匹分の魔力でも釣りがくるのにゃー。金貨で飴一個買うぐらいのにゃー』


 肉食獣の顔つきをする猫。

 普段は猫らしく、ふてぶてしい御方だが、やはり本気になると恐ろしいのか?


『ぐ、ぐぬぅ……!?』


 皇帝も成すすべなく飲まれている。


『博士、お控えくだされ。ヤツを捻り潰すのはワシの役目にて』

『出しゃばったのにゃ。すまんにゃー』


 博士は、素直に下がって俺の方に寄ってくる。

 俺の足に頬を擦り付けてきやがるので抱きかかえた。


 先生がいつになく好戦的だなあ。相手の方が完全に飲まれているぞ。


『おのれどいつもこいつも……、思わせぶりにしおって……!?』

『博士の姿を見た瞬間に恐れおののくことができんことがお前の限界よ。魔術師でもなく、財と権力に任せて不死化したお前はノーライフキングの特性に頼るしか能のないただの怪物。……そう、ごく平凡なただの怪物でしかないのだ』

『生意気な! では見せてやろう! この我がノーライフキングの力を使いこなしている証拠を!!』


 皇帝、差し出した手から青い輝きを発する。

 なんだあの禍々しい蒼光は!?


『これこそノーライフキングが、窮めた死と惨魔の力を凝縮して放つ特別な魔力、その名を「死光気」! この力を自在に使いこなすことこそ、究極のノーライフキングとなった証よ!』

『使いこなす? 「死光気」を?』


 先生は心底うんざりしたように言った。


『お前の言う使いこなされた「死光気」と言うのは、わざわざ凝縮し、剣のような形に整えた、ソレのことか?』


 先生の指摘通り、皇帝は青い光を整えて棒状に伸ばし、剣みたいな形にしている。

 あれで並みいる敵をばったばったと斬り倒していくというのか?


『なんと浅はかな……。全能なる「死光気」を小さく整えて、オモチャのように振り回す。それがお前の言う「使いこなす」の意か?』

『ほざけ未熟者が! 我が「死光気」で創造せし死の剣は、触れるものの肉体どころか魂まで斬り裂き完全に消滅させる! 究極の破壊手段よ! この力に抗える者はなし!』

『たしかにワシは未熟者、この身を不死と成り果ててより千年。いまだ知らぬこと、学ばねばならぬことは数多くある……』

『え?』


 先生の言葉に引っかかるフレーズを見つけた皇帝、死後五百年。


『今なんと……? 千年? 千年もノーライフキングとしてあり続けていると!?」

『聖者殿と共に在り続けると、自分の至らなさが日々見つかる。死にながらも新鮮な日々じゃ。しかしそれでもお前よりは賢明だと自信をもって言えるぞ。「死光気」の扱いを何もわかっておらん若造よりはな』


 気づいた時には終わっていた。

 皇帝の体が、急に消滅し始めた。

 手先に集中させた青い光と共に。


『なッ!? なんだぁーッ!? 我の体が消滅して!? 再生が働かぬ!?』

『本来「死光気」は、青く光らせる必要も、凝縮する必要もない。ただ空間に混ぜて広げるだけでいい。そうすれば我が「死光気」の支配領域に入った者を、念じるだけで消し去るのじゃ』

『この辺一帯は、とっくに先生の「死光気」に飲み込まれてるんだにゃー』


 猫が解説。


『先生の魔力をもってすれば、一国丸ごと「死光気」で覆い尽くすことも可能にゃ。それに比べればオモチャみたいな剣一振り、振り回して自慢しているのが滑稽にゃすよー』


 格の差を見せつけた先生。

 皇帝は最初から、先生の腹の中にいたようなものだった。そして先生の然るべき意図によって、速やかに消化されるのみであった。


    *    *    *


 そうして完膚なきまでの勝利を得た先生。

 しかしそれでも皇帝は消滅しきっていない。


『ぐるぉーッ!? この皇帝が! 世界の支配者が敗れるなどぉーッ!?』

『マジで煩いヤツにゃ』


 再び頭蓋骨のみとなって憤慨している皇帝。

 あそこまでやっても完全に消滅しないところがなんとも恐ろしい。


『アレでも不死王の端くれですからな。欠片一つでも残れば存在を保ちつつ、周囲のマナを吸って復活できるのです』

『「死光気」はノーライフキングから発する死の力である以上、ノーライフキング自身を完全に滅ぼすことはできんからにゃー。ダメージを与えることはできるにゃが』


 そんな感じでこの皇帝をどうするかという話はまた振り出しに戻った。


「今回のオーダーは、この不滅の厄介者をどう処理するかってことですしねー?」

『どんなに丁寧に砕いても、マナさえあれば吸収して復元するにゃ。そしてこの世界にマナのないところなんてないから、復元を阻止するなんて実質不可能にゃ』

「ないんですか? マナのないところって?」

『基本ないと言われているところにも、超希薄ながら存在しているにゃ。そんなところにこのガイコツ置いても数百年かけてマナを吸収し復活することだろうにゃー』


 説明を聞くほどに、ノーライフキングという存在のデタラメぶりが伝わってくる。


『それでもノーライフキングを封じる方法は、ないわけではありません。前にもやったことがありますしの』

「あッ、先生……?」

『この有害ノーライフキングの始末は、ワシが責任をもって行いましょう。ワシに一つ考えがあります。それが目論見通りに上手くいけば、こやつは二度と命ある者に迷惑をかけることはないでしょう』


 そう請け合う先生の、なんと頼もしいことか。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 死体は桜世界樹の肥料にしてしまおう
[良い点] 先生格好いい‼ [一言] ドライシュバルツ『久々の出番がぁ!Σ( ̄□ ̄;)』
[一言] 有名な究極生物の処理方法、「お空の彼方に不法投棄」してやればいいのではw
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