494 救いの屋台竜
冒険者のシャベだぜ。
緊急事態だ!
パーティ全滅の危機!
だって、あんな凶悪なモンスターに遭遇するなんて思ってなかったんだもん!
アレキサンダー様のダンジョンのこの階層なら、まだまだ出てくるモンスターは低級。
そんな油断が仇となった。
遭遇した極悪は、その辺にうろついている植物型モンスターによく似た形状だったから益々油断した。
実は変異した凶悪種だったんだ!
その植物型は、変異したことによって毒を獲得し、俺たちに吹きつけてきやがった!
おかげで真っ先に飛び掛かった仲間が毒液をモロに浴びちまった。
毒に侵された仲間たちを担いで何とか逃げ出せたものの、状況は悪いまんまだ。
仲間が毒でどんどん衰弱している!?
「やべぇよ! おかしいよ! 毒消しが全然効かねえ!?」
警戒してたからかトロかったのか、飛び掛かるのが遅れたせいでオレは毒液を食らわなかった。
しかし俺以外の三人にメンバーはしっかり毒に冒され、治療するものの応急処置じゃ間に合わねえ!?
冒険者の嗜みとして毒消し草は常備しているが、こういう時のためのものなのに一向役立たない!?
「ダメだ……! これは猛毒だ。普通の毒消しじゃ効果がない……!」
「そんな!」
毒を浴びた仲間が、掠れる声で言う。
「たまにそういう毒持ちがいるらしい。……本来はこんなところよりさらに上層の、高難易度エリアにいるはずなんだがな。猛毒用の高級毒消しなんて持ち合わせているはずがない……!」
「じゃあどうすればいいんすか!?」
「急いでダンジョンを出て街に着けば……、高級毒消しを売ってる道具屋か、解毒魔法の使える神官がいれば……!?」
無茶だよ、ここまで来た道を戻ってダンジョンを出るにも時間がかかる。
仲間たちの命がとてもそこまで持たないってことは見ただけでわかった。
くそう、このままじゃ、これまで苦楽を共にしてきた仲間たちが失われる!
そんなのってねえよ! 折角出会って、一緒に組んで戦ってきたパーティメンバーが!
「ラーメン~、ラーメンはいらんかなのだ~」
そこへ闖入してくる間延びした声。
この声はまさか……!?
「噂のラーメン屋!?」
ダンジョンの中を徘徊し、ラーメンとかいう謎の食べ物を配布する謎の存在!?
オレも過去に一度お世話になって、全身バッキバキの重傷を負ったというのに、そのラーメンとやらを一口しただけで全回復したぜ!?
……はッ?
ということは……!?
「ラーメン屋さん! ラーメンを、コイツらにラーメンを食わしてやりたいんですがかまいませんね!?」
屋台を引いている小さな女の子に尋ねる。
危険なダンジョン内を、こんな可愛い子が徘徊してることこそ大きな謎だが、今はそこを論じている場合じゃない。
あの時、瀕死の俺がラーメンで回復したってことは、今この猛毒に苦しめられる仲間たちもラーメンを食べて回復できるってことじゃ!?
救いの神が、この場に現れた!!
「はえ~ん? んー……、ダメなのだ」
「えーッ!?」
「コイツらの体に入ってる毒は、おれのラーメンじゃ打ち消せないぞ? そもそもゴンこつラーメンに使われているドラゴンエキスは広義の毒なのだ。身体を強化して毒を打ち消すこともあるかもだけど、ここまで弱ってたら逆に強化に耐え切れずショック死するのだ」
「そんなーッ!?」
女の子の冷静な分析に絶望する俺。
この世に神はいないのか!?
「うーん、おれのラーメンを食わせるために準備が必要ってことだな。ではアレを使うのだ」
「あれ!?」
女の子は、屋台から何か取り出す。
なんだその緑色の粉末は!?
その緑粉末をコップ?……の中に入れて、水も入れて、コップの蓋を閉めるとシャカシャカ振り出した。
「何だその動作は!?」
「出来たのだ。プラティから預かってきた特製青汁なのだー。飲め」
「えええええええッッ!?」
これ飲んでいいんですか!?
コップの中は、あの緑粉末と混ぜ合わさってか、実に濃厚な緑色の液体が出来上がっている。
むしろこっちも毒々しいんですけど!?
こんなの飲ませて大丈夫!? 直に死ぬのが今死なない?
「ガタガタせずに一気飲みするのだー。元気にならなきゃラーメンが食えないだろ!」
「ぐぼっほ!?」
女の子が! 毒で瀕死の仲間に無理やり飲ませた!?
あの毒々しい緑色の液体を、口の中に流し込むように!
仲間が!? 仲間ぁーーーーッッ!?
「毒がウソのように消えたぜ!」
「ウソぉ!?」
ついさっきまで毒に侵され、今にも死んでしまいそうだった仲間が完全回復した!?
あの毒々しい液体のおかげなのか!?
毒を以て毒を制す?
「さすがは世界樹の葉を主原料にした青汁は、解毒作用がピカイチなのだ。プラティのヤツもけったいなの作ったなー?」
「世界樹の葉!?」
それって、金貨何枚で取引されるという超高級な回復アイテムじゃないっけ?
あらゆる毒性を浄化し、一説には死人も生き返らせるとか!?
「そう、これぞ世界樹の葉配合、農場印の特製青汁なのだ! 今なら専用シェイカーもついて驚きのお値段!」
「シェイカー!?」
って、さっき水と粉末を混ぜた蓋つきのコップのことか。
「必要なんですかそれ?」
「むむッ、ではシェイカーの有難味をわからせてやろう! シェイカーを使わずに掻き混ぜた青汁、シェイクせずステアなのだ」
猛毒に侵された仲間は他にもいた。
そんな仲間へ、渡された新しい青汁を……。
「さあ飲め……! これで毒が消える、実証済みだからな……!」
「ぐぼッ!? ダマが!? 水に溶けきれずに残ったダマが!? 喉に引っかかる!?」
こッ、これがシェイカーを使わずに混ぜた青汁に潜む罠!?
マドラーで掻き混ぜただけじゃ完璧に溶けきれずにダマが残るというのか!
「我慢して飲み込むんだ! でないと猛毒が消えないかもだし!」
「ふごーーーーーーーーーーーッッ!!」
恐ろしいぜ。
やっぱりダマを作らず完璧に溶かし合わせるにはシェイカーは必須ということなんだな!
しかし彼女が出してくれた青汁のおかげで、どんどん仲間たちの猛毒が消え去っていく!?
凄いぜラーメン屋の女の子! やっぱり彼女はダンジョンを徘徊する救いの女神だ!
「ダメだ! 毒が消えない! 間に合わなかった!?」
しかし一人だけ、青汁でも救い出せない仲間が!?
一番最初に毒を食らっていたヤツだ、その分進行が早く、解毒が間に合わなかった。
「息をしてねえ! 手遅れだ! 死んじまった……!?」
オレたちのパーティから死亡者が出てしまうなんて……!?
くそっ、オレがもっと迅速な状況判断をしていれば!
「さすがに呼吸が止まったら、プラティごときの青汁じゃどうにもならんなー。ならこっちの出番なのだ!」
えッ!?
少女様、他にもまだ手段が!?
「桜餅~!」
ええッ!? なんですかその……、葉っぱでくるんだ謎のぷよぷよしたものは?
「死んだばかりのコイツの喉奥に……ほりゃッ!」
「「「押し込んだーッ!?」」」
あの桜餅とやらを!?
もう死んでるから咀嚼することもできないはずだけど、丸ごと体内に入れられた彼は……。
「桜餅うんめー!!」
「「「蘇生したーッ!?」」」
オレは奇跡を目の当たりにした!?
毒で息を引き取ったはずの仲間が、完全に解毒して甦った!?
「餅を包んだ桜の葉は、世界樹の葉と同等の効果がある上に、ご主人様のパワーで強化されているのだ! 死んでから時間も経っていないので蘇生に成功したな。三秒ルールというヤツだ!」
なんて凄いアイテムなんだ桜餅!
死人すら蘇らせるなんて、世界樹の葉の伝説的効能通りじゃないか!
「本当はラーメンを食ったあとのデザートとして振舞うつもりだったのだが、せっかくだから貴様らにも食わせてやるのだ。一人一個ずつ上げるからケンカせずに貪るのだー」
これがあれば、ダンジョン内で瀕死の重傷を負っても助かる!
「ありがとう! ここぞという時のために大切に保管しておきます!」
「いや今食えよ。生菓子の賞味期限は短いのだ。ご主人様が作ってくれたものを、ちゃんと美味く食わなかったら殺すのだ」
「ええぇ……!?」
毒に侵されていようといまいと食わなきゃ死ぬのか?
仕方なく健康体のまま食べた桜餅は美味しかったし、お陰で全員無事にダンジョンから生還することができた。
ダンジョンという地獄で出会う救いの女神……。
あの小さな女の子には感謝しかない。






