492 エルフ王との会談
そんなわけで本格的に捕虜になったエルフさんたちから事情を聴いてみることにした。
どうして農場を襲って来たのか?
世界樹との関連性は?
これからの会話によって解き明かしていきたいと思う。
「それじゃあまず、お名前から伺いましょうかね?」
「よかろう! わらわこそエルフ王国の長! つまりはエルフ王! その名もエルフエルフ・エルフリーデ・エルデュポン・エルトエルス・エルカトル・エルザ・エルゼ・エルヴィーラ・エルマントス・エルカトル・エルーゼ・エルフエルフ・ミカエル・ウリエル・ガブリエル・アリエル・アリエナイ・ラファエル・エル・エルファントである!」
……。
えッ?
「すみません今なんて?」
「理解できんかったのか愚かな! 仕方ないもう一回名乗ってやろうエルフエルフ・エルフリーデ・エルデュポン・エルトエルス・エルカトル・エルザ・エルゼ・エルヴィーラ・エルマントス・エルカトル・エルーゼ・エルフエルフ・ミカエル・ウリエル・ガブリエル・アリエル・アリエナイ・ラファエル・エル・エルファントじゃ!」
「それどこで区切ればいいんですかね?」
「区切るな! エルフ王たるわらわの神聖な名前じゃぞ! 常にフルネームで一文字余さず唱えるがよい!」
嫌だよ。
雑然としすぎる。
これからアナタのこと呼ぶたびにエルフエルフ・エルフリーデ・エルデュポン・エルトエルス・エルカトル・エルザ・エルゼ・エルヴィーラ・エルマントス・エルカトル・エルーゼ・エルフエルフ・ミカエル・ウリエル・ガブリエル・アリエル・アリエナイ・ラファエル・エル・エルファントさんって言わなきゃいけないの?
字数が多すぎて余白がいくらあっても足りないよ!
「あの……、エルフ王と呼んであげてください」
そこへ、彼女と共に攻め込んできたエルフの一人が見かねるように言った。
「それだと唯一、名前を呼ばないでも満足するので。そもそもエルフ王という称号自体が、あの人のフルネーム呼びたくない面倒くさがりが思いついた緊急避難的な呼び名なので」
そうなんですか?
「それではエルフ王さん、改めてお聞きしますが、こちらへは何用で?」
「何度も言わすな! そなたたちの悪行に制裁を加えるためじゃ!」
その悪行って言うのが『ニセモノ世界樹がどうたらこうたら』ということだろう。
しかし、そこから先がどうにも要領を得ない。当事者が主張するからか。他に誰か、事態を俯瞰的に説明してくれる者はいないかな。
「では私から解説させてもらおう」
と言って進み出てきたのはエルロン!
彼女もエルフではあるが、俺たちの仲間の農場エルフだ!
生粋の農場生まれ農場育ち! ……いや農場で生まれてはいないか。
「たしかに同族のエルフなら、彼女らの事情に詳しい! そしてこっちの陣営にいる以上俺たちにもわかりやすく噛み砕いて説明してくれるに違いない」
「まずエルフ王国についてだが、魔国側にある大きなエルフの集落だな。エルフが群れになって生活する集合体としては、世界一の規模だと聞いている」
エルロンさん説明してくれる。
第三者のコメントだけあって脚色がなくわかりやすい。
「規模が大きい第一の理由は、世界樹があることだ」
「ほう」
「世界樹は、ただ巨大なだけじゃなくて周囲に浄化された自然マナを振り撒いて森を活性化させる。だから森の民エルフにとっては世界樹の周辺こそ最上の環境なんだそうだ」
「なんかさっきから伝聞口調だね?」
「そりゃそうだ。私は人間国の森出身で、世界樹を見たことすらないからな」
そうだった。
人間国の問題で森が枯れ果て、住処を失った彼女は仲間と共に世界中をさすらいエルフ盗賊団になった。
そして最終的にウチの農場にたどり着いて、住み込みで働くようになったのだ。
彼女も波瀾万丈を生きているなあ。
「世界樹ふもとに住むエルフは、その葉っぱをもいで魔族に売り払い、金儲けしているとも聞いたことがある。聖者はこないだ世界樹パワーを持つ桜の木を作ったろう?」
「あ、ああ……!?」
「恐らくあの葉っぱが出回って、世界樹の葉の希少性が薄れてきたんだろう。その分プレミアのついた値段も大人しめになり、利益の減ったエルフ王国がブチ切れたと……?」
なるほど。
エルロンの説明は実にわかりやすい。
さすが同じエルフとして事情に通じているだけでなく、元盗賊というキャリアから市場のことまで語れる!
「いやでも、それだったらやっぱり悪いのは完全に向こうじゃない?」
そしてプラティ再参戦。
「モノの値段を決めるのは市場原理よ。買う側と売る側、双方が納得して適正な価格が決まる。買う側が納得しなきゃ売れないし、売る側が納得しなきゃ買わせてもらえない」
「まあ、たしかに……」
「今まで希少価値があったればこそ強気になれたんでしょうけど、数が出回れば値が下がるのは当然じゃない。それを余所の供給者に恨みをもって襲撃なんて完全な逆恨みよ!」
プラティは相変わらず正論を叩きつけてくる。
要はウチから流れていった世界樹の葉(桜)が回り回ってエルフ王国に損害を与えたということか。
世の中何がどこに影響を及ぼすかわからんな。
しかしそれでもプラティの言う通り、エルフ王国さんが困るのは市場原理が働いた結果なれば、俺たちからできることなんてない。
彼女たちのために、俺たちがこれから世界樹の葉(桜)を一切世に出さないというのも違うだろう。
万能薬である世界樹の葉の値段が下がって、助かった人たちもいることだろうし……。
「いいや! 悪いのはお前らじゃ! ニセモノを作ったんだから!!」
「ニセモノって……!?」
さっきから繰り返しそう言ってるが、凄い決めつけだな?
「そりゃそうじゃろう!? 世界樹は世界唯一、たった一本しかないから世界樹なのじゃ!! つまり我らエルフ王国にある世界樹だけが真! 他にあるわけがない! あるとしたら、それはニセモノじゃあ!!」
まあ……。
そうかもしれないが……!?
「だとしたら、ニセモノを世に出すお前らは悪者以外の何者でもない! ニセモノ世界樹の葉だって見た目が似ているだけで、実は全然効かないんではないか!? だとしたら悪行! 正義のエルフ王国として見過ごすわけにはいかんな!!」
いつの間にか正義を背負い始めた?
エルフ王国とか名乗るからには体制気取りなのだろうか?
もちろんエルフ王さんの誤解であること間違いないのだが、それを正すのに説明するのが難しすぎる。
ウチにあるのもたしかに正真正銘の世界樹であり、しかし人魚のホムンクルス技術で誕生させた合成世界樹であり……。
遺伝子操作で別種の株と混合させ、桜の特性をも備えた世界桜樹だとか説明したって通じるだろうか!?
たとえば平安時代の人にスマホを説明するような難易度と思われる。
俺にはちょっと成し遂げられそうにない!
「エルロンッ!!」
こういう時も、やっぱり同族に頼ろう!
同じエルフであるエルロンなら、きっと心通じ合って相手を納得させてくれるに違いない!!
「いや無理」
即行で断られた!?
どうしてエルロン!? キミだけが頼りなのに!?
「エルフ族と一口に言っても、出身とか派閥とか色々絡んでややこしいんだよ……!? エルフはただでさえ排他的なんだから、所属する集落が違うってだけで他種族並みに排斥してくるんだ。私たちの故郷の森が枯れた時、他の森へ移り住めなかった理由がそれだ!!」
そんな世知辛い。
エルフ同士助け合えないんですか?
「それだけでなく、あのエルフ王はハイエルフだろう? より森と同化した上位エルフ。アイツら一般エルフを下に見てるから、説得なんて通じない。むしろ下位エルフに諭されるなんてプライドが許さないとか思うヤツだ!」
「何て面倒くさい……!?」
そういう事情なら、エルロンだけでなく農場に住んでいるすべてのエルフは説得不可能ではないか。
ましてエルフ以外の種族が諭せるとも思えず……!?
「もう根絶やしにするんじゃだめなのかご主人様?」
「ダメだぞヴィール!?」
そういうドラゴン的思想は!
あっちでジュニアと遊んで博愛の心を育んできて!
「……………………いや、一人いるかな? あのエルフ王を説得できそうな人物が?」
エルロンが何か閃いた!?
さすがエルフ! 同族事情通! 俺に妙案をお授けくだされ!
「エルフというのはな。基本自分たちが一番と思ってる種族なんだ。国力とか武力とかで負けてるとしても『自分たちは森と共に生きている』から相手より高尚と思ってしまうんだ」
「面倒くさい……!?」
「そのエルフより上位のハイエルフともなれば面倒くささもハイクラスだ。そんなハイエルフに物申せる者といえば、同じハイエルフしかいない」
「おお! そうか!」
目には目を、ハイエルフにはハイエルフを! ということか!?
でも待って?
俺たちの知り合いにハイエルフいた?
「いるではないか。人間国の植林事業で知り合った……、エルエルエルエルシー様が」
おお、そうだった!
そういえばそんな人がいた!
「エルエルシーさんか!?」
「エルエルエルエルエルシーさんでしょう?」
「いや、エルエルエルシーじゃなかったか?」
結局どれだよ?
本当に上位エルフの名前って面倒くさい。
本日、作者の別作『魔剣鍛冶師になりたくて!』二巻の発売を記念して、短編を書きました!
前後に発売している作品の発売記念も兼ねましたので、各作品のキャラクターが一堂に会しているコラボ短編になっています!
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