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481 夫婦竜の善政

 私の名前はプラブ。


 魔国のとある村に住んでいる女の子よ。

 自分で言うのもなんだけどなかなかの美人で、もう少し大きくなったら魔都に上がってメイドになるのもいいと言われているわ。


 私の住んでいる村は魔都から遠く離れた田舎だけど、近くにダンジョンがあって栄えているの。

 ダンジョンで取れる黒水晶はドラゴンの魔力が宿っていて、加工すると強力なお守りになるんですって。


 村の男たちがよくダンジョンに入って水晶をとってくるんだけど、不思議とみんな無事帰ってくるのよね。

 ダンジョンを支配している黒竜様が大らかな性格で、私たち魔族ごときのすることぐらい気にも留めないんだって。


 お陰で私たちは田舎に住みながらけっこう豊かな暮らしができています。

 でもだからと言って油断は禁物。


 相手はドラゴン。

 世界でもっとも強大な存在で、私たち人類など虫けら程度にしか思わない。

 今は眼中にないとしても、ちょっとしたきっかけで容赦ない大破壊をしてくるかわからない。


 竜がいることに慣れるな。竜を恐れよ。

 村で一番長生きのおじいちゃんがよく言っていた。


 今になって、そんなおじいちゃんの言葉が克明に蘇る。

 いきなり竜が村を襲って来たのだから。


 竜は言った。


『これよりこの地を支配するのは高貴なる竜将、グリンツドラゴンのアギベンド様である。ニンゲンどもに通告する。アギベンド様のために生贄を捧げよ』


 と。

 昔からお山のダンジョンを支配していたのは真っ黒な雌竜だったって聞くけど。


 何かあったのかな?

 ドラゴンの世界でも下克上があった?


 とにかく私たちの村も大混乱。

 従わなければ村を滅ぼすと言われたので、とにかく誰かを生贄に捧げねばならない。


 拒否するという選択肢はなかった。

 だって相手はドラゴンだもの。


 魔都におわす魔王様へ救援を求めるという意見も出たが、ドラゴンが定めた期日にはとても間に合わないし、仮に間に合ったとしても所詮魔族の軍隊でもドラゴンに勝てるはずがない。


 魔王様に万一あって魔国全体が揺らぐぐらいなら私たちが涙を呑んで生贄を差し出そうと決まった。


 そして私が生贄になった。

 立候補した。


 ドラゴンも『できるだけ美しいうら若い乙女』と注文を出していたし。めんこさなら私も自信がある。


 村のためなら私も喜んで体を張りましょう! と意気込んでみた。


 私の他にも数人、同年代の女の子が生贄に選ばれ、竜に掴まれお山のダンジョンに運ばれた。

 ドラゴンは私の村以外にも近隣から生贄をとっていたらしく、到着したら他にも哀れっぽい女の子たちが。

 最終的には十何人になっていて、この子たち全員ドラゴンの生贄になるんだろうけど……。


 一体生贄って、どんな扱いされるんだろう?


 まさか取って食われることもないだろうし、召使いとして働かされるのか、もしくはドラゴンの奥様にさせられるのかと楽観的に考えていたら、本当にとって食われるらしい。


 ドラゴンの中に人肉大好きという偏食家がいて、ソイツのために私たち連れてこられたんだとか。


 まさかの最悪事態。

 どうしようと慌てるも、今からじゃ逃げることすら不可能で、潔くドラゴンのお腹にインするしかない?


 そんな諦めの境地に達した時だった。


 救世主が現れたのは。


    *    *    *


『あぎいいいいいッ!? こ、降参だ! 認める! 負けを認める! だからブレスを解除してくれえええッ!?』

『ダメだ』


 救世主もまたドラゴンだった。

 私たちを食べようとしていた悪い竜を、なんか物凄い力で圧倒している。


『おれが支配する竜族は、世界に害をなしてはならない。ニンゲンを傷つけようとしたお前を、おれは竜の皇帝として処罰する』

『やだ! 助けて! やめてえええええッ!?』


 悪い竜は見苦しい命乞いの言葉を喚き散らしながら、最後には真っ二つにされて消えてしまった。


 凄え。

 竜って最強だとは言うけど、その中でもさらに強弱があるのね。


『あッ、アギベンドがやられたッ!?』

『そんな、我々の中では一番強い竜だったのに!? だからマリー様が留守を狙って反乱できたのに!?』

『あのアードヘッグとやら、ラッキーまぐれでガイザードラゴンになれたんじゃなかったのか!?』


 他の竜さんたちが混乱している!?

 私が連れてこられた時からいた竜たちで、その中には村に脅しかけ、私を生贄として連れ去った竜がいた。


『さて、お前たちの親玉は消滅したわよ。偉大なる私の主竜によってね』

『ひぃいいいいいいいいいいッッ!? ぶぶぶぶぶ、ブラッディマリー様ぁッ!?』


 そんな竜たちをさらに追い込むように現れる、さらに別の竜。鼻先から翼や爪先、尻尾の先まで隙間なく真っ黒な竜。


『さてアナタたちはどうすべきかしらねえ? 身の程知らずのアギベンドと共謀し、反乱を実行したアナタたちもまた身の程知らず。頭目と同じ運命を辿ってもらおうかしら?』


 あれー?

 全身真っ黒な竜って、昔から村で言い伝えられているダンジョン主じゃなかったっけ?


『ももももももも、申し訳ありませんブラッディマリー様!!』

『仕方がなかったんです! アナタがお留守の間、アギベンドに勝てる者はだれもおらず!』

『皆ヤツに従うしかなかったんですううううッ!!』


 そしてその他大勢の竜たちの狼狽えよう。

 まるで村のクソガキたちみたい。オバサンに悪戯が見つかった時そっくり。


『強者におもねりプライドを売り渡す。弱者の処世を覚えたドラゴンなどドラゴンにあらず。その身もここで消し去ってあげましょうか』

『お許しおおおおおおおッ!?』


 竜たちは、黒竜様に全面降伏していた。

 対抗する気ゼロ。


『勘違いしないことね。アナタたちの運命を決めるのは私じゃないわ。名実ともに私たちドラゴンの支配者、新たなるガイザードラゴンたるアードヘッグよ』


 さっきまで戦っていた竜さんが降り立った。

 無論勝者の方だ。敗者はもうこの世にいない。


『へへええーーーッ!?』

『新帝様! どうか、どうかお慈悲をおおおおッ!?』

『アナタ様の実力を疑っていたわけではないのです! アギベンドのバカが勝手にいいいいッ!?』


 その他大勢の竜が必死に弁明するけど、肝心の強い竜さんは一切無視して向かってくるのは……私たちの方?

 何!?

 まさか、この竜も私たちを食べるつもり!?


 と思ったが竜はなんかいきなり変身して……、人の姿に変わっていた。

 魔都にいそうなカッコイイ男の人だった。


「皆すまない。此度は、我らドラゴンの中で飛び切り愚かな者がお前たちに迷惑を掛けた」


 と言って頭を下げる。


「おれはガイザードラゴンのアードヘッグ。この世界すべての竜を束ねる者。その名に懸けて誓おう。おれが皇帝竜の座にある限りドラゴンは人類を襲わない。もしこの禁を破る不届き者がいればこのおれみずから罰を下そう」

『ニンゲン相手に何を下手に出ているの?』


 今度はあの真っ黒な竜まできた!?

 そして変身した!?

 滅茶苦茶綺麗なお姉さんに!?


「アナタがニンゲン贔屓なのはわかるけど、舐められるのはダメよ? いいことニンゲンども。私もアードヘッグの方針には基本従うけれど、アナタたちの方から仕掛ければ全力でやり返すから、よく覚えておくことね」


 ひえええええッ!?

 このお姉さんドラゴン、ハンサムドラゴンのおおらかさを引き締めて姉さん女房みたい。


「安心なさい。キミたちは元いた村へ送り届けよう」

「そして同族たちに伝え広めなさい。この方こそ新たなる竜族の支配者、皇帝竜ガイザードラゴンの称号を持つ者、その名をアードヘッグ。竜の慈悲を受けたければ彼を讃え、奉れと」


 女性の方が抜け目なく相方を立てようとするの凄い!

 本当に姉さん女房だ!


「わかりました! 私たち帰って、必ず今日見たことを伝え広めます!」

「強くて優しい竜の夫婦がいることを!」


 あッ。

 他の子も夫婦という印象を持ったんだ。


「ふうふッ!?」


 そして竜のお姉さんが過剰な反応を示した。


「だってそうでしょう? さっきからお似合いの雰囲気ですもの!」

「しっかり者の姉さん女房って感じですよね!」


 助けられた乙女たちが口々に仲睦まじさを讃えるが、称えられる方は逆に困惑のご様子。


「ななな、何を言っているのかしらコイツらは!? テキトーなことを言ってると焼き払うわよ!? そうだわお土産に黒水晶でも持って帰る!?」


 こうして私たちは無事それぞれの村に帰還し、仲睦まじい竜の夫婦が人類を守護してくれているというお話が世界中に知れ渡りましたとさ。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言]どーしてこの作品に出てくる男共は皆、朴念仁なんだろうか…
[一言] 「アギベンドがやられたようだな・・・」 「ふふふ・・・奴は反逆竜の中でも最強・・・」 「ブレス一発で負けるとはどどどどどどどーしよう(ガクブル)」
[一言] >>そうだわお土産に黒水晶でも持って帰る!? 吹いたw ワロタw スゲェ嬉しそうなの丸わかり。鈍感以外なら気付けたでしょうな。鈍感以外なら。 ……ちょっと不憫。
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