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476 素敵なミキシング

「例えばオレンジだろう?」

「おう?」

「次にバナナを入れてみる」

「お!」

「さらにリンゴも入れて、そしてミキサーにかけてみよう!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 というけたたましい音を立て、内容物を粉々にしていくミキサー。

 そしてドロドロに混ざったものを再びコップに注ぐ。


「さあ飲め!」

「今度は美味そうなのだ! みかんもリンゴもバナナも大好きだぞ!!」


『今度は』言うな。

 まあ、今回は皮全部取り去ったから苦味雑味はないと思うが……。


「いっただっきまーす!」


 こうしてヴィール、異世界ミックスジュース試作第一号をきこしめす。

 コップが真っ逆さまになるほど傾けて、一気飲みだった。


「ぶはぁー! うめえ!!」


 よかった『美味い』いただいた。

 せっかくドワーフとエルフが協力して一生懸命作ってくれたんだから成功してくれないと申し訳ない。


「なるほど! ごちゃ混ぜにするのはこういう利点があったんだな! ミカンのジュースも美味いしリンゴのジュースも美味い! それを両方混ぜたらもっと美味くなるなんて当たり前だ!」

「興奮しておるな、いいことだ」


 あと、みかんじゃなくてオレンジだぞ。

 細かいことだが大事だぞ。


「あとバナナもジュースにできるなんて新発見だな! バナナなんて絞ってもどうにもなんねーだろーって思ってたんだが、粉々にして飲めるようにするなんて発想の勝利なのだ!」

「たしかに」

「ご主人様! これってもしかして他にも色々混ぜれるんじゃないか!? ぶどうも、ナシも、メロンも、全部ミキサーにかけてジュースにしてしまうのだ! 想像するだけでワクワクするぞ!」


 ヴィールはすっかりミキサーの虜になってしまった。

 しかしヴィール、ミキサーがミキシングできるのは果物だけと思ってるならまだまだ発想に制限がかかっているぞ?


「そのことを証明するためにも一旦山を下りようじゃないか」

「おお! 他の連中にもミキサーを見せびらかしてやるんだな! ちょっと待て! じゃあ材料の果物をたくさん持っていくのだ!」


 ダンジョン果樹園のその辺になってる果実を片っ端から集めるヴィール。

 これより本格的なミキサーのお披露目会が始まる。


    *    *    *


 ダンジョン果樹園から農場へ帰還。

 ドラゴン形態のヴィールに乗ってきたから移動は行きより楽だった。


「刮目するがいい! そして恐れおののけ! これこそご主人様の新たなる力、ミキサーなのだ!」


 まるで自分の成果のように誇るヴィールはいつものことだった。


 でもダンジョン果樹園から持ち込んだ果実で気前よくジュースを作り、振舞ってくれるのは助かる。

 お陰で俺は新しい試みに集中できる。


 手の空いた者たちが次々ミキサーへの好奇心で吸い寄せられていき……。


「美味しい!」


 好評のミックスジュースだった。


「ただ絞った汁よりも喉越しがたしかですな! 丸ごと砕いたせいでしょうか!?」

「フルーツを何種類も混ぜ合わせたなんて美容にもよさそう!」

「聖者様! これ私たちが拵えたガラス部品使ってますよね!? この上の部分そうですよね!?」


 受け入れられたようでよかった。


「あら喉越しよくておいしいじゃない? ジュニアが乳離れした時の食事にもよさそう」


 プラティからも高評価を貰い、ミキサーは着実に市民権を獲得していく。


「ぐははははは見たか! このミキサーによってフルーツは新たな可能性の次元へと踏み出したのだ! 新世界の幕開けなのだー!!」


 久々に調子に乗ってるヴィールだが、そんな時こそ落とし穴があると経験で知っているはずだぞ?


「フルーツだけがミキサーに入れるものじゃないということを教えてやろう!」

「な!? ご主人様それはーーーッッ!?」


 これを収穫するために降りてきたのだ。


 トマト。


 真っ赤に熟した果実のヘタを取り、また適度に切り分けミキサーに入れる。


「その前に一回洗わないと……!」


 前に使った分の残りをしっかり流して味が残らないようにしないと……。


 改めてミキサーの中にトマトを放り込んで、塩を一振り……。

 ……してから回す!


「おおおおおおおおッ!?」


 トマトジュースだ!

 真っ赤な液体がコップに満ちる。


「健康ジュースと言ったらこれだな」

「そんなことしていいのかご主人様!? 野菜も入れちゃっていいのか!? ミキシングしていいのか!?」

「もちろんだとも」


 ミキサーは器が大きいんだ。

 野菜だろうと果物だろうとなんでも受け入れてしまう大らかさを持っている。


「キャベツやホウレン草のような葉物だって!」

「おお!?」

「根菜だって!」

「おおおッ!?」

「なんだってミキサーは美味しいジュースにしてくれるんだ!!」


 そして出来上がる野菜ジュース。

 果物も加えて甘みを足して、さあ飲み干せ。


「おおおおおッ!? これは何と爽やかな!」

「体の節々に溜まった疲れが吹き飛ぶようですぞ!」


 野菜ジュースはオークゴブリンたちに好評だった。

 彼らも畑仕事で毎日体を動かしてるからな。


 毎日の食事とはまた別で速やかなビタミン補給源が必要だったのかもしれぬ。


「なんて凄いのだ……! ミキサーは、ミキサーは万能なのか!? 世界のすべてがミキサーに飲み込まれるのだ!!」


 いや、さすがにそこまではないが。

 そんな大悪魔アバドンと一緒のような扱いを受けてもミキサーの方が困ろう。


「だったら……、もしや……!?」


 ヴィール、ワナワナと震える。


「ラーメンだって、ミキサーにかけられるんじゃないか?」

「かけられません」


 ラーメンはラーメンのまま食べた方が絶対美味しいよ。


「ならなら……ッ!」


 さらに話に加わる意欲ある者。

 レタスレートだった。


「豆は!? 煮詰めて柔らかくしてからならミキサーにかけても簡単に砕けると思うの!」

「まあ、そういう調理法はあると思うけど……!?」


 ペーストってヤツ?

 ただ豆で飲み物を作りたいと思うなら素直に豆乳にしとけ。


「では納豆ではどうでしょう?」

「やっぱり来た!?」


 やっぱり来たなホルコスフォン!?


 さすがに納豆はミックスジュースにはならないでしょう!

 ……ならないよな!?


 百パーセント『ない』と言い切れないのが納豆の恐ろしさ。


「研究の価値はあると思いますぞ?」

「フルーツと一緒にミルクを入れてみてはどうでしょう? 味も豊かになると思いますわ」


 他の農場住人たちも自然とより美味しいミックスジュース作りに議論をぶつけ合う。

 そのうちに俺の手を離れたところで、新たなる異世界ミックスジュースが誕生するのかもしれない。


    *    *    *


 あと最後にもう一つ……。


「ヴィール、もう一杯味見してみてくれ」

「お、なんだ? 美味しければ何でも来いだぞ」


 快い返事のヴィールに差し出す液体は……。


「おお!? これはまた見たことのない感じだな! めっちゃ緑だぞ!?」

「ふふふ、飲んでみたまえ」


 ヴィールは疑いもなしに、この青々とした汁を躊躇なく一気に飲み干す。

 そして……。


「まっっっずッ!?」


 思った通りのリアクションがもらえた。


「なんだこれ!? 不味い! と言うか苦い! 青臭いぞ! なんなんだこれは!? ご主人様が作ってくれたものでこんなに不味いのは初めてだ!」


 そうであろう、そのように作ったのだからな。

 ミキサーで色々粉砕している間に『作れるんじゃないか?』と思ったんだ。


 青汁。


 あのマズくて健康にいいで有名な。

 作れるもんならと試しに作ってみた。とはいえ材料は知らないので青菜系を片っ端から混ぜ込んでみた『なんちゃって青汁』ではあるが。


「うう……、ご主人様に騙されたのだ。不味い、不味いよう……!」


 ヴィールは、ぶつぶつ恨み言を言いつつも自家製青汁をチビチビ啜って……。


「やっと飲み切ったのだ。不味かった。……もう一杯なのだ」

「しっかりテンプレ守ってるじゃないか」


 青汁へのリアクションは異世界でも共通らしい。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] ミキサーも良いですが、 腸詰め器の押し出す機構を使って、挽き肉器ミンサーが作れますよね。 ミンサーができれば、ジューサーまであと一歩。
[一言] 八名信夫さんが後年インタビューで「あれは本気で不味かったから『不味い!』って言っちゃったんだけど、『ヤベェ、これCMだった!フォローせにゃならん!』って思って『……もう一杯!』って言ったらそ…
[一言] 一晩水に漬けた大豆をミキシングして布で濾したら豆乳じゃなかったっけ?
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