474 異世界喫茶事情
俺ですが……。
「反省会をしようと思う」
「何の?」
「俺たちの結婚式の」
「もう随分前になってない?」
うん。
あんなに楽しく素晴らしかった結婚式も振り返ってみれば、ちょっと昔。
まこと月日の流れの早きことか。
百代の過客。
「それに反省なんかいる? あの結婚式サイコーだったわ、一生の思い出に残る、いい意味でね!」
何よりプラティからそう言ってもらえば、これより嬉しいことはない。
何せ完全にプラティメインのイベントだったから。
プラティが楽しんで思い出を残してくれれば、それがもっともベスト。
しかれども。
「もっとも重要なプラティだけでなく、他の参列者たちもできるかぎり満足していただくことにも拘りたいのですよ」
「旦那様、カッコいい~」
よせやい。
「でも招待された人たちも大体喜んだんじゃない? 帰り際皆満足そうな顔してたわよ?」
たしかに。
結婚式の参列者は大きく農場住人と、農場外からの招待客の二つに分かれるが、そのどちらも分け隔てなく、満ち足りた表情で解散していった。
中には驚きすぎて口から魂抜き出たような表情になってる方もいたけど。
「ブーイングが出たところと言ったら精々アタシが細工したブーケトスぐらいじゃない?」
「プラティはそこ反省してね?」
やっぱり反省点が出てきたわ。
ちなみにプラティが改造開発した超高速機動型自律稼動ブーケは今日も元気に農場内を飛び回り、結婚欲に憑りつかれたうら若い乙女たちを翻弄しております。
……いや違う。
俺が反省したいのはそこではない。
「披露宴で出したご馳走なんだけど……」
「食べ物? あれこそ完璧だったじゃない! どれもこれも美味しくて頬っぺた落ちまくりよ!」
彼女も花嫁姿でガツガツ食いまくってたからなあ。
当時のことをも想起してウットリするプラティ。
「さすがにお祝いの日だったから、俺も張り切って料理を揃えた。量も質も納得いくものを揃えたつもりだ」
「だったら反省なんていいじゃない?」
「でも終わってみたら、俺の視点からじゃ見えなかった足りないものに気付いてな」
「えッ!? 足りないもの!?」
今日の反省会はもっぱらそのことについてだ。
「足りないもの……、ってことは。そこを補うためにまた新しい料理を拵えるってこと!? 旦那様の新作料理、久々に……、じゅるり」
よだれが、抱っこされてるジュニアにかからないよう注意してほしい。
「で!? 何を作るの旦那様!? 作ると決めたら善は急げよ、ジャスティスはゴー!」
「何か作るとも言ってないんだが……!?」
プラティのテンションが結婚式の時より上がっている気がする。
……深く考えずにおこう。
「反省を続けよう。俺が気になったのは、飲み物だ」
「飲み物?」
食事には飲み物が付き物。
食べて飲んで飲食と書く。
ドリンクなしで食べてばっかりでは、口から水分がなくなって飲み込めなくなってしまうからな。
「……それなら別に問題ないじゃない? 結婚式でもバッカスが用意してくれた最高のお酒ばっかっしだったじゃない」
プラティがバッカスの口調を真似しようとして真似しきれていなかった。
「たしかに酒もあった」
この世界における酒の祖バッカスが、農場の原料を用いて手づから作り上げた酒。
最高級品と言って間違いない。
あれで不満だと言ったら天罰が下ることだろう。ヤツは天界由来の半神だし。
祝いの席で酒はつきものというか、ないわけにはいかないから、あれはいい。
完璧な仕立てであった。
しかし逆を言えば……。
「酒以外のドリンクがなかった」
「はう?」
「やっぱりアルコールだからさ。誰でも飲めるわけじゃない」
我が農場も、各国から留学生を預かることで平均年齢が低くなった。
当然彼らはお酒を飲める年齢ではない。なのに披露宴の最中は、他に飲めるものがない。
「仕方なく水……、ってせっかくのパーティには寂しいと思ってな」
「なるほど、アタシらはフツーにお酒飲んでたから気づき難かったわね」
でしょう?
俺も、もうとっくに大人だから思い至らなかった。
周囲を見て初めて気づく至らなさ。
「ジュニアもこれから大きくなってさ。子どもらしくたくさん食べて大きくならなきゃじゃない? そんな時ご馳走に添えられたドリンクが水だけじゃねー?」
「お酒は?」
「プラティさん?」
未成年の飲酒はNOというところから話し合わなきゃかな?
「ふーん、じゃあお酒みたいに美味しいけれど、お酒みたいに酔わない飲み物を作ろうってわね?」
「さすがに察しがいい……!」
まあそういうことだ。
飲み会やるとして。
『でもオレ酒飲めないんで!』という人のために大抵メニューの奥の方に小さく載せられている『ソフトドリンク』の一覧。
ウーロン茶を代表に、コーラ、オレンジジュース、コーヒー紅茶、ウコンエキスに冷やし飴。
そういうものがあるから下戸の方でも飲み会が楽しめる!
俺もそういうものを作るべきだった!
そうすれば未成年の子たちも披露宴をもっと楽しめただろうに!
「今からでも遅くない。俺は作ろうと思う。ノンアルコールなパリピ飲料を!」
「わー! さすが旦那様ー!」
胸に抱いた我が子と共に拍手を送るプラティ。
彼女は多分美味いものが出来れば何でもいいんだろう。
さて、ここで我が農場のドリンク事情を見直してみよう。
農場暮らしもけっこう長くなったが、その間ずっと飲む物といえば水だけだったのか?
ずっと酒ばかりを体内に注ぎ込んでいたのか?
さすがに違う。
これまでアロワナさんや魔王さんなど訪問客と歓談しながらお茶していたこともあるし、さすがに客人に白湯を振舞うのは……。
なあ?
さすれば我が農場には既に喫茶文化があるのかというと……これがまた複雑でな。
茶を入れるには茶葉が必要だし、茶葉を得るには茶畑を拓いてしっかり育てねばならない。
なら我が農場には既に立派な茶畑があるの? と問われたら、実はない。
俺、まだお茶方面の生産にまったく手つかずなのだ。
コーヒー豆も作ってないしなあ。
では益々、魔王さんやアロワナさんと一緒に喫していた茶は何なんだよ? という話になるが。
今こそ明かそう、あの異世界茶の正体は……。
その辺でちぎってきた葉っぱを、そのまま煮出したものだ!
いや聞いて。
あれはまだ農場開拓最初期の頃。畑を広げたり、味噌醤油を作ったり、家を建てたりでやること満載だった当時、とても嗜好品のお茶にまで割くリソースがなかった。
しかしただのお湯を喫するのは物寂しいということで、その辺に生えてる木から葉っぱを四、五枚ちぎって、そのまま鍋にインして煮たててみたら、それとなくお茶っぽくなった。
飲んでみたら、まあそこそこ美味しい。
幸い農場だし、葉っぱも草もそこら中にあるもんだから、楽が勝ってずっとその方式を維持していた。
他にやることが多かったからねー。
しかし、そろそろ本格的にちゃんとしたお茶を作る時が来たのかもしれない。
そのためにはまず茶畑から拵えないとで、手間暇かかりそうだ。
コーヒー農園もな。
そこでまずはもう一方の趣向品的飲み物の方に当たってみようと思う。
ジュースをさ。
本格的に作ってみようではないか。
いずれ成長するジュニアが、美味しく水分補給できるように。
異世界ジュース作りに挑戦します。
* * *
……あッ。
そういえばお茶の中でも麦茶は作れたな?
以前バッカスのところの巫女さんが作ってくれたのに衝撃を受けて、そのまま忘れてた。
今年はたくさん作るとするか。







