467 怒れる聖剣のつぶやき
オレは怒聖剣アインロート。
強猛たる七聖剣のうちの一振りである。
…………。
あー。
出だしからため息ついても仕方がない。
剣なのに、口もないのにため息が出るのも仕方がない。
オレが聖剣として生み出されてより千年余り、これまでにない過去最高の退廃にオレはいるのだから。
まずオレたち七聖剣は、互いに争い、壊し合うために使命があった。
各々を食らい合うことで力を集め、最後に残った一振りが究極の力を持つ真聖剣となるために。
オレの前半数世紀ほどは、まさしくその使命をまっとうするための戦いだった。
同様に真聖剣を目指す同類四振りを叩き折り、その力を吸収してより強くなった。
残り二振り。
ヤツらを倒せば念願の真聖剣になれるというのに、ソイツらがなかなか出てきやがらない。
数百年を無為に過ごしてやっと、そのうちの一振りに遭遇できた。
早速喰らってやろうと心躍らせたが、その主がとんでもないヤツだった。
なんと、かつてオレが滅ぼしたはずの敗北聖剣を鍛冶して復活させやがったのだ!
これどうなってんの!?
敗者復活はルール的にどういう扱いになるんだと混乱するものの、それ以上の衝撃がオレを襲う。
なんと復活した妄聖剣ゼックスヴァイスは、復活して真聖剣と化していたのだ。
力も強く、五振り分の力を得たオレなど雑魚扱い。
そのあとに復活した怨聖剣フンフヴィオレットも同様で、聖剣勝者最有力候補だったオレが形無しとなった。
生み落とされてより数百年、戦いに明け暮れてきたオレの頑張りは何だったの?
それだけでなく、復活&完全化を果たしたゼックスヴァイスとフンフヴィオレットは天神の張った『神聖障壁』を打ち破り、魔族が人族を倒す道を切り拓いた。
それは真聖剣が果たすべき役割だった。
完全に聖剣は役割を終えて、何のために存在するかわからなくなった。
以降、オレはただ持ち主の腰を飾るためだけの存在と化している。
戦争終結し、内政に専念するようになった魔王など、飾り以外のいかなる意義をオレに求めようか?
たまにレッサードラゴン退治で使われることもあるが。
戦い終わってオレが存在する意義は完全になくなった。
平和の時代に剣など必要とされるだろうか? 必要としないならいっそオレこそ叩き折って世界から消してほしい。
このオレが剣として、凶器としての鋭さを忘れないうちに。
すっかり変わり果ててしまった当代の我が主のように、ブクブクと肥え太るのは御免蒙る。
しかしマジで太ったなこの主!?
そろそろ見過ごせないレベルじゃないのか!?
戦時中は歴代主の中でも抜きんでて強豪だったのに、平和というものはここまで戦闘者を鈍麻させるものなのか!?
『まー、そうカリカリしてもしょうがないじゃないのよー?』
この聖剣同士でのみ通じる思念で話しかけてくるのは!?
邪聖剣ドライシュバルツ!
オレの倒すべきだった宿敵の一振り!
『いやねえ、そんなのもう昔の話じゃないのよ。肩の力を抜いて、平和になった今の世の中を楽しみましょう。……剣に肩なんてないけどねッ!』
ふん、お前もすっかり腑抜けたナマクラ剣になりおって。
……ってうおッ!?
なんだお前、甘い!?
刀身から物凄い甘い匂いが漂ってくるぞ、どうした!?
『……そうやって今の私は主の役に立っているということよ』
よくわからんがドライシュバルツの悟りきった気配に、却ってオレは空恐ろしいものを感じた。
お前も大変なんだな、と言うので精いっぱいだ。
ところで。
こんな風にオレとドライシュバルツが会話できているのも、またオレの主がヤツの主の下へ訪問したからに他ならぬ。
どうやら最近悩んでいた肥満をドライシュバルツの主に相談しに来たようだ。
フン、情けない。
贅肉など四、五ヶ月戦って敵を斬りまくればすぐ元の筋肉質に戻るだろうに。
やはり平和はいかん。
魔族は戦いに明け暮れなければ。
このオレと主の戦闘本能を一気に呼び覚ます熾烈な戦いに出会わないかなあ?
『それフラグっていうのよ?』
どういうことだドライシュバルツ?
と聞くより前に、戦いが襲い掛かってきた。
ドラゴン!?
惨絶なる戦いよ巻き起これとは願ったが、これは限度を超えていないか!?
ドラゴンが襲ってきた!?
レッサーでもない正規のドラゴンが!
いくら聖剣のオレでも手に余る相手だぞ!?
しかもなんだ、ドラゴンと一緒に襲ってくる羽の生えた人類は?
見たこともない特徴だがどんな種族だ!? オレの知るどんな種族よりも度を超えて強すぎる!?
『ホルコスフォンちゃんは天使って言って、天の神が作り出した最強生命よ! ドラゴンと同じぐらい強いから気を付けてねー』
なんだとおおおおおッ!?
ドライシュバルツの気の抜けた声援を受けつつ、オレの主はオレを振るって、この二体の凶悪と戦った。
正直戦いになんかなってない。
バケモノどもの猛攻を何とか凌いでいるといった風だが、しかしそれでも我が主、よく凌ぐではないか。
出張った腹を揺らしながら。
やはり鈍ったとはいえ、この怒聖剣アインロートが歴代最強の主と認めただけはある。
この主とこうして滅び去るまで戦い続けていられたらさぞかし幸せだろうかな。
しかしよい時間はすぐに過ぎ去る。
デブった主はほどなく息切れし、休憩になってしまった。
なんともつまらん。
やはり本物の戦いでもない模擬戦では真の高揚は得られないな。
オレが落胆している間、主は体力回復ということで食事をとるが、主が一口食した途端……。
おおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?
なんだ!? 漲るほど強い力がオレの刀身に流れ込んでくる!?
これは主の力か!?
主が食べた何かしらの力がオレにまで影響を及ぼすなんて!
なんて凄まじい力なんだああああッ!
『ドラゴンラーメンの効能ねー』
凄い! 素晴らしいぞ!
これは竜の力なのか!?
主の体内から湧き起こる竜のパワーは、その手を介してオレにまで伝播し、勢いを増してゆく!
真聖剣となる以上の進化だ!
この力で、竜と天使にもさっき以上に戦える!
素晴らしい、これこそオレが求めていた聖剣の姿だあああッ!
『ソンナに戦いたいか……?』
え? 何?
ドライシュバルツなんか言った?
ヤツじゃない。
じゃ誰の声だ?
『ナラバもっと力を与えてやろう。そしてすべてを壊し、殺すがいい』
これはもしや、オレの刀身に伝わってくる竜の力?
ドラゴンなら誰もが持つという狂暴性、破壊衝動が、オレを支配しようとしている。
『サア、もっと力を望め、望むだけ与えてやろう。そしてすべてを飲み込み滅ぼすのだ!』
『いけません』
今度は何!?
『破壊など望んではいけません。アナタのご主人様が望むのは、悠久の平和。人々の小さな幸せを守ること。それこそもっとも尊い行いではないですか』
そう語るお前は何者ぞ?
『私は、ドラゴンエキスと共に魔王様の体内に摂取された……、納豆の聖霊』
納豆の聖霊!?
たしかに我が主、ラーメンと一緒にネバネバねばつく豆を食らってたけど!?
納豆が正しい側として働きを示すの!?
善と悪。
光と闇。
ドラゴンエキスと納豆の戦い!?
オレは、オレはあああああ……!?
* * *
『ちょっとアインロート!? どうしたの突然黙りこくって返事なさい!?』
ドライシュバルツか。
心配して呼びかけ続けてくれたのだなありがとう。
『えッ? 何そのいきなり態度が変わって?』
オレは生まれ変わったのだ。
オレの中で光と闇が相克し、そして最後に光が勝った。
『はあ……!?』
オレは悟った。
争いの絶えたこの時代。凶器としてではない、聖なる器具として、平和を求める魔王を援けその刃になると。
納豆が教えてくれた。
『納豆が!? どうして!?』
ドラゴンエキスで力増し、その力を納豆が制御する。
両者を併せ持って真聖剣を超える正しさを得たオレは今や。
納豆聖剣。
納豆聖剣として、この治世を魔王と共に生き抜くとしよう。
『はあ……、よくわかんないけど魔王さん、ドラゴンラーメンと一緒に納豆食べてよかったねってことね?』






