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465 痩せるか死ぬか

「ぎゃあああああああッ! おいいいいいいッ!? ぐおおおおおおおッッ!?」


 悲鳴を上げながら逃げ惑う魔王さん。

 さすがのあの人も、竜と天使のダブル攻撃を受けたらああなるしかないか。


『おらー、逃げてばかりで情けないぞー! 反撃でもしてきたらどうだー!?』

「目的が体力消費によるボディ軽量化なら、それでも条件に適うのでは?」


 軽口をたたき合いながらも攻撃の手は緩めない。

 ヴィールはドラゴンブレスを、ホルコスフォンはマナカノンを容赦なく連射してくるけれど。


「おのおおおおおおッ!? きゃああああああああッ!?」


 相変わらず魔王さんは情けない悲鳴を上げながら逃げ惑う。


 以前ならたとえ死の危険に直面しようとあんな悲鳴を上げる人ではなかったと思うが。

 やはり肥満によって心も硬度を失っているのか?


『よし! この辺で休憩なのだ!!』


 小一時間ほどしてヴィールの方から言い出した。


 魔王さん生き延びた。

 しかし逃げ惑うのに相当体力を使ったのだろう、全身汗だくで、髪先からも汗のしずくが滴っている。


「このままでは命まで消耗して大変よろしくない。養分補給は必要なのだ!」


 人間形態に戻ったヴィール。

 どこから用意したのかテーブルと椅子があって、そこに魔王さんを座らせた。


「さあ食うのだ。このおれ特製ラーメンだ」

「ちょっと待て」


 何か食べさせるのはいいとして。

 よりにもよってそのチョイスがなんでラーメンなんだ?


 ダイエット戦士の怨敵じゃないか!?

 激辛ラーメンならたくさん汗をかいてプラマイゼロとかありえないぞ!


「大丈夫だ! このおれが心を込めて作ったラーメンだからダイエットにも効くのだ! おれを信じろご主人様!」


 俺に向かって言う。

 何故なら魔王さん当人は限界体力でゼェゼェ息切れして、今にも息絶えそうだったからだ。

 会話する余力もない。


「さあ、食うのだ。特別におれが『あーん』してあげるのだ」

「あ、あーん……!!」


 そして油と糖質の塊と言っていいラーメンを口へ。

 なにか命を懸けて積み上げた苦労を一挙に無に帰す一口に思えたが……。


「こおおおおおおッッ!?」


 なんだ!?

 急に魔王さんが猛り奮う!?

 全身から光り輝くオーラを放出されておるではないか!?


「おいヴィール何やった!?」

「冒険者の連中にも振舞っている、しょうゆゴンこつラーメンを食わせてやったのだ。シードゥルのヤツから煮詰め取ったエキスが五百倍に薄めて入れてあるのだ」

「ええッ!?」


 それって迂闊に摂取したら不老不死になりかねないアレ!?


 やめろよそんな危険なものを迂闊に魔王さんに食わせるな!

 いやでも五百倍にまで薄めたらさすがに中和されるか?


「人体に深刻な影響が出ないのは、既に立証済みなのだ! アレキサンダー兄上のダンジョンで屋台引いた甲斐があったな!」

「人体実験めいたことしてない?」


 とにかく極薄にしたとはいえ、人類を遥かに超える優越種ドラゴンの成分を入れられたのだが魔王さん元気。

 さっき死にかけてたのなどウソのように、元気溌剌ファイト一発。


「おおおおおッ! 体に力が漲るぞおおおおおッ!? 人間国へ侵攻した時以上の高揚感!!」


 魔王さんが気力充溢している。


「その意気です。さあ納豆も一緒に食べましょうね」

「がつがつッ!」


 どさくさに紛れて納豆も食わせるホルコスフォン。


「ぐおおおおおおッ! さらに力が漲るぞおおおおおおッ!!」


 そしてたしかな効果がある。

 ホント何なの納豆のこの凄さ?


「納豆ダイエットというのも行けそうですね」


 本当にありそうだから底知れない納豆。


『よしッ! 元気も取り戻したところで再びダイエット開始だ! 今度は少し手を緩めるのをやめてやるのだ! 覚悟してこい!』

「おう! この魔王ゼダン、竜と天使に戦いを挑む! おおりゃああああッ!」


 心なしか掛け声にも雄々しさが戻り、進歩が窺える。

 さっきのような情けない悲鳴をもう魔王さんは上げなかった。


 こんな感じで魔王さんのダイエットはペースを上げていくのだった。


    *    *    *


 魔王さんダイエットのパターンは……。


・ヴィールとホルコスフォンによって体力の限界まで消耗させる。

・ドラゴンエキス入りラーメンで瞬時に復活させる。

・納豆も食わせる。

・そしてまた激闘。


 この繰り返し。

 限界を超えた運動で贅肉はどんどん削げ落ち、そのうちにある魔王さん本来のムキムキ筋肉が顔を出す。


 竜&天使戦闘という地獄の特訓で筋肉自体も鍛え直され、なんか初めてあった時より逞しくなった印象もある。


 ラーメンに入ったドラゴンエキスの効果もあるのか?


 終わってみれば数日どころの話じゃない。

 日も暮れないうちに魔王さんは元のムキムキボディへ復活を遂げてしまった。


「我……、魔王……、最強なり……!」


 覇気も尋常な濃度ではなく、ぎらつく瞳は小動物を睨み殺せそうな眼光。


「我が前に敵はなし……、我に敵う者なし……! すべての生命が我が支配下、世界すべてが我が国土……!」


 ……あれ?

 魔王さん言ってる事怖くないですか?


 ダイエットが過酷すぎて性格が歪んだ!?


「ゴンこつラーメンを食べすぎたのかもしれんなー」


 ヴィールが他人事のように気楽に言う。


「ドラゴンエキスは体内から排出されずにずっと溜まり続けるからなー。だから冒険者どもも一回食べたら生涯二度と食べさせないようにしているのだ。二杯目からは人間用のとんこつラーメンを食ってもらうのだ」

「おいこらーッ!?」


 そんなものを魔王さんに二杯以上食べさせたと!?


 原液のままだと精神崩壊してバーサーカー化してしまうドラゴンエキスを五百倍に薄めてなんとか問題ないようにしたのに!


 それを二杯食べたら二五〇倍!?

 三杯食べたら一三三倍!?


 どんどんヤバい濃度に近づいている。


「魔王さんが急に怖いこと言いだしたのも、その影響か? 答えろヴィール、なんでそんなことした!?」

「王様なら常人以上の濃度も耐えられるかなーって、信じてみたくなった!」


 軽々しくヒトを信じるな!


「争いが我を求めている……! 平和の惰眠を貪る民など生きる価値なし……! 起こせ戦争を……! 殺し合いこそ人類の歴史……!」


 このままじゃバーサーカー化した魔王さんをきっかけにまた世界戦争が巻き起こる!?


「しっかりするんだ魔王さん! アナタはそんなキャラじゃなかったはずだ!」


 寛容さと優しさを兼ね備えた真の王者でしょう!?


「ゴティアくんやマリネちゃんのことを思い出しなさい! あの子らがそんな魔王さんを見たら泣きますぞ!」

「そ、そうだ! 我はゴティアとマリネの父、そして国家の父、父たる者は慈愛こそ寛容。その姿を、後継のゴティアにしっかりと見せなければ……!」


 肩をガクガク揺さぶってなんとか正気に戻せた。

 あっぶねー。


「もうこのダイエットは禁止! 危険すぎる! 身体調整はリスクを避けて行うものです!」

「でももうダイエットしなくていいんじゃないか?」


 ヴィールの指摘する通り、地獄の模擬戦の果てに魔王さんは無駄な贅肉を溶かして捨て去ってしまっていた。


 元通りの筋骨隆々で、この上さらにダイエットは必要あるまい。


「おお! まさかこんなにも早く元の体型を取り戻せるとは! さすが聖者殿ダイエットとやらは凄い威力だな!」


 俺もこんな凄いダイエット知らなかったよ。

 こんな即座に痩せられるんなら誰だってやりたがるだろうけど。きっと千人に一人も達成できないんだろうな。


「これでベルフェガミリアのヤツも見返してやれるぞ! あと『デブだなー』と抜かした親父殿も!」

「よかったです」

「何やら達成感がわいてきたな! よし、祝杯代わりにいつもの飲み物を啜るとするか!」

「え?」


 そう言って魔王さんがどこからか取り出した……。

 筒。


 その中に何か液状のものが入っているらしい。

 魔王さんはそれを仰いで一気に飲みほした。


「力が漲る! やはりこれこそ我が力の源よ!」

「えっと……、それ何です?」


 気になって魔王さんが飲んだものの残りを見せてもらった。

 それは見覚えのあるものだった。


 マヨネーズだった。


「原因発覚!!」

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] マヨネーズ過剰摂取はあかん、あかんのだ。 あれほとんど油だからなぁ・・
[一言] 重度のマヨラーであったか・・・業が深い・・・
[良い点] 魔王さん筋肉復活おめでとうwww [気になる点] ・・・・・・誰だ魔王さんにマヨネーズ渡したの。
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