455 神の決闘
そしてついに……。
結婚式当日がやってきましたぁー!!
俺、ハレの日を迎えたことに感無量!
思えば遠くへ来たものだ……!
プラティと初めて出会った日のことがつい昨日のように甦ってくる。
そこから二人で歩んできた道は、農場発展の歴史そのものだった。
そんなプラティと結婚式を挙げる。
結婚自体はだいぶ前からしてたんだけど。
これもまた一つの区切りな気がするなあ。
しかしこれまであやふやにしていた段階をしっかり踏んで、より前へと進められると思う。
俺も既に式の準備を整え、全身を純白のタキシードに包んでいた。
まさに新郎という出で立ち。
俺の言葉だけの指定でよくタキシードを再現できたものだ。
相変わらず凄いなバティは。
しかもこのタキシード、久々の金剛シルク製で、防御力はヘタな伝説の鎧以上にあるらしい。
まさに晴れ舞台に相応しい。
今日はこれを着て、プラティと改めての誓いを宣言しよう。
「ご主人様―、準備できたかー?」
俺用の控室へヴィールが入ってきた。
今日はコイツもおめかし仕様だ。
「会場の準備も整ったのだー。まったくおれを呼び出しに走らせるとはいい度胸だ!」
「そう言うなって。式が終わったらまた宴会だ。そしたら美味いものがたくさん出てくるぞ」
「それは楽しみなのだ! よし、おれの新作ラーメンもついでに振舞ってやるか!」
いつも食う側だったヴィールがいつの間にか食わせる側に……!?
誰もが少しずつ変わっていっているのだなあということを確認しつつ、俺はヴィールと共に式場へと向かう。
式は、農場の敷地で青空の下執り行うことにした。
通常、結婚式と言えば場所は教会か神社となってしまうが、我が農場にそんな小洒落た施設はないし。
かといって式を挙げるためだけに外に出て、どこかの聖堂を貸切るのもなんか違う。
やはり俺たちの華燭の典は、農場内でこそ挙げたいではないか。
ってことで青空結婚式となった。
幸いにも好天に恵まれ、空は気持ちのよい青空だ。
「本当にいい結婚式日和だな……!」
「おう、絶好の決闘日和だぞ!」
……。
ん?
今ヴィールが言ったことが引っ掛かり足を止めた。
聞き違いだろうか?
「ヴィールよハハハ、お前、言い間違いしているだろう?」
決闘じゃなくて結婚だぞ?
たしかに『決闘』と『結婚』じゃ響きが似通っていて間違うこともあろう。
しかし意味が大違いだ。
「結婚はめでたいことなのに、決闘じゃ思い切り凄惨じゃないか。ダメだぞそんな間違いをしちゃ?」
「いや間違ってないぞ。決闘だ」
……ヴィールが何を言っているのかわからない。
「だから、ご主人様とプラティが結婚する前に、決闘が行われるんだろう。さすがご主人様! 本番の前に血風吹き荒れるイベントを入れて大盛り上がりを狙うとは!」
誰もそんな目論見してないけれども!?
どういうこと!?
初耳すぎて戸惑うばかりなんだが。
俺たちのこのよき日を、いったい誰が血に染めて台無しにしようというのか!?
決闘って、そういうことだろ!?
「神々の連中だが?」
ヴィールはそう答えた。
* * *
結婚式場へ到着すると、場は和やかなムードどころか緊迫した空気に包まれていた。
緊迫の元はアイツらだ。
冥神ハデスと海神ポセイドス。
大地と大海を支配する主神二神が、何故か現世に降臨して、それだけに飽き足らず対決ムードを醸し出していた。
「なんでッッ!?」
俺は大混乱せずにはいられない。
俺たちの新たな門出を祝うべきこの日に、なんで神々の対立が勃発しているのか!?
しかもよりにもよって、これから俺たちが結婚式を執り行おうというこの場所で!?
せめて余所でやってくれませんか!?
『おお、聖者よ、やっと来たか!』
『見届け人のお前が来ぬからには勝負も始められんからな!』
始めんな!
なんの嫌がらせだ神々!?
俺たちは今日一日を終始和やかに過ごしたいというのに何故ぶち壊しにしようとする!?
「あの……、神様、お二神は何をなさろうとしてくさるんですか?」
『見ればわかるであろう。決闘だ』
そうでないことを願うばかりだったんだが。
やっぱり見たまんまだったんですね。
「なんで決闘するんですか!?」
周囲には、神々の他にも多くの農場関係者が集っていた。
皆思い思いにおめかししている。
誰もが今日という日をお祝いムードで過ごそうというのに、神が気分を粉砕しようとしておるぞ。
「…………理由を聞いても?」
理由次第によっては神々を叩き出すことも辞さないが。
さて、ハデス神とポセイドス神はいったいどんな返答をくれるのか?
『……それは無論』
『権利を得るためだ』
……。
権利?
『『聖者の結婚の誓いを受ける権利を!!』』
この仲の悪い神々が口を揃えて言うのだった。
ああ。
つまりこういうことか?
こないだやったアロワナさんパッファの結婚式でもそうだったけど、普通結婚とは、愛を神に誓うものだ。
『病める時も健やかなる時も奥さんを愛することを誓いますか?』
『誓いまァす!!』
というのは神様に向かって誓っているのだ。
だから結婚式を別名で神前式ともいうし、結婚とは多くの文化圏においてほぼ例外なく宗教儀式なのだ!
『海の兄弟よ……!』
『なんだ大地の兄弟……!?』
『これまで何度も言っておるが、聖者が住まうのは地上。であればその地上の守護者たる地母神の夫が誓いを受けるが筋であろうぞ!?』
『しかし新婦は間違いなく海の眷属。よって余も誓いを受ける権利はある! そなたの方が身を引くべきであろう!』
『なんだと!?』
『ああ!?』
という感じで双方譲らず、ついに実力行使に行き着いてしまったらしい。
『この決闘で、勝った方が誓いを受けるのだ!』
『そして聖者からの供物を捧げられる!』
結局それかい。
前にもジュニアの出産祝いとかで似たような小競り合いがあったし、その時も結局、俺からの捧げものが欲しいという俗に塗れた動機だったしな。
神様たちは、ウチの農場で作られるご飯やらお酒やらが美味しくて欲しくてたまらんらしいからな。
しかしそれが争いの種になってはいけない。
『互いに本気でやり合うのは何千年ぶりのことかな海の兄弟?』
『さあな、昔すぎて忘れてしまったよ。ただし余に負けて泣きべそかいている大地の兄弟の顔はよく覚えているがな』
『なるほど大層昔のことらしい。そんなあやふやな記憶で事実を捏造してしまえるぐらいだからな!』
冥神ハデスは大鎌を、海神ポセイドスは神器トライデント(オリジナル)をかまえて向かい合う。
それを囲む下界の者どもが、なんか無責任にはやし立て観戦ムードになっていた。
これはいけない。
神と神との世紀の一戦。
あまりにもビッグイベントすぎて俺たちの結婚式がかすんでしまう!
「待ってください!」
俺は止めた。
そして言った。
「俺は、誰に結婚の誓いを立てるか決めました!」






