454 フィフス・エレメント
バティです。
農場の服作り担当バティです。
聖者様からまた新たな注文を承りました。
『プラティのためにウェディングドレスを仕立ててくれ』と。
聖者様プラティ様のお二人は、勢いで結婚した上に農場開拓に邁進して結婚式も執り行っていなかったから、遅ればせながらという感じで挙式するらしい。
だからウェディングドレスが欲しいと。
言われて『ついに来たか』と思ったわね!!
この私、服の仕立て師になるという夢をこの農場で叶えてから幾年月……。
たくさんの服を拵えたよ。
数も種類も。
ウェディングドレスだって仕立てた。
一番最初に作ったのはかつての上司アスタレス様のウェディングドレス。
やっぱり魔王様との結婚だから『式しないわけにはいかない』ってんで魔国で執り行った。
その時に仕立てた。
その次に第二魔王妃となったグラシャラにも作ってやった。
四天王時代からアスタレス様のライバルであったアイツのために作ってやるなど気が進まなかったのだが、他でもないアスタレス様からもご命令されたので仕方なく作ってやった。
まあ、作るからには全力を尽くしたけどね。
嫌いな相手だからって手を抜いて凡作を納品したりはしない。職人のプライドを懸けて、あの筋肉女でも可憐に見えるようデザインを凝らしたウェディングドレスを拵えてやったわ。
そしてつい最近のパッファ様のウェディングドレス。
これは記憶に新しい。
さらにほぼ同時にランプアイさんのウェディングドレスも作った。
最近ウェディングドレス作りが立て続け。
でもだからこそノウハウも増え、技術も上がる。
……実をいうと、ここで上げた四人のウェディングドレス作りには秘密のテーマを組み込んでおいた。
製作者である私が自分の中だけで決めておいたテーマで、ドレスを着る当人たちにも伝えていない。
アスタレス様が着たウェディングドレスは『風』。
グラシャラが着たウェディングドレスは『地』。
パッファ様が着たウェディングドレスは『水』。
ランプアイさんが着たウェディングドレスは『火』。
それぞれの個性に似合うようにウェディングドレスに仮託したテーマだ。
気づけばこんな四大元素が揃ってしまっていた!
いや、最初からこんなつもりじゃなかったんだよ。
アスタレス様は軽やかでドライな感じが『風』のイメージだったし、四天王時代からパワータイプだった大女グラシャラは『地』がお似合いだろう。
人魚王妃となるパッファ様には『水』のイメージがぴったりだし、『獄炎の魔女』と呼ばれるランプアイさんなら『火』の他にテーマがない。
そんな感じで気づいたら地水火風のウェディングドレスが揃っていた。
なんやねんと思う反面、ワクワクもする。
全属性制覇って!
そこに来てプラティ様がお召しになるウェディングドレスの製作依頼!
『満を持して』と思ったね!
『風』のウェディングドレス。
『地』のウェディングドレス。
『水』のウェディングドレス。
『火』のウェディングドレス。
それら四属性のウェディングドレスを完成させた私が、その技術をもって挑む五つ目のウェディングドレス!
それをご着用されるのにプラティ様こそ相応しいお方はいない。
今こそプラティ様のために地水火風の四属性を超えた、第五の属性のウェディングドレスを作り上げるべき時と。
そういう啓示を受けたと私は受け取った!
だから喜んでかからせてもらおうじゃないですか!
第五のウェディングドレスを!
* * *
……あ、ちなみに。
元同僚のヴァーリーナが結婚した時のドレスも私が拵えてやりましたよ。
特にインスピレーションも湧かなかったので無意識に作ったのをね。
* * *
さてでは……。
プラティ様専用ウェディングドレス作成を進めていくことにしますかね。
ウェディングドレス作りでは金剛シルクが無条件に使用解禁になるから益々胸躍る仕事。
腕が鳴るってもんよ。
まずは構想を練る
テーマは『第五の力』。
地水火風すべての属性を超える新しい力のウェディングドレスを作りたい。
この時点で既に『何言ってんだコイツ?』みたいな話になっておるが。
いいの、これは地上最強のウェディングドレスを作り出すために必要な過程なの!
それで!
第五のウェディングドレスって、具体的にどんな属性にすればいいのかなあ!?
地水火風の四属性を超える属性と言えば、そう……。
「……光?」
『光』のウェディングドレス?
うん、強そう。
全身が燦然と光り輝くウェディングドレス!
その光を浴びただけで悪霊もヴァンパイアも一匹残らず消滅する!
よくない!?
しかもそれをお召しになるのがプラティ様ときたら、なおさら強そうだ。
最強至高、唯一無二である聖者様の妻にして、農場の女主人であるプラティ様。
そのハレの衣装は、まさしく燦然と輝く『光』こそが相応しい!
うん! もう決まったわね!
プラティ様に着ていただく第五のウェディングドレスは……。
『光』のウェディングドレスで!
「それはどうかな……!?」
「うひゃあッ!?」
急に背後から話しかけられたからビックリした!?
貴様はベレナ!?
かつての我が同僚ベレナじゃない!
無断で私の被服室に入ってくるな!?
「どうやらプラティ様用のウェディングドレスの構想を練っていたようね……? 『光』それも悪くない。しかし『光』にも匹敵する第五の要素候補があることに気付かないのかしら?」
「なんだって? 『光』に対する要素……!?」
「それは……『闇』!!」
『闇』!?
そうかたしかに、光あるところに闇はある。『闇』こそ『光』に匹敵する究極の力!
その『闇』の力を具現化させたウェディングドレス!
即ち『闇』のウェディングドレス!
「いや、ねーわ」
どう考えても『闇』はお祝いの席に相応しくないだろ。
従ってウェディングドレスのテーマにも相応しくない。
「字面のカッコよさだけで物事を進めるなよ元同僚」
ベレナは時折、変な雰囲気を追求しだすから信頼できない。
「えー、じゃあ他に何がいいっていうのよ」
「それを今から考えるのよ。……いや待て、お前のどっしりここに腰を据える雰囲気? まさかアンタも一緒に考えるとか言い出す気か!?」
「もちろん! 聖者様にもプラティ様にも日頃からお世話になっているのだから、機会があればいつでも協力したいわ!」
むしろコイツがいると迷走感が深まりそうなんだがなあ……。
「第五の力でしょう!? 『光』と『闇』ときたら……『空』なんてどう!?」
『空』。
いかにもありそうだな……!
「同じような感じで『無』とか! でもそれだとプラティ様が素っ裸で結婚式することに!?」
マッパで現れ『これが究極のウェディングドレスだ!!』ってか。
インパクトはありそうね。
「あと、思ったんだけど、ここであえて上のレベルに挑戦してみるのはどう?」
「上?」
「第五の力と言わず、第六、第七に挑戦してみるのよ。私、こないだ聖者様から新しい言葉を教えていただいたのよ! ……それは、阿頼耶識」
「あらやしき!?」
『阿頼耶識』のウェディングドレス!?
なんだかよくわからないけど凄そうだし強そう!
「どう、作ってみたくならない『阿頼耶識』のウェディングドレス!? バティの全身全霊を込めるに相応しい!」
たしかに私の職人魂は騒ぐけど……!?
しかしプラティ様が着られるウェディングドレスは一着のみ。
今出てきた案のどれか一つしか選べない!
最初は『光』のウェディングドレス一択と思ってたけど『阿頼耶識』のウェディングドレスも凄そうで挑戦してみたいし、『無』のウェディングドレスも意表を突きそうだし……!?
今となっては『闇』のウェディングドレスも捨てがたい気がする!
ああ、どうしよう。
いったいどのウェディングドレスを選べばいいのおおおおおッ!?
「バティ、頑張ってるー?」
そこへ聖者様がやってきた。
ドレス作りのクライアントであるあの御方に意見を聞いてみるのもいいわね。
「ちょっと伝え忘れたことがあってね。……俺とプラティの結婚式だけど、俺の元いた世界の仕来りに倣って、お色直しをしようと思うんだ」
「は?」
お色直し?
なんですそれ? 初めて聞く言葉ですね。
「物凄く率直に言うと、式の最中に何回か花嫁が着替えることでね。それに合わせてドレスも何種類か用意してほしいんだよ。大変だと思うけど頼むねー」
それだけ言って聖者様は退出していった。
お色直し……?
ドレスを何種類も用意……?
それはつまり……。
「やったあッ! ウェディングドレスたくさん作れるうううーーッ!!」
あのテーマにもこのテーマにも挑戦できる。
あはははは! 大変になってきたな!
こりゃ死ぬ気でかからないとおおおおおおッ!!






