453 聖者の贈り物
で。
砕け散ったダイヤモンドなのだが……。
「凄いですぞ聖者様! 宝石の破片一つ一つが、砕ける前と同等の加護力を有しています!」
鑑定の末、なんかそういう結果が出た。
こっちの世界では、宝石は装飾品というより実用品だ。
宿る加護力で所持者を援ける。
宝石自体の大きさとか、綺麗さは二の次らしい。
だから無数に砕けた宝石の破片一つ一つに砕ける前と同等の加護力が宿る=加護の力が倍増したという結果に、エドワードさんは大満足。
弁償は何とか回避できそうだった。
ちなみに、破片を回収すると見せかけ五粒ほどガメようとしていたエルロンは、俺の方で絞めておいた。
「それでは早速、このダイヤを使って指輪を作成しましょう! このドワーフ地下帝国の親方エドワードが、生涯最高傑作となる指輪を作り上げてみせますぞ!!」
「あの、お代は……!?」
「そんなの無料でかまいませんぞおおおおッ! 不良在庫だった呪いの宝石が、一気に有効に転じたのですから採算は取れますぞおおおッ!!」
コイツまさか、最初から俺に不良品押し付けるつもりだったのではあるまいな?
まあいいや。
ただで作ってくれるというなら、それに越したことはない。
世界最高の金物細工技術を持ったドワーフが、俺たちの結婚指輪を作ってくれることとなった。
砕けて小さくなったダイヤモンドなら指輪にはめ込んでも煩くならないだろうしな。
* * *
しかし、その過程は困難を極めた。
隙あらば何かデコろうとするエドワードさんを、監修役のエルロンが厳しく制御する。
「だから! 何故そこに加えようとする!? 何もなくていいだろ! シンプルイズベスト!!」
「でも、ここに羽を付けた方がカッコいいと思うし……!」
「そういう格好よさはいいの! 聖者はシンプルなのを求めてらっしゃる!」
加えることを美としてきたエドワードさんは、それを禁じられて大困惑。
それでもクライアントの意向だから従おうと、ライバルでもあるエルロンからのアドバイスも得て必死に作業を進める。
要望に応えようと、自身のイズムすら捨てるのも一種の職人魂と言えるのだろう。
ゴテゴテした派手さを取り去り、清涼なシンプルさを。
その清涼さこそが、俺がプラティへ伝える愛情の色合いとなる。
せっかく入手した呪いの解けたダイヤも、煩くならないようさり気ない感じであしらうにはセンスと技術が必要だった。
エドワードさんは四苦八苦しながら指輪をデザインし、製作にも全力を注いだ。
エルロンも頑張って手伝った。
その末に完成した……。
* * *
「……これが結婚指輪……!?」
芸術的感性のない俺でもわかる。
これが傑作であると。
俺の注文通り、普段使いしてもまったく邪魔にならないシンプルなデザイン。
しかしシンプルな中にも目を引く工夫が施され、何気なくあしらわれたダイヤの輝きには嫌味さなどまったくない。
「やりましたぞ! このエドワード最高傑作となること間違いなしだ!」
「私も協力した甲斐があった!」
『こんなに美しい指輪にしてもらって光栄ですわ!』
宝石精霊まで浮かび上がって喜びを述べるとは。
それだけよい仕上がりになったということだな。
注文通りペアになっているし。
これであとはプラティに贈るだけだ!
* * *
早速農場に戻る俺。
プラティに、愛の証を届けるために。
どこにいるかと探したら、彼女はちょうど外で農耕の差配をとっていた。
ジュニアを抱いてあやしながら。
「……あ、旦那様どこに行ってたのよ? この忙しい時に!?」
開口一番、仕事をサボったことを怒られたが、農場での作業はのんびり進むのでそこまで深刻ではない。
素直に謝ってから、本題を切り出す。
「プラティ、キミに渡したいものがあるんだが」
「え? 何改まって?」
俺の真剣さを感じ取ってか、プラティはドギマギしだした。
「いい雰囲気だな!」
「聖者その調子だ! 一気に押し切れ!」
『青春ですわね!』
遠巻きから見守る(見物する?)エドワードさん、エルロン、宝石精霊ども。
「…………」
普段なら蹴散らすところだが、彼らも結婚指輪作りに随分頑張ってくれた。
結末に立ち会う権利はあるだろう。
では結婚指輪を手渡す前に……そうだ。
ちゃんと結婚指輪の趣旨を説明しておこう。
こっちとあっちで指輪の捉え方が違うというのは既に学んだからな。
説明中……。
「……あー、それで旦那様、どこかに出かけていたの?」
さすがプラティ。
説明してちゃんと通じるのは案外珍しいことで、その珍しいことが必ず起こるプラティはさすが我が妻。
「旦那様の前いた世界にも不思議な風習があるのね。でも面白そう。心臓にもっとも近い左手の薬指に着けて『死が分かつまで共にいる』ことを誓う指輪。……なんとも呪術的ね」
いや……、呪いはさっき解いてきたばっかなんだけど。
プラティの捉え方が、さすが魔女!
「結婚式をやるって言っただろう? その最初の段階として用意したんだ。結婚指輪を受け取ってくれるだろうか?」
「残念だけど、それはできないわ」
え?
なんで!?
ここにきてまさかの拒否!?
「だって旦那様の愛の証は、もう受け取っているから」
そう言ってプラティが差し出す左手、その薬指に指輪がはめてあった。
「それは!?」
左手の薬指?
プラティが既に結婚指輪を着けていた!?
しかも、その指輪には俺も見覚えがあった。俺が作ったものだった。
この結婚指輪製作編が始まる随分最初の時に、俺が試作した指輪ではないか!?
「作ったはいいが、作業台にそのままにしておいたから……!?」
それをプラティが見つけたってこと!?
「不思議な指輪ね。手にした途端、自然に左の薬指にはめてしまったわ。サイズもピッタリだし……。旦那様の力なのか、マナメタルのせいなのかわからないけどね」
「いやいやいやいや……! それは試しに作ってみたヤツなんだ。むしろ失敗作なんだ!」
あまりにも簡素で味気ないでしょう!?
『至高の担い手』に頼りきりで作ってしまうとどうしてもそうなってしまう。
シンプルなのにも限度があると思うんだ。
だからドワーフに頼み込んでシンプルかつハイセンスな指輪を拵えてもらったのに!
「それよりもずっと綺麗でおしゃれな指輪を作ってきたんだ! 是非そっちの方を……!」
「でもそれは旦那様が作ったんじゃないんでしょう?」
まあ、そうですが。
発注品ですが。
「ならこっちの方がいい。どんなに下手くそでも、不格好でもいいの。旦那様が心を込めて作ったこの指輪こそ二人の愛の証じゃない」
「プラティ……!!」
そうだ、彼女の言うとおりだ。
俺は肝心なことを忘れていた。
贈り物をするのにもっとも大事なことは心がこもっているかどうか。
それをおざなりにして、見てくれに拘るばかりでは中身空っぽではないか。
さすがプラティ、そんな大切なことを思い出させてくれるなんて。
彼女は俺が迷ったときに正しい道を照らしてくれる光だ!
「ではプラティ、改めてこの結婚指輪を受け取ってくれるかい?」
一から十まで俺の手で作り出した、何の飾り気もない指輪を。
「ええ、喜んで受け取るわ」
こうしてプラティの左手の薬指に、人妻の証である指輪の輝きが灯った。
改めて俺たちが夫婦であることが実感された。
それを遠巻きに見届ける見物人たち。
「え……!?」
「私たちの……!?」
『苦労は!?』
エドワードさんとエルロンと宝石精霊が、並び立って呆然としていた。
まあそうだよな。
指輪作りにあそこまで精魂込めたのに。
しかし俺たちが必要とする指輪は既にあったんだよ!
というわけでゴメンね?
* * *
ちなみに、これらの経緯の下に製作された指輪は、せっかくなので一般向けに販売されることになった。
『聖者の指輪』という銘柄で売り出されたそれは、装着すると力と素早さ、あと魔力と知恵が倍増し、運は五倍になる。
あらゆる身体異常を無効化し、魔法への耐性も上がるということで、とんでもない高値が付いたようだ。
デザインが決まってるから同じものをどんどん作れるし、宝石の破片もたくさん残ってるから量産は容易。
それらの要因から大変儲けることができるでしょうので、それをもって今回のただ働きの埋め合わせとしてほしい。






