451 宝石の園
今日から更新再開いたします。主人公とプラティの結婚式騒ぎをどうかお楽しみに下さい。
プラティのために結婚指輪を贈ろうとする俺。
しかしその目論見は少しずつ暗雲が立ち込めようとしていた。
「ダメなのか……!? ワシらドワーフでは聖者様のために指輪を作って差し上げることはできないのか!?」
「そういうことだ! 技術に驕った報いがここで現れたな!」
なんか勝手に盛り上がっているけど、俺は別にドワーフさんたちの技術そのものを否定しているわけじゃないからね?
ただ日常使いにゴテゴテしすぎて不便だなって思うだけで。
「フッフッフ……、やはり聖者の要望を叶えるには私がやるしかないようだな。この自然と一体化する美の製作者エルロンが!」
いつの間にか大仰な肩書を背負い込むようになったな、このエルフ。
「でもキミって金属製品の加工できるの?」
「できないが?」
それ見たことか。
だからエルフには最初から頼まなかったんだ!
元来森の使者を自負するエルフたちは、森と共に暮らしていくために多くのことを制限している。
森から離れて暮らすことも本来禁止だし、屋根の下で寝起きすることもご法度だ。
そして本来森には存在しない金属製の道具を使うこと、作ることもエルフ族からは見苦しい行為となるらしい。
まあ、森から出た都会エルフはあまり厳格に従ってないようだが。
「じゃあエルロンよ、キミからアドバイスしてちょうどいい感じのシンプルな指輪を作成してくれよ」
「ええッ!? それはつまりこのエルフと合作しろということですか!?」
いいじゃない。
キミら普段からいがみ合いすぎなんだから、これを機に共同作業でもして仲良くなってくれたまえ。
「むむ……、聖者様のお達しとあれば仕方がない……」
「聖者のためにも協力してやるとするか。……じゃあ作品テーマは『調和』だな」
「『荘厳なる調和』?」
「だからなんで無理に膨らまそうとする?」
若干の不安はあるものの、エルロンが一緒にいてくれるならエンゲージリングに相応しいシンプルイズベストな指輪をデザインしてくれることだろう。
……。
俺からのチェックも入れておこう。
「デザインについてはワシとエルフで煮詰めておくとして、では聖者様には宝石選びをしていただきますか」
「宝石選び?」
「指輪にはめ込む宝石です」
ああ、そうか。
指輪とはアクセサリー。アクセサリーといえば宝石だもんな。
俺とプラティの結婚指輪にも、それなりの宝石をちりばめてちょっとオシャレにしておくか。
「どんな宝石がいいんだろ?」
エンゲージリングなら誕生石にしとくのが一番いいんだろうが、プラティって何月生まれだっけ?
いや、そもそもこの世界にまともな暦ってあっただろうか?
今まで気にしたことすらなかった?
「この場でそんなに考え込まずとも、実物を見ながら考えてはどうですかな?」
「え? 実物? 見れるの?」
「もちろん、装身具を求める客のために、宝石全般を取りまとめた見本スペースを用意してあります。聖者様もそこで、どんな宝石がいいか品定めしてはいかがでしょう?」
さすが世界一の金属具生産拠点。
そんな至れり尽くせりなサービスも完備しておるとは。
「なんか面白そう。私も一緒に行こう」
「ああ? エルフのお前がなんで宝石に興味を持つ?」
エルロンの言行を不審がるエドワードさんだった。
しかし俺にはわかる。
今のエルロンは、エルフとしての種族的本能でもなく、皿焼き職人としての感性でもなく、それより他のある一時期の習性が騒いでいるのだろう。
そう、エルフ盗賊団であった頃の。
* * *
「ここがドワーフ地下帝国自慢の宝石展示施設、『月の園』ですぞ!」
「うわ凄い」
案内された一室には所狭しと展示ケースが並び、その中には光り輝く透明な石が無数に並べられていた。
「これ全部でいくつぐらいあるんですか?」
「さあ? 売れたり買い入れたり出入りが激しいですからな。それでも常時五百個はあるんじゃないですかな?」
「ごひゃく!?」
凄まじい。
資産的にどれくらいの額に昇るのか?
場違いなところに来てしまった感がして俺、心底震える。
根は小心な庶民ですもの!
一方で同行のエルロンは。
「……ちっ、十歩おきに警備員を配置していやがるな。さすがに警戒厳重か」
昔の血を騒がせないで。
「ここから結婚指輪にあしらう宝石を選び出そうってことなんですね?」
「いかにも。聖者様を飾るのですから最高級の宝石がよいでしょう」
飾るのは俺じゃなくて俺の奥さんの方なんですが。
一応ペアとは言いましたが、あっちの方がメインなんで! それを忘れないで!
「最高級宝石が展示されているのは、こっちの区画になります」
「ちょっと!?」
どこに連れていこうとしているの俺を!?
もっとも高いものがあるところに気軽に連れていかないで!?
そしてエルロンも同行させないで!
あまり高価なものに近寄らせると昔の悪い血が抑えきれなくなるかもだから!!
「この辺のケースに入っている宝石は皆、特別でしてな。固有の名前付きの宝石になります」
そんな泥棒が予告付きで狙ってきそうな!?
「たとえばこちらの一際大きいダイヤモンドが『コメリカの星』という名で親しまれています。こっちの世界最大級のサファイヤが『シンドの星』。血のように赤いことから名づけられたルビー『スワロウ・ブラッド』。他にも『血の女王の涙』『ギガントの星』『ダイヤモンド・ジョズ』『マーメイドの涙』『メイドの涙』『ディスティニーストーン』『地上の星』『ポジポジファイト』『漢の涙』『ラブインテリジェンスの星』『ポスポピペロペロ』など様々あります」
星と涙多いな。
宝石の名付け方って、そういうセンスになるのか。
しかし、今紹介された宝石のすべてがとんでもなく高価であることはわかる。
いや待って。
なんで知らないうちに俺がプラティに贈る結婚指輪、超高級品にされようとしているの?
この超一級品の宝石を指輪にあしらうってのはつまり、そういうことでしょう!?
ちょっと待って!
俺はもっと慎ましやかに行きたいのですが!?
「その中でも、ワシは聖者様にこの宝石をお勧めしたい!!」
イチオシを出してきたがった!?
エドワードさん!
どうしてそこまで俺の依頼を達成するのに全力投球なのですか!?
「この『ブロークン・ダイヤモンド』こそ! 聖者様が身に着けるにもっともふさわしい宝石!」
だから俺が身に着けるんじゃねえっつうの。
しかし何だこの宝石は?
エドワードさんが見せてくれた宝石は、たしかに一目見ただけでやんごとないものだということがわかる。
何か息詰まるような荘厳な気配すら伝わってくるぜ。
「この『ブロークン・ダイヤモンド』には、独特の歴史がありましてな」
「へぇー」
さすが超高級品だけあって来歴まであるのか。
「元々は人間国の採掘場から発掘されたものなのですが、一獲千金を倣った工夫が無断で持ち逃げしまして。追いついた兵士が切り殺して取り返したのだといいます」
「え?」
「その後、ある宝剣の装飾として柄にはめ込まれることになり、より多くの敵を殺せるようにと神官が呪いを掛けたそうです」
「呪い!?」
急に何言い出す、このドワーフ!?
「その虐殺の呪いが予想を超えた効果を発揮し、宝剣を手にした勇者は正気を失って死ぬまで戦い続けたのだそうです。敵陣深くで死した勇者から戦利品として宝剣が渡り、その宝剣も折れていたので宝石だけを抜き取り珍重されるようになりました」
「ちょっと待って!?」
「以後、この宝石を所持する者は心を病み、誰かれかまわず襲い。悲惨な最期を遂げたといいます。そのたびに持ち主が変わって転々とした挙句、ここに来たという顛末です」
つまりガチに呪いの宝石じゃねーか!?
持ち主に次々不幸をもたらす系の!?
なんか噂に聞いたことはあるが、まさか異世界でお目にかかれるとは!
いいやそれ以前に……!
なんていわくつきを勧めやがるんだアホドワーフ!?
俺の注文聞いてた!?
俺は、結婚指輪を所望してるの!
その結婚指輪にあしらわれる宝石に、なんでよりにもよって呪いの宝石をチョイスするかな!?
こちとら御祝儀が二で割り切られる金額ってだけでぶん殴れるぐらい縁起に拘る儀式を執り行おうとしてんだよ!?
そこになんで不吉の塊を投入しようとする!?
「んー、さっきから聖者の言ってることがよくわからないんだが……」
エルロン。
その辺の高級宝石を気づかれないよう、くすね盗ろうとしたが無理だったらしい。
諦めてこっちの話題に交じってきたという感じ。
「どうも聖者の宝石に対する認識と、私たちの認識にズレがあるように感じる。ここは一から宝石がどういうものか、説明した方がいいんじゃないか?」
この世界において。
宝石とは何か。






