449 結婚準備
ではやってみよう。
俺とプラティの、遅れながらの結婚式を。
プラティは今すぐにでも開催することを願ったが、急いては事を仕損じる。
一生一度の重大イベント、それが結婚式。
たった一度きりのことだから、ここで何かしくじりがあると取り返しがつかない。
生涯嫌味のネタにされるとはよく聞く話だ。
だから俺も入念に準備を重ね、絶対にしくじりのない感動する結婚式を執り行うのだ!
前例になったアロワナさんとパッファの結婚式が大成功だったことだし、俺もあれを目指す!
ということで結婚式に必要なものを揃えていこう!
まずは何がいるか一覧作りだ!
・ウェディングドレス。
・結婚指輪。
・ウェディングケーキ。
・ブーケトス。
・引き出物。
こんなものか。
まずウェディングドレスは必須だな、知り合いで先んじて結婚なされたアスタレスさんやパッファも着ておられたし。
俺のプラティも、当日は豪華絢爛なウェディングドレスでめかしこんでもらうとしよう。
ドレスの作製は簡単だ。
バティに依頼を出せばよい。
アイツも度重なる結婚式でドレス作りのノウハウも蓄積されたことだろうし、容易く成し遂げてくれることだろう。
次に引き出物と言えば定番がお皿だから、エルフたちに任せることにするか。
ウェディングケーキは生モノだから直前に拵えるとして……。
まず最初に取り掛かるには……。
「結婚指輪かな」
エンゲージリング。
死が二人を分かつまでと誓って交換し合う指輪。
古来より結婚式のグレードは、プロポーズ時に贈る指輪が給料何ヶ月分かに大きく左右される。
ペアの指輪を得るため溶岩洞窟や滝の洞窟に潜った猛者の逸話もあるほどだ。
結婚しながら結婚指輪もまだ贈ってない事実に、むしろ愕然としたが、今回のスローガンこそ何事も『今からでも遅くはない』。
プラティのために最高の結婚指輪を用意しようではないか!
しかし、ここで俺はハタと気づいた。
何ごとにも参考とするべき義兄アロワナさんの結婚式では、指輪交換してたっけ?
と。
してなかったような記憶。
決めつけはよくないな。
ここはファンタジー異世界だ。俺の住んでいた前の世界では常識だったことも、ここでは『そんな常識ねえよ』ということもありうる。
男女が次世代を遺すためにつがいとなる結婚は流石に共通するが、その細かい仕来りには差異があってむしろ当然ではないか?
と思うんじゃい。
「こっちの世界では結婚指輪の仕来りはないのか……?」
念のため、道行く幾人かに聞き込みをしてみたが、皆いずれも『何それ?』という反応を返してきた。
やっぱりないのか結婚指輪。
いや、これは逆にチャンスと心得るべきではないか!?
他に誰も知らないならば、俺だけが知っているハイソな概念として流行の発信源になることができる。
俺がこの世界の結婚式にあらたな形を書き加えるのか!
そう思うとなんか燃えてきたな!
では早速、結婚指輪作りに取り掛かろう!
「え? 何? 何なんなの旦那様?」
ジュニアに授乳中のプラティ。
その左手をまじまじ触る俺。特に薬指の付け根の部分を。
プラティにとっては訳がわからず照れるばかりだろう。俺も真意は詳しく伝えていない。
せっかくだからサプライズにしようと思ってな。
ものと一緒に詳しく説明いたそう。
俺の手に宿るギフト『至高の担い手』は、触れたもののサイズを正確に測って記憶することも容易い。
プラティの薬指を触って、その囲幅をしっかり測定。
これで必要な情報は揃った。
あとはブツを拵えるのみよ!
「よしありがとう! これで次の段階へと進める!」
「何してるかわかんないけど、早くしてよね? 結婚式待ち遠しすぎて夜も眠れないんだから!」
プラティが遠足前夜の小学生並みで結婚式を楽しみにしているのが嬉しかった。
しかしもう少しの間だけ辛抱して待っててくれ。俺が最高の結婚式をプロデュースしてあげるのでな!
* * *
そんで指輪を作ろうと思うんだが作ること自体は容易い。
俺には『至高の担い手』があるんだから。
造形神ヘパイストスから与えられたこのギフトは、手にしたものの性能を限界以上に引き出す効力があるが、その力はもの作りにも発揮される。
これまでも多種多様なものをこの手で作り出してきたものだ。
今回指輪だって、楽勝で自作できるだろう。
材料はお馴染みマナメタルで。
これで九分九厘勝ったと思えたが、しかし問題はあった。
「味気ない……!?」
俺が試作品を前にして漏らした感想である。
プラティから測定したサイズを元にマナメタルを削り、こねくって指輪を完成させてみたものの、その外観がまあ味気ない。
一言で言って金属の輪。
それ以上でもそれ以下でもない。
普通指輪といったらアレだろう?
アクセサリーだから。
その外観はおしゃれを意識して様々な装飾が施されるはずだ。
微細な彫り物がしてあってもいいし。
宝石もある。
大抵の指輪といえば宝石が散りばめられてオシャレ度がUPするはずだ!
しかし俺謹製の結婚指輪試作品にはそういうオシャレ要素が一切ない。
簡素で武骨な……、山奥で暮らす偏屈老人のような趣だ。
とても結婚にまつわる華やかさなど感じられない!
そう、これは我が能力『至高の担い手』の唯一の弱点。
芸術性に関する特性が一切ないということだ。
おかげでデザイン的に面白みも何ともない試作指輪が完成してしまった!!
そうだよ、この欠点のおかげで服作りはバティに、食器や日用品作りはエルフたちに丸頼りするようになったのだ。
まさかここでもネックになってしまうとは……!?
こんな面白みも何ともない指輪をプラティに贈ったら……。
――『は? 何このみすぼらしい。こんなしょぼいものを結婚指輪にするなんてアタシのこと愛してないのね。離婚よ』
なんてことになったらどうしよう!?
「ここは新しいアプローチが必要か……!?」
自分で作るのが無理なら、外注という手段もあるよな?
バティの服、エルフたちの工芸品もそうだし。
指輪もそうするという選択肢もある。
最初は手作りこそ心がこもって至高とも思ったが、世のプロポーズする男性の何割がそんな難業に挑戦するだろうか?
いや何割もいないな。何分何厘もいないと思う。
そこで俺も指輪製作自体はその道のプロにお願いし、かかった金額で愛情の量を示すとしよう。
給料三ヶ月分だ!
今の俺の稼ぎ給料制じゃないけど!
「そうなると問題は、誰に指輪を作ってもらうかだな……?」
早速脳内を検索し、この問題に対処しうる人物を探す。
これまで知り合ってきた人々、築き上げた人脈も立派な俺の財産だ!
それらを駆使して、プラティへの愛情を示してみせる。
そして思い当たったのが、ドワーフ。
この世界一もの作りに秀でているという種族たちのことだった。