445 新米皇帝発展記その九 最高ダンジョンの構造
このおれ、ガイザードラゴンのアードヘッグはただ今、余所様のドラゴンが主をしているダンジョンにお邪魔しています。
アレキサンダー兄上が治める『聖なる白乙女の山』。
人類たちの評価でこれ以上ないという。
おれは自分のダンジョン作成のため、参考資料を集めに見学に来ているのだった。
『では、主なコースをざっと巡りながら、当ダンジョンの概要を御説明いたしましょう』
アレキサンダー兄上の従者、ノーライフキングの家令が語る。
というか世間から世界二大災厄と呼ばれ恐れられる一方を、もう一方が従わせるなんて……!
これはアレキサンダー兄上こそがドラゴンを超越した存在であることを何より物語っていることだろう。
『「聖なる白乙女の山」は分類上、山ダンジョンに属します。世界中を循環する自然マナが大山に堰き止められ、滞留し淀んでできるダンジョンです』
「そのくらい知ってるのだー、バカにすんじゃねー」
『これは失礼』
ヴィール姉上つっかからないで。
家令殿もおさらいで一から話してくださってるんでしょうから、おれも勉強のつもりで来ているんだから当然の配慮だ。ありがたい。
『ただ、当ダンジョンはそれに加えてマスター自身の発するマナによって拡張されています。世界最高規模のを誇る理由ですね』
「それは……!」
ガイザードラゴンが作り出す竜帝城と同じ理屈じゃないか。
「まあアレキサンダーならできるだろうな」
父上が忌々しそうに言った。
「自然マナと超越ドラゴンが発するマナのハイブリッド。なるほどだからこそ大規模なダンジョンが作れるわけだ。昔おれの作った竜帝城の規模すら超えてるぞ?」
『「聖なる白乙女の山」は現在三十三の区画に分かれています』
三十三ってめちゃくちゃ多い……!
『メイン区画は二十四、サブ区画が八つにプラス一です。マスターが待ち受けておられる本山は十二階層からなり、二つの登山ルートから進むことができます。十二×二で二十四区画です』
「何故ルートを二つも……?」
『冒険者たちの入山目的に応じられるようにした配慮です』
後方でマリー姉上とヴィール姉上がヒソヒソ話している。
「十二階層もあるらしいぞ? マリー姉上のダンジョンは何階層なのだ?」
「くッ、全十階層よ! それが何!? 悪い!?」
「クッソ、マリーのダンジョンにまで負けたのだ!」
また無駄な対抗意識を燃やして……!?
「メイン区画はいいとして……、八つと一つあるというサブ区画とは?」
『マスターの配慮で、潤沢な種類の素材を採取できるよう様々な環境を再現した区画です。本山の頂まで直接行けませんが、本山では入手できない素材を大抵入手できます』
ダンジョンの環境によって出てくるモンスターや発生する素材も違うしなあ。
色とりどりの環境を用意することで、豊富な素材を得られるようにしてるんだろう。
『サブ八区画はそれぞれ岩山、熱帯山、火山、雪山、毒山、雷山、鉱山、霊山と種類分けされていて、それぞれにノーライフキングの管理者がいます』
「えッ!? アナタ以外にも!?」
『いずれも生前はS級冒険者で、アレキサンダー様に忠誠を誓ってアンデッド化した者たちです。八傑衆と呼ばれ、サブ区画の最深部にまで行くと挑戦することができます。彼らが育てたモンスターと』
「本人は戦わないんですか?」
『そうしたら誰も勝てなくなるので』
ああ。
『八傑衆が鍛え育てたモンスターに勝利すると、褒美としてバッジが進呈されます。八区画すべてのバッジを集めると、本山頂部でマスターに挑戦できる権利を与えられるのです』
「なんだそのシステム?」
あれ? ちょっと待って?
「じゃあ全八区画を回ってバッジを集めずに本山を登り切ったらどうなるんです? アレキサンダー兄上はスルー?」
『一応マスター直々にお褒めの言葉をかけてもらえます。そのあと記念品を貰って下山ですね』
優しいシステムだな。
『元々八傑衆に挑んでバッジを集めるのは、マスターと直接戦う実力があるかを測るためのものでした。でも人類ごときがマスターとまともに戦えるわけがありませんし。結局形骸化してます』
「たしかに」
『マスターと戦うのも記念ですね。マスターも相手を殺さないようにメチャクチャ加減して戦いますので』
完全な余興と化しているではないか。
アレキサンダー兄上は何故そんな無駄としか思えないことをしてるんだろうか?
「よくわかるぞ!」
と叫んだのはヴィール姉上だった。
何がわかったんです?
「そのマインドは、ウチのご主人様と通ずるところがあるのだ! 挑んでくる者に最大限の興奮を与える! オークボ城とか博覧会を作る時にもよく言っていたのだ!」
「あの聖者殿が!?」
なんとアレキサンダー兄上と聖者殿が、まったく同じ考え方をしていたとは!
智者は同じ橋を渡るということか。
「そうか! つまりダンジョン作りに一番大事なことは……、侵入者をあの手この手で楽しませるということなのですね!」
「そうだ! ご主人様はこれをエンターテイメントと言っていたのだ!」
エンターテイメント!
それがダンジョン作りに欠かせないこと!
見学に来ていきなり大切なことを学んだ! さすがはアレキサンダー兄上のダンジョン! そして聖者殿のイズム!
「エンターテイメントか……。マリーは自分のダンジョン作る時に意識した?」
「欠片も考えたことはありませんわね」
しかしアレキサンダー兄上と聖者殿が同じように考えているならそこに意味はあるはず!
「よし、ではグリンツェルドラゴンのヴィール様が手本を見せてあげるのだ!」
「姉上が!?」
「おれを甘く見るなよ! ご主人様のイムズを継承したおれ様は、博覧会でもオークボ城の出店でも好評を博しているのだ!」
さすが姉上!
聖者殿から英知を学び、我がものとしているとは!
「よし、では早速アレキサンダー兄上に掛け合って、このダンジョンで新たなエンターテイメント企画を発進させるのだ! 兄上のところに戻るぞ!」
『マスターは面白いもの好きですので、大抵のことは許可なさるでしょう』
なんということだ。
感服するアレキサンダー兄上の特大ダンジョンで、聖者殿の教えを受けたヴィール姉上が企画を催す。
それを見て、おれにダンジョン作りの何たるかを学べということですね!?
* * *
そして翌日、企画は決行される。
『えー、今日も「聖なる白乙女の山」に挑戦する冒険者諸君。キミらに申し伝えておくことがある』
第一階層で家令が言う。
ダンジョンの入り口というべきこの場所では強弱ベテラン新人に関わらず多くの冒険者が通りかかる。
連絡事項には打ってつけの場所だった。
「あ、ノーライフキングの家令だ」
「家令が第一階層まで下りてくるとは珍しい」
「また改装のお知らせかな?」
冒険者たちも慣れたもので、きっと意味ある情報だろうと家令に注目し、耳を傾ける。
『いつもならギルドを通して布告するのだが、急な話なので私から直接伝えることにした。当ダンジョンは、今日より特別企画が催される』
「特別企画!?」
「何だろ? お得な企画かな!?」
皆興味津々で家令の言葉を待つ。
そして発表されたのは……。
『ドラゴン強化月間だ!』
「「「「ドラゴン強化月間!?」」」」
家令、続ける。
『現在、当ダンジョンにはマスターの弟妹にあたるドラゴンの方々が来訪されている。ガイザードラゴンのアードヘッグ様、グラウグリンツェルドラゴンのブラッディマリー様、グリンツェルドラゴンのヴィール様、同じくグリンツドラゴンのシードゥル様だ』
それらのドラゴンがダンジョン内を徘徊し、冒険者と遭遇したら普通に攻撃してくる。
それがドラゴン強化月間だ!
「ちょっと待って!? それって……それって!?」
「世界最強のドラゴンが複数、普通のモンスターよろしくダンジョン内をうろつきまわるってこと!?」
「最悪じゃないか! そんなダンジョンただ歩き回るだけで死ぬわ!」
「ただでさえあの鬼天使の徘徊でダンジョンの難易度が格段に上がってるのに!?」
冒険者からは非難囂々。
何故そんな恐ろしい企画を立ち上げたのか。
『諸君ら冒険者たちに、実りあるダンジョン攻略をしてほしいからだ』
「実りねーよ! すぐさま命を含めたすべてが土に還るよ!」
「どうしてこんな鬼畜極まる難易度で実りあるダンジョン攻略ができると思った!?」
質問の多い冒険者たちだった。
対して家令は、さすがノーライフキングの貫禄で落ち着いて返す。
『その質問には、提案者であるヴィール様のお言葉をそのまま引用しよう。……曰く、「スリルこそ最高のエンターテイメントなのだー」とのことだ』
その発言に、居合わせた冒険者の全員が言葉を失った。
スリルこそ最高のエンターテイメント。
厳しく困難で、一瞬の判断ミスですべてを損ないかねない。
そんな地獄のような状況を乗り越えてこそ人一倍の達成感を得られる。
それがスリル、エンターテイメント。
というわけですなヴィール姉上!?
得心いたしましたぞ、これが聖者殿より伝えられた極意。
その勉強のためにもこのアードヘッグみずから冒険者たちへのベリーハードな障害となりましょう。
遠見の魔法で第一階層の様子を見届けていたおれたちだが、その中で一人、父上がいかにも不安げな苦闘で。
「絶対達成できないレベルの難易度を強いられて、達成感味わえるのかなあ?」
と呟いた。






