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439 六魔女総結集

 和やかな結婚式がいきなり対決ムードに!?


 パレードのど真ん中、国民たちも見守る運河上でパッファと多くの女人魚たちが睨み合っていた。


「アイツがパッファ!? アロワナ王子を騙した悪女!」

「可愛い花嫁衣裳なんか着て! 生意気だわ!」

「あれは本当はアタシが着るはずだったのよ!」


 ところどころから怨嗟の声が飛んでくる。

 本当に、アロワナ王子が結婚したのがショックで憤ってるんだなあ。


「まずは貴族らしく、宣戦布告してあげるわ!」


 徒党の中から一人の女人魚が言う。


「私の名はブラックバス! 由緒正しい人魚貴族の淑女! アナタのような平民とは比べ物にならない高貴な女!」

「あぁ?」

「ひッ!? なんて眼付きなの!? これだから平民は育ちが悪いのだわ!」


 ビビりながらもパッファへ物申す。


「だからこそアナタのような底辺女にアロワナ王子はふさわしくない! 今すぐ身の程をわきまえて失せなさい! 王子様の妻には、私のように高貴な女こそふさわしいのよ!」

「何言ってんだオバサン!」

「どさくさに紛れて勝手なこと言うな! アタシこそがアロワナ王子の妻なのよ!」


 仲間割れが勃発している。

 あくまでアロワナ王子の新妻憎しで結託した衆人なんだろうな。


「御託はいいから、かかってきなよ?」


 パッファが今日初めての、いつもの凶悪な表情を見せる。


「アタイのことが気に入らないんだろう? だったら力づくでどかしてみな? そうだな、アタイを倒せたら、ソイツに結婚の権利を譲ってやってもいいぜ?」

「パッファ、ちょっと待って!?」


 アロワナ王子が慌てて止めようとするものの、パッファの意志は固い。


「アタイの力を信用しな旦那様。こんなお嬢様共が束になってかかったところで、アタイが負けると思うのかい?」

「そ、そうだが……!?」


 そこは認めちゃうんだ。

 たしかに『凍寒の魔女』パッファ。結婚して人妻になったところで、その称号が消え去るわけではない。


 彼女は間違いなく人魚国最強の魔法薬使い。

 そのうちの一人なのだ。


「うう……ッ!?」

「やはりアイツ魔女なの……!?」


 威勢のよかった女性人魚たちもすぐさま委縮して、後ずさっていく。

 パッファの気迫に気圧されているのだ。


「国民の皆様も見てるんだ。ちょうどいいからご披露しようじゃないか。新しく王子の妻となった『凍寒の魔女』の実力を……」

「ちょっと待ちなさい」


 今にも魔法薬入り試験管を放り投げようとするパッファを止めるのは。

 俺の妻プラティだった。


 ジュニアを俺に渡して、自身は義理の姉に並び立つ。


「なんだよ……? やりすぎるなとか注意する気か?」

「注意? そんな中途半端なことしないわよ。アタシも戦うのよ」

「はあッ!?」


 結婚式参列用のドレス姿のプラティ。

 魔法薬入り試験管を取り出す。


「せっかく兄と悪友の結婚式。それを邪魔するヤツらなんか許せないわ! 小姑として!」

「小姑!? その役割宣言やだなあ!」

「今日の主役に露払いさせるわけにはいかないわ! この小姑が、嫁に代わってお仕置きよ!!」


 プラティまで敵陣に加わり動揺する女人魚たち。

 プラティの勇名はパッファ以上に轟いているはずだ。何せ王女で魔女。相手を怯ませるに名前だけで充分。


「ではわたくしも……」


 さらに現れたのはランプアイ!?


「人魚軍部とは無縁になったとて、王族をお守りするのは生涯わたくしの責務です。今や王族の一人となったパッファさんを守るため、わたくしが戦わなくてどうします」

「私もー」


 意外なことにガラ・ルファまで戦線に躍り出た。


「もうこの四人で何かするなんてそうそうないですからねー。思い出のために参加させていただきますー」


 そんな理由で。


「可愛い弟子の門出にケチをつけおって……!」


 そして極めつけがゾス・サイラだった。

 見るも恐ろしい怒りの表情を敵に向ける。


「誰が平民じゃ!? 誰が底辺じゃ!? わらわが育てた弟子に侮辱の数々許しがたい! 楽に死ねると思うなよ! ディープ・ワンの体内に取り込み意識を保ったまま、ゆっくり時間をかけて血肉に変えてやるぞ!」


 言ってることも凄く怖い!


 しかしこうして戦線に集った五人の女人魚たちは……!?


『王冠の魔女』プラティ!?

『凍寒の魔女』パッファ!?

『獄炎の魔女』ランプアイ!?

『疫病の魔女』ガラ・ルファ!?

『アビスの魔女』ゾス・サイラ!?


「六魔女揃い踏みとは、壮観ねえ……」


 そして最後に現れたシーラ王妃!?

 ごく僅かな限られた人しか知らないが、彼女こそ六魔女最強にて最後の一人『暗黒(アドビヤー)の魔女』!?


「でも六魔女全員が暴れるにはおあつらえ向きの戦場だわ。皆好きなように戦いなさい、焼き尽くし、凍らせ、冒し、食い尽くし、すべてを支配しなさい。このシーラ・カンヌが許可します。魔女の恐ろしさを知らしめ、結婚式に花を添えるのよ」

「「「「「了解!」」」」」


 恐ろしい人が恐ろしいことを決行させた。


 そこから始まるのは一方的な蹂躙だった。


 既にあらかじめパッファが周囲の空気を低温化させて、寒さで相手の動きを鈍らせていた。

 そんな膠着状態の敵中へ、パッファとランプアイが容赦なしに攻撃魔法薬を投げ込む。


「ぎゃー!?」

「うわー!?」


 魔法薬入りの試験管が命中と同時に爆発し、嫉妬に狂った女人魚たちをばひょーんと吹き飛ばすのだった。

 死なないように爆発力を調整されているようだが、それでも容赦ない!?


「逃げろー! 勝てるわけない! 狂乱六魔女傑が全員揃ってなんてー!?」

「怯むな! 逃げてはダメよ! アロワナ王子の愛を勝ちとるには何としても踏みとどまらなければ!」

「無茶ですよ勝てませんて! アタシもう怖くて吐き気がするんですけども!」

「そんなの気の迷いよ! 心をしっかり持てば不調なんてなくなるわ!」

「でも頭も痛いし、フラフラして、体の節々も痛い……!?」

「私も……」「アタシも……」「私も……」

「え?」


 敵の女人魚集団の中には、急に体の不調を訴える者が続出。

 もはや立っていることもできずに蹲りもするが、そうした者からプラティランプアイの魔法薬に吹き飛ばされて飛んでいく。


「これは……、気のせいじゃない? 何かされてる?」

「うふふふふ……、気づくのが遅いですねえ」


 不気味な笑いを漏らすのは『疫病の魔女』ガラ・ルファ。

 振る舞いがまさしくマッドサイエンティスト。


「この一帯には既に、私が特別に製造した魔法細菌を撒布してあります。決まった範囲内の、狙った相手だけに感染する自慢の一品です」

「??????」


 ガラ・ルファが得意げに解説するんだが、まず細菌の概念が理解できないと何言ってるかわからないんだろうな。


「感染すると風邪に似た症状を引き起こし、しかし風邪より遥かに速いサイクルで進行します。その分菌が死滅するのも速いですが、症状によってガタガタになったコンディションでプラティ様たちの猛攻をしのぎ切れますかねえ?」

「ひええええ? 何言ってるの? 何言ってるのコイツ!? おかしい!?」


 こうしてまた変人扱いされるガラ・ルファであった。

 そしてもっと酷いのが向こう。


 ゾス・サイラである。


 超巨大ディープ・ワン(ゾス・サイラが作り出した怪物みたいなもの)が運河の底に足つけて直立できるほどの巨大さで、水面から上半身を出して腕ブン回すだけで相手を圧倒する。


「うぎゃああああああッ!?」

「助けて! 死ぬ! 死ぬうううううッ!!」


 パッファに嫉妬して攻め込んできた女人魚たちは逃げ惑うばかりだった。


 もはや勝つとか負けるとかの問題以前で。

 勝負の形すら成していなかった。


 それもそうだ。

 パッファたちは六魔女、人魚界最高峰の魔法薬使い。

 その全員が結託して戦えば、一般人の何百人が束でかかろうとどうにもならない。


 そもそもあの中の誰か一人だけでも問題なく勝てるのだからオーバーキルもいいところだ。


 むしろ無理筋通そうとする嫉妬人魚さんたちに同情してきた。


「うふふ……、素敵な光景ねえ。圧倒的な力の発露はやっぱりいいものだわ」


 シーラ王妃が怖いこと言っていた。


「アナタは戦わないんですか?」


 秘密になっているが王妃様だって六魔女の一人。

 彼女が出撃すれば完全無欠になるのだが、一歩引いたところから観戦するばかり。


「アタシはホラ、戦い方が特殊でしょう? こんな公のところで披露するわけにはいかないわ?」


 そんな上手く逃げたような言い訳。


「それにねえ、こういうのって実は人魚王族の恒例行事みたいなものなのよ? アタシの時もねえ、ダーリンとの結婚を目論んでいた嫉妬深い人たちに、挙式早々襲撃されたものだわ」


 歴史は繰り返すと?

 その時アナタはどうなさったんですか?


「聖唱魔法で戦ったんですか!?」

「もちろんそんなことできないから魔法なしで戦ったわよ。全員グーパンで打ちのめしたわ」


 改めて実感した。

 やっぱこの人が最強だった。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 襲撃したオバサンたちは、結局狂乱六魔女傑の全員を引き出す事は出来なかったんだなぁ…一番の大ボスは高みの見物のまんまで(笑)ただ… 個人的にはぜひ登場してほしい対抗勢力があるんですケドね…名…
[良い点] 実は恒例だった挙式後の襲撃(笑) [一言] >超巨大ディープ・ワン それってダゴンじゃないですかやだー。
[良い点] 人魚王家の恒例行事だったwww そういえば旦那さんと嫁さんの時も裏で色々ありましたもんねーw
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