429 七つの具
というわけで酒につまみを添えようという話になった。
しかしそこまで深刻な問題でもないように思える。
既にけっこうな期間存続してきた農場。その間に生み出してきたものも多く、その中には酒の肴となるものも当然あった。
ビールに合う枝豆。
ワインに合うチーズ。
色々作ったなあ。
それらのものを添えるだけで充分に思えるが、しかしすべてをカバーできてるわけではない。
酒の種類は他にもあるからなあ。
とりあえずあと日本酒とウイスキーに合う肴を用意しておきたいものだ。
ウイスキーのつまみってぱっとすぐ浮かばないから一旦置いておいて……。
日本酒……あと焼酎に合うものを考えてみよう。
博覧会での、初日限定『酒館』でも日本酒は大好評だったようだからな。
日本酒のおつまみもきっちり用意できたら、とりあえず大きな穴はなくなると思うのだ。
というわけで考えてみたが……。
……日本酒って何にでも合う分、逆にドンピシャのものを探そうとすると却って戸惑うな?
超王道でスルメとか、塩辛に行っとくか?
でも今回つまみを用意する目的は、あくまでお酒だけを飲ませずにアルコールを分解させること。
さすればもっとがっつり食ってお酒を薄められるものがいい。
主食系か?
そこで俺は思いついた。
「おでんだッ!!」
おでんといえば飲み屋の定番。
屋台でおでんと一緒に熱燗をキュッとやるのは酒飲みのもっとも幸せな瞬間の一つ。
おでんならばご飯の代わりにもなるし、その分体に入る酒の量も少なくなるだろう。
自然悪酔いも少なくなるという理屈!
「よし、おでんを作るぞ! 日本酒によく合うおでんを作るぞ!」
「頼むぞ聖者よ! 私の酒を広めるために、是非ともそのおでんとやらを完成させてくれ!」
バッカスも横で聞いていて、意気消沈からにわかに活気を取り戻す。
「バカぁッ!」
「ぐぼうッ!?」
そんなバッカスをラリアットで吹き飛ばした。
「そんな他人任せでどうするんだ!? これはお前の問題、たくさんの人にお酒を飲んでもらいたいというお前の願いだろう!?」
改めて字面にするとろくでもない望みだなあ。
「さすればつまみ作りとて他人任せにしてどうする!? お前がやるのだ! お前がその手で作り出したおでんだからこそ、お前の作った日本酒にサイコー合うはずだッ!!」
「おおッ!?」
君子豹変す。
俺の説教にバッカスはすぐ響いて……。
「聖者の言うとおりだ……! 私は何を呆けていたのだ!? 真に酒のことを想うならば、肴だって私自身が丹精込めて作らなければ! 酒と肴、混然一体となってこその酒肴!!」
うむ、その通りだ。
「聖者よ! 私は正気に戻った! 今度こそ世界中にお酒の素晴らしさを広めようというやる気ばっかっす!」
そのセリフが出てきたからにはバッカス完全復活だな。
では共に作っていこうとしようおでんを!
主体はバッカスに譲るが当然俺もお手伝いするぞ!
「おでんには具が欠かせない! 多種多様な具によって彩られる料理、それがおでんだ!」
「おお!?」
「なのでこれからおでんの具材を一つずつ揃えていくぞ! すべて揃えた時、どんな願いも叶うというよ!」
それ多分別のヤツだ。
おでん完成のために、これから揃えていく具材はというと……。
1、だいこん
2、たまご
3、昆布
4、こんにゃく
5、豆腐
6、ちくわ
7、餅
……だ!
「まずはだいこんをゲットしてくるんだバッカスよ! ウチの畑に実ってるのを抜いてきていいから!」
「ラジャッス!」
バッカスは畑へとダッシュしていった。
「だいこんだな!? その辺に生えてるのを引き抜いて……あれ? なんでひとりでに土から抜け出してるの? なんか先が二股に分かれて? 足のように? ……あッ、逃げた!? なんでだいこんがみずから走って逃げるっす!? こりゃ待てーッ!?」
最近ウチの作物の進化が未知の領域にまで入ってきた。
バッカスがだいこんと追いかけっこしているうちに、俺も作業を進めよう。
豆腐、ちくわ、餅などは調理加工が必要不可欠な素材で、以前から作り置きしてしておいたのを使うとしよう。
これらをそのままおでん鍋にぶち込むのではない。
さらに加工することによってお馴染みの、おでんの具としか認識されないものへ進化していくのだ。
まず豆腐。
これをそのまま油で揚げて厚揚げにする。
これでおでんの具一品完成だ。
また水切りしたものを油揚げにする。袋状のその中に餅を入れて、餅入り巾着の出来上がりだ。
他にもまだ豆腐で作れるものがあるぞ。
もう一度ナマの豆腐からスタート。豆腐をグチャグチャに潰したあと、刻んであったニンジンやゴボウを混ぜる。
それを丸くして油で揚げるとがんもどき完成だ。
豆腐一つからここまで豊富なおでん種を作成可能だとは。
いつだったかレタスレートの我がままに応えて豆腐を作っておいてよかった。
豆乳にすべてを掻っ攫われてがっかりしたけど、やっぱり豆腐作っておいてよかった!!
……そして、ちくわも作成。
以前かまぼこを作ったことがあるのでその経験と材料を活かす。
厚揚げ、餅入り巾着、がんもどき、ちくわ。
これで四つのおでん種ができたぞ!
さらに次のステージ、こんにゃくを作ってみよう。
……実はこれが今回一番の難問だよな。
だってこれまでこんにゃく作ったことなんてなかったんだもの。
食材的に地味というか、それで注目の機会がなかったんだよな。
しかしおでんにこんにゃくは絶対必要だ。
白滝だって原料はこんにゃくだし。
……たしか俺の記憶では、こんにゃくって芋から作るんだよな?
ル〇ンが斬鉄剣を攻略する回で見たことがある。
こんにゃく芋を『至高の担い手』で育てて加工するという方法もあるが、ちょっと時間かかりそうだな。
さてどうしたものか……。
と思ったら誰か来た。
『私はこんにゃく芋の樹霊、コンニャク・モンドーと申します』
「マジかよ」
こんにゃく芋まで樹霊化してるのか!?
でもいいの? こんにゃく芋、木に生ってないけど? 樹木に憑くから樹霊じゃないの!?
『細かいことは気になさらず。それよりも最近、こちらで婚約なさった方がおられるようで……!』
「ああ、はい」
アロワナ王子とパッファ、ヘンドラーくんとランプアイのことかな?
『婚約のお祝いに、こんにゃくをお持ちしました』
「駄洒落だッ!?」
なんつーくだらない流れでこんにゃくをゲットできてしまった!?
ご丁寧に糸こんにゃくまでついてるし、つまり白滝ね!
おまけに玉こんにゃくまで!?
『もしよろしければ後日、一からこんにゃくの作り方をご教授いたしましょう。それでは』
「ありがとねー……?」
意外な展開によって労せずこんにゃくをゲットできてしまった。
同じ頃、やっと大根を捕獲できたバッカスがヨッシャモと格闘して卵もゲット。
残る昆布はテキトーにプラティからもらった。
これですべての具材が揃った。
それらすべてを煮込んだ時、鍋は宝石箱へと変わる……!






