426 跡目争い
そんなこんなで始まりました。
争奪戦。
発酵食品部門責任者の座を巡って情け容赦なしの一本勝負。
対戦するのはディスカスとエンゼルだ。
「ディスカス! 友だち同士とはいえ今日は敵! 正々堂々全力で戦いあいましょう!」
「たはは……!?」
ディスカスの方は苦笑気味だった。
元々正統五魔女聖などと名乗り農場へ乗り込んできた五人のうちの二人。
互いの性格などとっくに知り抜いているんだろう。
特にディスカスからエンゼルの方は。
「友情も永遠ではないのね! あんなに一緒だった二人が今は敵同士だなんて! でもアタシは運命に抗わない! アナタを倒して栄光をつかみ取ることこそアタシに課せられた運命なのよ!!」
「たはははははははは……!?」
勝手に運命を感じて盛り上がっているところも既に慣れたものなのだろう。
相手側の奇行に対してディスカスは苦笑を漏らすのみだった。
「……で、勝負っつったって一体何やるの?」
「決まっているじゃない! 漬け物作りの責任者を決めるなら、それこそ漬け物の味比べよ!!」
ほうほう。
それは理に適っているのではないかな?
パッファが務めていたのは農場の発酵食品部門。
そのあとを継ぎたいのなら、発酵食品作りに通じていなければまあダメだろう。
「ちなみに、パッファから正式指名されたディスカスの腕前は?」
「どうぞ」
差し出される桶。
中には一杯の米ぬかが敷き詰められていた。
ぬか漬けを作るためのぬか床というヤツである。中から掘り出されたキュウリを、洗ってぬかを落とし食べやすいよう切り分ける。
その動作が実に手際よい。
「ぬか床を作るところから全部アタイ一人でやりました。パッファ姐さんの指導によるものです」
「ほう」
では一口……。
ぬか漬けのキュウリを口に入れる。
「美味いッ!!」
実によい塩梅に漬け上がっておる!
ぬか床の塩気や辛味の調節も絶妙ではないか!?
「言ったろう。ディスカスはもう技術的にはアタイと変わらないレベルに迫りつつあると」
パッファが師匠面してしゃしゃり出てくる。
「アタイと完全な互角になるには、まだ一つ足りないところがあるけど。それさえ埋まればアンタは真の完璧になるだろうね」
「師匠、それはッ!?」
「愛さ」
愛とか言い出した!?
「愛する男性に食べてもらいたいという心! それが漬け物に染み込むことで何倍も美味しくするんだよ! 旦那様が喜ぶ顔を思い浮かべただけで、アタイのぬか床に住み着く乳酸菌共も百倍活性するのさ!」
「なるほど! 勉強になります師匠!」
「……アンタも早くいい人を見つけるんだね」
「はいッ!」
……むしろ胸やけして味がわからなくなりそうなんですが?
ディスカスが愛のぬか漬けに目覚める日は来るのだろうか?
「ディスカスが圧倒的な味力を示してくれたわけだが、対して……」
人魚族第二王女のエンゼルさん?
アナタこれに対抗できるんですか?
「そもそもキミ、漬け物作れるの?」
それもできないでパッファの跡を継ごうとしていたら、キミ。
噴飯ものだよ。
「大丈夫よ! 既に準備はしてあるわ!」
ドンッ、とまたしても面前に置かれる桶。
「こないだからディスカスに教えてもらって漬けてたのよ! これぞ王女エンゼル謹製! スペシャルロイヤルぬか漬けよ!」
「うわはぁ……!?」
まさか対戦相手として挑むディスカスから指導を受けていたとは。
他に適当なのがいなかったとはいえ、まさしく恩を仇で返す行い。
「でも教えてもらったのって、ついこないだからなんでしょう? そんなにわか仕込みでパッファから直接指導を受けたディスカスに勝てるの?」
「そこは、アタシの高貴な血筋と気品で!」
完璧にダメな王族の行動パターンじゃねーか。
要は、ディスカスのぬか漬けとエンゼルのぬか漬けを食べ比べて美味い方を決めろってことなんだろうが。
そういう勝負なんだろうが。
……よかろう。
万人を納得させる結果を得るためにも、その審査万全を期そうではないか。
ならばそれ相応の審査員がいるだろう。
二人のぬか漬けを食べ比べて、正当に判断し公正な決断を下せる審査員が。
* * *
そこでノーライフキングの先生をお呼びした。
「先生、よろしくお願いします」
『うむ』
「ちょっと待ってええええええッ!?」
なんかエンゼルが泣きながら割り込んできた。
「なんで先生なの!? ぬか漬けごときの審査員にノーライフキングなんて大仰にすぎませんこと!?」
「そんなことないよー、先生は漬け物大好きだよ?」
お付き合いが始まったころからお土産にたくあんお出ししてたし。
だから味に対する判断も一流のはず!
「あの……、それでもできましたら、もうちょっとイージーな審査員を……!?」
「先生は充分イージーだぞ。キミら生徒のやることは大抵褒めるからな」
現在エンゼルたちは、農場に設立されたマーメイドウィッチアカデミア農場分校の生徒という立場。
他、人族や魔族の留学生と一包みにされている。
最近影が薄い理由もそのあたりにあるのだろうが、であるがだけに可愛い生徒の一人として先生に甘やかされる立場でもあるのだ!
「先生は褒めて伸ばすタイプだからなー。大丈夫、キミのぬか漬けがどんなに不味かろうと、どっかにいい点を見つけて褒めてくれると思うぞ!」
「それをあらかじめ言われてもちょっと!?」
ちなみに審査員を難易度別で分けてみるとすると……。
ベリーイージー:シーラ王妃。
イージー:先生。
ノーマル:アロワナ王子。
ハード:俺。
ベリーハード:パッファ。
ナイトメア:プラティ。
「……みたいな感じになっておりますが、どうする? 思い切ってナイトメアに挑戦してみる?」
「い、イージーでお願いします……!」
さすがにベリーイージーに逃げることはなかったか。
シーラ王妃に審査を任せたら、味に関係なく無条件でエンゼル勝たせそうだからなあ。
それはいかんとエンゼルの良識が踏みとどまったか。
では正式に決まったところで……。
「先生、審査を」
『いただきます!』
先生は食す。
エンゼル製のぬか床より掘り出されたパプリカを……。
パプリカ!? なんでそんな変わりもの漬けた!? どうせエンゼルのことだから『王家のぬか漬けだから特別な感じでなきゃいけないのよ!』とかいって奇をてらったに違いないが!
……とにかくパプリカを先生、困惑顔一つ見せず試食する。
しばらく咀嚼して……。
『……もうちょっと頑張りましょう!』
「ダメだーッ!?」
生徒のすることなら大抵褒める先生ですら美点を見つけられず、最大限角をとった表現で婉曲にダメ出しするしかなかった。
すみません先生!
気を使ってもらってありがとうございます先生!
「うおおおおーーん! アタシのぬか漬けがああああーーッ!?」
そして泣き崩れるエンゼル。
あれじゃダメだということは本人に伝わったらしい。
「パッファお義姉さまのあとを継いで、王家の流れに乗るという野望があああッ! お姉ちゃんに近づく夢があああッ!?」
よほど悔しかったのか号泣するエンゼル。
そんな彼女の肩に、ぽんと手が置かれた。
「……ディスカス?」
「お願いがあります。醸造蔵の責任者、エンゼル様に譲ってもいいですか?」
なにッ!?
何を言い出すんだディスカス!? それはキミが指名されたんだろう!?
「アタイはエンゼル様に見出されて取り巻きに入れてもらえました。そのお陰で農場に来れて、尊敬するパッファ姐さんに弟子入りできたんです。そのご恩をエンゼル様にお返ししたい」
「ディスカス!」
「当然、実務の方はアタイが取り仕切ります! パッファ姐さんがいた時のように作業を滞らせはしませんし、味のクオリティも落としません! なので責任者の座にはエンゼル様を!!」
それって実際はディスカスが取り仕切って、エンゼルはお飾りのトップでしかないってことでは?
いいのそれで!?
「うわあああんディスカスありがとう! やっぱりアナタはアタシの大事なお友だちだわあああ!」
「そうです! 姫様に友だちだといわれた時からこの命、いつでもアナタに捧げる覚悟です! これからもアナタのために働かせてください!」
抱き合う少女人魚二人。
これでいいのかなあと若干思うが、人徳で周囲を動かすエンゼルのやり口の方がアロワナ王子やプラティよりよっぽど王族っぽい。
「エンゼルちゃん……、しばらく見ないうちに成長して……!」
シーラ王妃が娘の成長(?)を見届けて感涙していた。親バカ。
「もっすぅ……!」
そしてナーガス王は号泣しておられた。超親バカ。
やっぱり娘に対しては父親の方がさらに甘いんだ!?






