41 住→食→Next
俺がこの開拓地に移り住んで、けっこうな日にちが経った。
家も建って、使用できる食材の種類も多くなる。
生活も充足してきたということだ。
すると人の欲には際限がないもので、満ち足りるとまたすぐ新しいものが欲しくなる。
服だ。
身に付ける衣服。
それは文明人の証。人と猿を分けるもっとも明瞭な違いと言って過言ではない。
その衣料関係を、俺は長いことずっとおざなりにしてきた。
元の世界から俺と一緒に召喚されたナイロン製のシャツやズボンは、とっくの昔に擦り切れ襤褸と成り果てている。
アウトドア作業多かったしな。
それを見越して王都で大量の衣類を買い込んできたが、それもそろそろ着古して限界に達してきていた。
何よりも、我が妻プラティに穿かせる下半身用の衣類が圧倒的に不足している。
いや絶無と言ってもいい。
何故なら、彼女は元来人魚だから。
本来彼女の下半身は、海中を自在に泳ぎ回る魚の尾びれ。
その状態だと、当然衣類は必要ない。むしろ邪魔。
なので人魚にとってパンツズボンスカートなどは、存在しない概念だった。
しかし陸に上がるとそういうわけにもいかない。
陸での人魚は、環境に合わせて下半身を魚から人間そっくりなものへと変化させる。
海中では何も着けない下半身は、陸上でも何も着けない。
結果があられもないスッポンポン。
それを防ぐために行えるのは、俺の着回しにしているズボンを押し付けるだけだった。
最初は窮屈だのダサいだのゴネていたプラティだったが、今ではすっかりズボンを穿いての生活に慣れている。
ただ、そうした彼女の適応に、内心忸怩たる思いを感じているのが俺だ。
愛する妻に我慢を強いているというところが。
表向きは慣れたと言ってくれるが、彼女だって年ごろの女の子。
もっと晴れやかなパンツやスカートで着飾りたくもあろう。
それがむさくるしい男もの。しかも夫の俺と共有。
プラティには、プラティだけの綺麗なスカートやズボンなどを穿いて、華麗に着飾ってほしいのだ!
そこで、次に目指すものが決まった。
家を建てて、食料も溜まって、次に得るものは衣料だ!!
* * *
そんなわけで服を作ることにした。
俺がヘパイストス神から贈られた『至高の担い手』ギフトがあれば、これまで拵えてきた料理や金物、家などと同様すぐさま出来上がるはずだ。
ハサミや針といった必要な道具も、先生から頂いたマナメタルを材料に揃えてあるし。
肝心の布地も、家建設の過程で寝具一式を整える必要を感じ、綿花を育てて収穫、ゴブリンたちの手で織り上げた木綿生地が潤沢にある。
とりあえずこれらを元に、作れるだけ服を作ってみることにした。
* * *
「できた!!」
とりあえず数着。
シンプルなズボンとシャツだ。
プラティ用だけでなく、俺自身の服や、オークボたちのも作ってみた。
「おお! 体にピッタリ合いますな!!」
「ありがとうございます我が君! これで畑仕事もはかどります!!」
オークボたちは、ダンジョンから移住してきた時は粗末な腰布一枚しか着けていなかったからな。
その腰布自体、何処から用意してきた謎だが、今ではパリッとした上下の衣服を整えて、割と普通の村人みたいだ。
俺自身、服を新調できてサッパリした感じだ。
これで肝心のプラティが喜んでくれたら……。
「デザインがパッとしない」
あれッッ!?
俺から渡された木綿スカートを手にして、プラティ何だか微妙な表情。
「あッ!? 誤解しないで!! 嬉しいのよ! ご主人様から服を手作りしてもらって本当に嬉しいの! ……ただ、この服を着てオシャレかって言うと……!」
重大な事実が判明した。
完全無欠と思われたギフト『至高の担い手』。被造物の芸術性までカバーできない。
俺にはファッションセンスがなかった……!
これではナウなヤングであるプラティが喜ぶような服を用意することができない……!
「ところでさあ、ヴィールはどうやって服用意しているの?」
と隣に佇んでいるヴィールにプラティが聞いた。
たしかに彼女は、ドラゴン形態から人間形態になる時、フツーに服を着ているな。
「そんなの魔法で作ってるに決まっているだろ。ドラゴンの魔力を舐めるなよ」
「あー、やっぱ次元違いよねドラゴンって……!」
たとえ『至高の担い手』があろうとも、ファッションセンスのない俺にシャレオツな服を作れないことはわかった。
ではどうする?
ここは誰かしらに外注するしかないか?






