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414 猫のいる生活

 そんなこんなで我が農場に猫が住み着いた。

 正確にはノーライフキングだが。


 博士。

『三賢一愚』と呼ばれる最強ノーライフキングのうちの一体で、しかもその中でも最年長の四千歳。

 先生すら軽く上回る長寿。


 そうした説明文だけ聞けば、どれほど恐ろしい相手かとビビるが、しかしその実態は猫。

 日当たりのよいところで昼寝しておられる。


 それを見詰める犬一匹。狼型モンスターのポチだった。

 凄く哀愁の漂う表情をしていた。


「……あの、博士?」


 見かねた俺が呼びかける。


「その積み上げた干し草の上は、ポチのために設えた寝床なので侵略しないでいただきたいのですが……!?」

『寝心地がいいのにゃ。よい寝床は常に奪い合いされるのにゃ。強い者が一等地を取るのは動物の摂理なのにゃ』


 ポチが益々悲しげな眼で俺を見上げてきた。


 猫に寝床を奪われる犬。

 これもよくある。


「博士のためによりよい寝床を拵えさせていただきますので、ここはどうか……!?」

『なら新しい寝床が完成してから言うにゃ、気に入ればそっちに移ってもいいにゃ』


 この猫……!!

 そんな態度をとるなら、こっちも最終手段を採るしかないな!


「おぉーい! 大地の精霊の皆! 猫がここにいるぞー!」

『ふにゃあああああッ!!』


 お前の弱点はわかっているぞ!

 加減を知らない子どもの可愛がりに晒されるがいい!


 そしてやってくる大地の精霊たち。


「ころせですうううううッ!」

「ねこはころせですううううッ!」

「くじょたいしょーですうううううッ!」


 あれ? 思ったより殺気が濃い?

 俺としては可愛がりでクタクタにさせることを企図していたのだが、対応が前よりデストロイすぎない?


「あたしたちは気づいたのですー!」

「気づいてしまったのですー!」

「ねこはいえをこわすのですー!」


 博士を追いかけ回すことをやめずに精霊たちは言う。


「つめをといで、かべをけずるのですー!」

「しょーじをやぶるのですー!」

「けをまきちらすのですー!」

「あちこちにげーげーはくのですー!」

「いえをけがすの、ゆるしておかぬですー!」


 そうか。

 俺が農場の主として精霊たちに命じた仕事は、家の掃除。


 日夜掃いて雑巾がけして、家を綺麗にする。

 そんなあの子らにとって、猫は存在自体が家を汚す怨敵。


 こないだは猫の可愛さに目が眩んで失念していたが、時間をかけて気づいたってことか!?


「ねこは追いだすですー!」

「ゆるしておかぬですー!」


 猫を追いかけ回す大地の精霊。

 アイツらスイッチ入るとホント限度を知らなくなるな……!?


 いつだったか上級精霊のアラクネが来た時も害虫駆除とか言って叩きまくってたし、そして今度は最上級ノーライフキング。

 恐れ知らずか!?


 これはちょっと想定を超えていかんな……、と思ったので俺が仲裁に乗り出す。


「待つんだ皆……!」


 猫と精霊たちの間に割って入る。


「どくのですごしゅじんさまー!」

「そいつころせないですー!」

「こーきしんが、ねこをころすのですー!」


 いや、殺そうとしているのはお前らだ。


 この興奮しきっている精霊たちをなだめるために、薄氷を踏む気持ちで説得していかねば。


「……お前たちの気持ちはわかる。たしかに猫は家を汚すし傷つけもする」


 それはペット飼いの宿命でもあるのだろう。

 ペットに癒されたかったらどこかで折り合いをつけなければいけない問題だ。


 しかし今、大地の精霊たちは『清掃係』という立場に徹し、その視点だけで猫を見る。

 情に訴える説得は通じまい。


 そこで……。

 別のアプローチを試すことにした。


「しかし、猫は役に立つ!」

「どーいうことです!?」


 よし精霊たちが喰いついた!


「猫が家にとって得になること。それは……ネズミを捕まえる!」

「「「「「!?」」」」」


 精霊たちの表情が変わった。

 稲妻に打たれたかのような衝撃が走った。


「そーです! そのとーりです!」

「ネズミは、ねこいじょーのがいあくですー!」

「はしらをかじるですー!」

「しょくりょーを喰いあらすですー!」

「ペストをばらまくのですうううううううううううッッ!!」


 精霊たちの、ネズミへのヘイトが猫以上。

 しかし物知りだなコイツら、なんでペストとか知ってる?


「そんなネズミをたいじする、ねこですー!」

「ねこはえらいのですー!」

「しろいねこもくろいねこも、ネズミをとるねこはいいねこなのですうううッ!!」


 精霊の猫へ対する感情が正反対に変わった。


「ねこ、だいかんげーですー!」

「かわいいですー!」

「もふもふですー!」


 猫を讃えるために胴上げにするが、これこそ猫には大迷惑。

 ひとしきり猫を上げたり下げたりして、ひとしきり満足した精霊たちは仕事へと戻っていった。


『敵対したり歓迎したり慌ただしいヤツらだにゃ……!?』


 残った博士は弄られすぎてクタクタになったペットとあまり変わらなかった。


「……という風に、俺の農場で傍若無人しすぎると対抗手段はいくらでも用意しますんでご注意を」

『さすが先生が認めた聖者だにゃ。なかなかの曲者だにゃ……!?』


 博士は渋々寝床を明け渡し、元来の居住者であったポチが喜々として空席に飛び込んでいった。

 ……しかしポチも少しは自力で何とかしようとする気概を見せろよ。


「犬としてのプライドはないのか?」

『狼型モンスターだにゃ』


 なおアレだが。


「では博士、アナタにも約束通り働いてもらうとしますかな?」

『何の話だにゃ? 約束で働くのはお前の方だにゃ。早く吾輩専用の寝床を作るにゃ。夏涼しく冬暖かく、適度な広さがあるのがいいにゃ。狭すぎるのも広すぎるのもダメにゃ』

「その前にすべきことがあるでしょう?」


 家の中のネズミを駆除するという。

 そうして農場に貢献するからこそ精霊たちのお目こぼしを貰ったんでしょうが。


「農場に住みつくなら誰もが何かしらの仕事をする。『働かないのはヴィールだけで充分』が俺の座右の銘だ!」


 可愛いだけで充分に貢献しているという意見もあるが、この際だ。


「ネズミを捕って農場に飼われる資格を見せていただこうではないか!」


 外にいるネズミはポチたちが咥えてきてくれるからいいんだけど、さすがにアイツらは屋内まで入れないからな。


 天井裏や縁の下に潜むネズミ対策はたしかに悩ましい問題だった。

 それを猫が何とかしてくれるなら願ったり叶ったり!


『嫌にゃ』


 しかし博士はにべもなく拒否してきた。


『吾輩は優雅な家猫なのにゃ。家猫は働かないのが誇りにゃす。媚びを売るだけ有り難いと思うのにゃー』

「そうですか。……おーい大地の精霊たちよー?」

『わかったにゃーッ!! ネズミ捕らせていただきますにゃ!! 十万匹でも狩り尽してみせますにゃよ!?』


 最初からそうやって素直でいればいいのだ。


『やれやれ仕方ないのにゃー、では早速……』


 博士の猫の目が、ウチの母屋を見詰める。


『うにゃやー』


 そして呪文らしきものを唱えると、即座にボトボト複数の何かが目の前に落ちてきた。

 それはネズミだった。


 ネズミの死体がいくつか。


『思ったより少ないのにゃー? 既にきちんと駆除できているにゃ』

「そういえばプラティが定期的に罠を設置していると……?」

『じゃー吾輩が手を下す必要もなかったのにゃー? それでも義務は果たしたにゃす。次はそっちが義務を行使して寝床を拵えるにゃ』

「ちょちょちょ……! その前に、一体今何をしたのですか!?」

『魔法にゃ』


 こともなげに言ってくる猫。


『三千年位前に開発した対ダンジョン侵入者用の迎撃魔法にゃ。指定された範囲の設定に合った生命体を即殺すにゃ。範囲と対象条件を自由に設定できて便利なんだにゃー』


 それで母屋の中に潜んでいるネズミを全部殺して、瞬間移動で移動させたと……?


 ……実感した。

 やはりこの猫はただの猫ではない。

 先生にも匹敵する魔法の叡智を極めた。


 不死の高王なのである。

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