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408 さらなる春

 春が来た。

 始動の時だ。


 雪が解けて大地が顔を出し、農作業ができるようになる春。

 大地の精霊たちが冬の休眠を済ませ、地中から顔を出してくる。


「おひさしぶりですー!」

「おひさしぶりぶりざえもんですー!」

「ことしもいちねん、よろしくおねがいしますですー!」

「あけおめ、ことよろですー!」


 元気な子たちが春の到来を告げた。

 あちこちでのお祭りは終わり今再び、土いじりに没頭する時代がやってきたのだ!


「それでは皆、頑張っていこう」


 区切りの時期なので、一旦農場に住む全員を集めて決起式をとり行った。


 こうしてみると本当たくさんいるなあ。

 三~四百人はいるんじゃない?


 とにかく皆でやる気を共有し『えいえいおー』でお仕事開始。


 農作業に取り掛かった。


 まずは雪の下でもしぶとく伸びていた雑草を、ゴブ吉率いるゴブリン班が芝刈り機の速度で刈っていく。

 オークらがパワーで耕し、ちょうどいい塩梅になった土に俺が手を触れ、作物が芽吹くように祈った。


「元気に育てよー」


 これで実際に育つ。

 種まきしなくても芽は出る。


 何故かというと、それは俺の手に宿る『至高の担い手』という能力のお陰だ。


 触れたものの潜在能力を限界以上に引き出し、いやむしろ潜在していないものまで引き出す力。


 それによって俺に触れられた土は限界以上の性能となって、蒔いてもいない種を芽吹かせる。

 なんだそりゃ? となりかねる理屈だが、この能力によって俺は、こちらの世界には存在しない、前いた世界の農作物を育てることができる。

 長年の品種改良によって、とても美味しくなった前の世界での作物を。


 その味は、こちらの世界で大いに好評で農場博覧会やオークボ城で大盛況だった理由の一つもそれだろう。

 あれらのイベントでも農場製の料理を振る舞ったからな。

 主に豆と粉。


 そのあと人魚チームが作成したハイパー魚肥を撒いて、あとは『元気に育ってください』と手を合わせて一区切り。

 これで明日には芽が出始める。


 人魚たちが魚モンスターを原料に作る肥料は、作物の成長をとんでもなく速めるのだ。


 早く育って、その上美味しい。

 ということで我が農場の作物は世界一を自負するところなのだが……。


 欠点もないではない。


 たとえば『至高の担い手』で芽吹かせた作物には種子が伴わないのだ。

 種というべき部位は存在するのだが、試しに植えてみても育たない。

 そしてダメかなと思って掘り起こしても種だったものが見当たらない。恐らく速攻で分解されて土に還っているものを思われる。


 恐らくは『至高の担い手』によって生み出される疑似作物。それらが繁栄し、元々の生態系に影響をもたらさぬように処置されているのだろう。


 何にしてもおかげで俺が生産する作物は一代限りで終わり。

 なので今でも始まりは『至高の担い手』からだ。


 いつまでもそればかりじゃいかんと、新たな試みも発生している。


 こちらの世界独自の種子を外から取り寄せて、育ててみようという試みである。


 これを率先して行っているのはレタスレートとホルコスフォンのコンビで、『豆で世界を支配する』野望を持った二人は、やはり一代限りで終わる『至高の担い手』から出た豆に満足せず……。

 繁殖、繁栄してこそ世界を豆で覆い尽くすことができる! というので、それができるこの世界土着の豆も取り寄せて、俺が発生させる豆類と並行して育てている。


 ……ちなみに豆なんて種そのものだから、『至高の担い手』による種の無効化をモロ影響受けそうなんだが。

 豆もただ植えたら育たないだけで、味も加工具合も普通のと変わらないように思える。

 不思議だなあ。


 そして繁殖繁栄できるこの世界土着の豆を育てているレタスレートたちだが、そっちにも問題があるらしい。


「大して美味しくない……!」


 と。

 やはり、より野生に近いこちらの世界の作物では、品種改良されたあっちの世界の作物に味で敵わぬようだ。


「セージャが生やしてくれる豆の美味しさでないと、民衆どもを魅了することができないわ! 一長一短ね……!?」

「諦めずに頑張り続けましょうレタスレート」


 そんな感じで前向きな二人を応援したかったので。

『美味い豆と美味い豆をかけ合わせたら、さらに美味い豆ができるんじゃない?』とヒントを与えてみた。

 まんま品種改良の原則だが、根は素直な彼女たちはその案に乗って、こっちの世界の豆と豆を交配し始めた。


 それが去年のこと。

 うちにはハイパー魚肥があるから交配による改良成果はすぐさま現れて、春到来のある日……。


「ねえセージャ! 見て見て!」


 と研究成果を見せに来た。


「興味深いことがわかったわ! まん丸な豆ができる品種と、シワシワの豆ができる品種を掛け合わせると、何故か丸い豆ができる確率の方が高いの! 半々じゃないのよ!」

「不思議ですねレタスレート」


 ……レタスレートどもが、メンデルの法則の第一発見者になっていた。

 この世界での。


 この分なら優性劣性の法則にも自力で気づくだろうと思って放置した。


 それ以外にも春っぽい景色といえば……。


 留学生たちかな?


 将来魔国、人魚国、旧人間国などを背負って立つ人材となるため、我が農場で学んでいる彼らだが……。

 ……春になって色恋じみてきた。


 いや、カップルは前々から多く成立していたんだが、春になって殊更恋のピンク色が濃厚になってきたというか……。


 春だからな。


「ねえねえリテセウス、私のこと好き?」

「す、好きだよ?」

「私にも好きか聞いて」

「え、エリンギアさんは僕のこと好きかい?」

「自惚れるな! 私がお前のこと好きになるわけなかろう!」

「そのタイミングでツンツンするのはズルい」

「あッ、ウソウソ! 好き好き!」


 恋の花が咲き乱れておる。


 まあ、そもそも遍くすべての生物は恋をするために生まれてくるものだし、今の彼らはもっとも恋をすべき時期の者たち。


 だから恋する分は別にいいのだが、こうまで濃厚だと当てられてなあ。


「不幸になれええーーーッ!!」


 ついに濃厚すぎる恋愛色に正気を奪われる者が出始めた。


『凍寒の魔女』パッファだ。


 六魔女の一人に連なる人魚で、世界最高級の魔法薬作りの腕前を持つ彼女が、らしからぬ狂態を発する。


「アタイより年下のくせしてアタイより先に幸福になりやがって! 許せん! ソンゴクフォン! コイツらの発生させる甘い空気ごと吹き飛ばしておしまい!」

「あいさー姐さん」


 遊びに来ていた自由天使ソンゴクフォンが躊躇なくマナカノンを向けるため、慌てて取り押さえる。


「わー!? ダメダメダメダメダメダメッ!!  何やってるのパッファ!? ソンゴクフォンもこの状態のパッファの言うこと聞いちゃダメ!」

「だって……! だってアタイがまだ結婚できないのにコイツらイチャイチャして消し飛ばしたいんだよおおおおッ!?」


 そう言ってもアナタだって婚約しとりますやんけ。

 しかも人魚国の王子アロワナさんと。

 彼の妻ということは将来は人魚王妃ということで玉の輿。


「そんなけっこうな御身分なのにどうして他人を妬む!?」

「婚約と結婚は違うんだよ! しかもアタイらの場合遠く離れてたまにしか会えないから余計フラストレーション堪る! 他人の幸せをぶっ壊したくなるほどに!!」


『たまにしか』とは言ってもアロワナ王子昨日来てましたよね?

 そして明日も来ると言ってたし。


「ああー! もう限界だ! 結婚したい結婚したい結婚したい! 旦那様に会いたい毎日会いたい一分一秒ごとに会いたああああいいいいいいッ!!」

「姐さん気をしっかり持つっすよー。不肖あーしが飲んで憂さ晴らしに付き合ってやるっすよー」


 ソンゴクフォンに支えられてパッファは、バッカスが管理する酒蔵へと向かっていった。

 恐らく昼間っから痛飲してヤケ酒するのであろう


「よくない傾向ね……」

「うわプラティ?」


 いつの間にかプラティが隣に立っていた。

 ジュニアもしっかり抱いている。


「義姉については結婚したくてもできなくて歯噛みする状況をしばらく笑って眺めてたけど。そろそろ飽きてきたし。そもそもあそこまで痛々しくなってしまったらおちょくりの種にもできないわね」


 心優しいのか鬼畜なのかわかりづらいコメントだった。


「さすがに兄さんが武泳大会連続優勝を決めたからには結婚できると思ってたけど、それでもママ許さなかったからねえ」

「あれは許さないというかウヤムヤにした感が強いけど……!?」

「できる限り長引かせて笑ってやろうと思ってたけど、案外早くに飽きたわ。これだったら後援して恩を売ってやった方が総合的にはよさそうね」


 プラティ、将来の兄嫁に対して言う。


 俺もアロワナ王子とパッファの仲は応援してあげたいし。概ねの方針は同意かな?


 そういうことで早くも今年の目標が決まった。


 今年は、アロワナ王子とパッファを結婚させる。

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