406 オークボ城ダイジェスト:選手編
こうして一時は開催が危ぶまれた風雲オークボ城であったが、無事開催の運びとなった。
中止要因であったグランドバルグ領反乱が秒単位で鎮圧され、かつ死者が一人も出なかったことが大きい。
これで犠牲者でもいたら、無事鎮圧できてもお祭りムードはできなかっただろう。
本当にオークボたちと留学生たちはよくやってくれた。
あとレタスレートも。
とはいえ直前にそんな大ごとがあって中止だの開催だの目まぐるしくなってしまったから、果たして『お客さん来てくれるかな?』と不安でもあった。
しかし開催当日蓋を開けてみたら。
去年を遥かに超える大盛況。
「この人数!? 第一回の何倍ぐらいいるの!?」
「三倍から四倍ぐらいかと!?」
マジですか!?
予想以上の来場者数となった原因としては、既に去年、第一回が開催されたことでイベントが周知されたこと。
好評を博してリピーターも多数訪れてくれたようだ。
そしてもう一つの要因として皮肉なことに、つい先日引き起こされた反乱も盛況へと繋がっていた。
反乱鎮圧のため旧人間国各地から集結した兵士たち。
彼らは結局オークボ城の無双の陰で活躍なしに終わったわけだが、だからこそ何もせぬまま帰るのは寂しいということで、近場にて開催されるオークボ城にやってきた。
軍隊的には隣の隣の領も近場になるのか。
とにかく挑戦形式アトラクションという触れ込みを聞き『ここで我が領の威信を見せよう!』とこぞってイベント参加。
結果、前回を遥かに超える参加者数に。
「まさかこんな形でピンチがチャンスに入れ替わるとは……!?」
どうしようもないので急きょ日程を伸ばして三日間開催に。
なんか博覧会と同じような流れになってきた。
全関門クリアする人も前年以上になると見越して賞品も加増。
主に増やした景品は前年何故か人気だったバティ作、女性用下着セットだった。
……いやエロ要素じゃないんだが。
でも何故か人気で、奥さんや恋人からねだられ男性参加者が激増。中には女性自身で参加して賞品を狙うという剛の者までいて『なんでそんなに下着が欲しいの?』と困惑。
「だって着心地がよすぎるんだもん! ここでもらえる下着サイコーだもん!」
と言われた。
?
さて、第二回が凄いのは参加者数だけじゃない。
量も凄いが質も凄いぞ。
まず紹介したいのが、第二回になってさらに洗練されたアトラクション。
第一回で好評を博した部分は残しつつ、新鮮なアイデアを盛り込んでさらに楽しめるよう改良した。
第一関門『イライラ平均台』、第二関門『遺跡の罠的なアレ』は前回好評、かつ比較的初期の障害物なので皆慣れ親しんでいるだろうという理由から据え置き。
第三関門は『初見殺し!』という意見がとても多かったために改良を施し、難易度を低めにした新作『おいでよ! ディープ・ワンの森!』に新調。
担当者はゾス・サイラであることは変わらなかった。
第四関門は、知的要素にアスレチック要素を加えた全身活用パズル『スペルスペルくん』。担当者はベレナ。
第五関門は担当者まで完全に入れ替えて、去年の今頃は旅に出ていて不参加だったパッファがソンゴクフォンを招いて繰り広げる新作関門『早く結婚したい』。
作名に願望を入れるなと注意しておいた。
第六関門と第七関門はオミット。
理由は難易度緩和と、イベントが間延びすることを防ぐため。
前回でもあってないような部分だったから省略は英断だろう。
そしてそれらに挑戦する参加者たち。
全国津々浦々から腕に覚えある猛者たちが集い、熱狂に包まれた。
農場からも俺が参加し、あと農場留学生たちもこぞって参加。反乱鎮圧で手柄を上げた若者たちの実力は実証済みだった。
さらに、この人がいなくては始まらない地元領主ダルキッシュさんが今年も参加。
反乱騒ぎで今年の雄姿は見られないかと不安だったが、二年連続全クリアに果敢に挑戦する。
他にも目玉参加者が……。
「……ついに復讐の時は来た」
と物騒なことを仰るのは魔王さん。
前年屈辱の第一関門リタイヤを経験。今回は是非とも自己記録を更新し、地上の覇王、そして父親としての威厳を取り戻したいとのこと。
「今年は親父殿や兄上も参加していますからな、なおさら無様なところは見せられぬ」
大魔王さんたちも挑戦するんですか。
アスタレスさんグラシャラさんの第一第二魔王妃がそれぞれのお子さんを連れて応援に来ているし、魔王一家全員参加しているのですか!?
「本当はベルフェガミリアも誘ったのだが『面倒くさい』と断られました」
魔王の誘いに、その一言で拒否るメンタル。
でも魔国の要職がこぞってイベントに参加したらそれはそれで困る!
しかし、オークボ城に挑戦するVIPは魔王さんだけに留まらず……。
「今度は私も招かれましたぞ!」
やってきたのは人魚国のアロワナ王子。
海底から上陸しての参戦。
去年は修行中で参加できなかったため、今年が満を持しての初参加。
「先日は聖者殿に海底まで来ていただきましたからな! 今度は私が陸で盛り上げさせていただきますぞ!」
アロワナ王子が参加して下されるなら盛り上がります。
盛り上がりすぎて困るぐらいです。
魔国の王と人魚国の次期王が同時参加。
オークボ城はサミットではありませんよ?
その他、反乱鎮圧に参加していた各地の領主さんたち、さらに人間国に駐屯する魔王軍で一番偉い人? 総督? とかいう方も参加なさっていた。
益々サミットの様相を呈してきた。
大丈夫かな? これらの方々接待プレイしとかないと禍根残さないかな?
とか心配になってきた。
まあ、この中で間違いなく最高権力者である魔王さんを去年第一関門で落としてるんだから今さら贔屓もクソもないんだが。
しかし。
まだ驚くには値しない。
参加者の中にはこれよりさらに重大な、人間国だからこそ魔王さん以上のネームバリューを持ったスペシャルゲストの参戦があった。
S級冒険者のシルバーウルフさんだ!
「生徒たちとの約束でな。話題のすべてをかっさらいに来たぞ」
豪語するのも自信過剰ではない。
ここ人間国では冒険者こそもっともイカした職業。その最高峰であるS級冒険者は憧れの的なのだ。
その一人であるシルバーウルフさんならば、地元において魔王さんをも凌ぐ人気者。
会場入りすると共に観客席から凄まじい歓声が上がった。
名声だけではない、実力においてもシルバーウルフさんは鉄板の大本命。
何しろ冒険者は、日夜険しいダンジョンを攻略するのが仕事なんだから。行く手を遮るアトラクションなどお遊戯程度のものだろう。
もっとも適性があるということだ。
独壇場。
「手加減はしない。S級冒険者の実力を今日は生徒以外の皆様にも教授して差し上げよう」
「大人げない!」
シルバーウルフさんが本気になったら、オークボ城のアトラクションなど赤子の手をひねる様に突破されるだろう。
それではつまんない。
「じゃー、ハンデを与えるのだー」
そこへ提案しに来たヴィールはグッドタイミングだった。
「コイツと一緒に、ににんさんきゃーくで走るのだ。それでバランスがとれる」
「足手まといをつけるということか? それでも私が一番速くゴールできるのは確実だが」
「お前のパートナーはコイツだー」
とヴィールが差し出したのは……。
ドリアンの樹霊ドリアン・カイオウだった。
「あぎゃあああああああッ!?」
シルバーウルフさんが鼻先を抑えてのたうち回る。
狼の獣人として人並み外れた嗅覚を持ち合わせるシルバーウルフさん。世界一臭い果物として有名なドリアンを近づければそりゃそうなる。
「なんだこの臭ッ! くさああああああッ!? こんなのと並んで走れと!?」
『ともにベストを尽くしましょうぞ』
「尽せるかあ!? 私のベストをお前が減殺しまくりだ!」
『ハンデとはそういうものでしょう』
「ガチに殺しに来ることをハンデとは言わん!?」
シルバーウルフさんにドリアン・カイオウを引き合わせたらこうなることはわかっていたろうに。
それでも実行するヴィールの恐ろしさ。
まあ、実際始まってみたら……。
それでもシルバーウルフさんはS級の意地を見せてドリアンと共に無事完走した。
その他にも結果だけを羅列してみたら。
オークボ城全アトラクションをクリアしたのは大魔王バアルさん、アロワナ王子、ウチの留学生から多数、人間国の領主さんチームからも多数。そしてそれ以外からも多数出た。
ダルキッシュさんも地元の意地で二年連続クリア。
魔王さんは因縁の第一関門をクリアして去年の雪辱を果たしたものの、第二関門であえなく撃沈。
俺も第二関門で死んだ。個人的に去年と同じ記録だった。
……いや待って。
だってズルいんだ。
転がってくる岩よけながら坂を上っていくアトラクションのはずなのに、急に地面からタケノコ生えてくるんだもん。
タケノッコーンの仕業か?
タケノコに当たって岩が軌道変えてくるとかピンボールか。
第一第二関門は仕様変えないって企画会議で言ってたじゃん!
なんで密かにちょっとした改造を施してるんだよ!






