403 オークボの動く城
引き続きグランドバルグ領の領主オセンニムだ。
なんか気づいたら絶体絶命のワシ。
反逆者として人魔双方の軍から取り囲まれておる。
そしてなお悪いことに。
なんか正体不明の何かが現れた。
本当になんだあれ?
ワシは城壁の縁に立って外の様子を窺っていると、一際目を引く巨大な何か。
巨大。
ひたすら巨大で、パッと見建築物に見える。
石垣を積み上げられて……、上部は……、何だろう泥でも塗りこめられているのか?
しかし土壁とは思えないほど真っ白で真っ平らな壁だ。
しっかりした造りと規模から見て、あの建物をどう呼ぶべきか決めるとしたら、城。
まさに城だった。
「城が、我が街の目前に……!?」
「包囲戦のために建てた一夜城ということですかな? いや待て……!?」
ワシも教団の使者も、次に起こったことを理解できず頭が空白になった。
城が動いた。
じりじりと地を這うようにして、こっちへ向かってたしかに進んでいる。
「「ひぃえええええええええッッ!?」」
ワシと使者殿は一緒になって悲鳴を上げた。
「城が!? 城が動いとる!?」
「まさかああしてここまで来たというのですか!? 地面の上を進んで!?」
まさかありえぬ出来事に度肝を抜かれて大混乱。
一体どうして!? どういう仕組みで!? 何が目的で!? 城を動かして何になるの!?
そんな疑問が噴出して考えがまとまらなくなってきた時、謎の動く城の方から呼びかけがあった。
『あーあー、マイクテス、マイクテス、本日は晴天なれども波高し』
なんだ?
「えらく大きな声じゃのう? 城とここでは随分な距離があるのによく聞こえる?」
「声自体を大きくしている? 何かの魔法か?」
ホント一寸先に何が起こるかわからないので、全神経使って注視するしかない。
『聖者殿、勧告は私から行わせてください』
『あ、そう? じゃあお願い』
巨大な声の主が普通っぽいのから、若く鋭気に満ちたのに変わった。
『……ゴホン、グランドバルグ領主オセンニムに告げる。私はワルキア辺境領主ダルキッシュである』
ワルキア辺境領?
あんな小領の木っ端領主が、王族の外戚でもあるワシに何用か?
『単刀直入に言おう。投降せよ。今ならば命だけは助けると魔王軍占領府から保証を得てある。貴公の行いは勝敗の観点からは無謀であり、人族の営みから見れば迷惑千万である。今からでも賢明な選択に立ち返ることを切に期待する』
はー。
それもいいかもなあ。
「……いかん、動く城のショックで洗脳が解けかかっている? 魔法重ねがけ!」
「ふざっけんな若僧があ!! ワシは人族の王になる男だぞ! 人間国新王朝がワシから始まるのだあ! 貴様など景気づけにギロチンに掛けてやるわあ!」
「これでひとまず大丈夫っと」
所詮動く城など見掛け倒しよ! 城が動くからと言って戦争の何の役に立つ!?
あんなの無視して街を包囲する大軍勢にだけ注意を払っておればいいんじゃあ!
『そうか、投降拒否する以上は開戦しかないな』
あれ?
こっちの声も聞こえてる?
『では心行くまで体感するがいい。このオークボ城……、えッと何でしたっけ? ……そう、オークボ城出張版、無限軌道天守閣プレミアムバージョンの力を』
今言い直したよね? 聞き直したよね?
何が何だか知らないが、我が街メルカイデを囲む城塞は世界最大。
魔族どもの使う魔術魔法をもってしても破ることは不可能だ。
この城壁の上から雨のように降り注ぐ矢や投石の餌食になりたくばかかってくるがいい!
『カタパルト用意』
え?
なんか、あの動く城の上部分から、なんか大きいものが迫り出してきたぞ?
何あれ?
『突入員装填、狙い定め、……発射!』
おおおーーッ!?
迫り出した巨大物の上を走って、何かが飛び出したぞ!?
まるで弓から矢を放ったかのような勢い。しかし弓矢より何十倍も大きい!?
「なんだ!? 何が撃ち出された!?」
我らの頭上を飛び越えて飛んでいく何か。
遠い上にけっこう速く飛ぶので肉眼で確認できなかった。
しかもその正体不明の謎の物体は、世界最高度の城壁を簡単に飛び越え、街の内部へと落ちていった。
「あああああああああああああああああああッッ!?」
我が城壁が! 我が街の鉄壁防御がいとも簡単に破れたぁ!?
「落ち着きなさい、大きさから見ても岩か何かでしょうが、そんなものの一つや二つ街中に落ちたところで何です。この大都市にはかすり傷にもなりません!」
「アホかああああ、あんな大岩が市民にでも当たったら大惨事じゃあああ! ワシが治める街の民がああああッ!!」
急いで兵に状況確認させると、意外な答えが返ってきた。
「領主様! 都市外から放り込まれた物体は、岩ではありません!」
「じゃあなんだ?」
「人です!!」
はぁッ!?
「恐らくは魔法で衝撃を吸収するように処置した兵士を飛ばして、城壁の内側へ投げ入れているのです! どんどん敵兵が侵入しています! 防ぎようがありません!」
たしかに、こうして報告を聞いている間も、どんどんあの城から何かが射出され城壁の内側へ落ちていく。
あの何かこそ敵兵自体だというのか!?
なんと無茶苦茶な!
「ええい! 敵兵が侵入したところで一人か二人でしょう!? すぐさま囲み殺せばいいことです!」
教団の使者がワシを差し置いて叫ぶが、兵士からの返答は芳しくない。
「それが、突入兵は思いの外強く、取り囲んでも容易に討ち取れません」
「なんと……!?」
「いずれも二十歳足らずの少年少女兵ですが、剣魔法の腕前共に高く一般兵では太刀打ちできません!」
そうこうしているうちにも、あの城から投げ放たれる動きは繰り返され、これまでいくつの投擲が城壁の内側へ入れられたかわからない。
そのすべてが敵兵で、その全員が一騎当千の強さを持っているなら、このまま我が街は内側から崩されかねないぞ!?
「ええい役立たずどもが! もっと必死になって戦え! 少数の兵士ぐらいさっさと殺して掃き清めんかああ!」
教団の使者も冷静さを失い、ワシを押しのけ命令する。
そこへ別の兵士が駆けつけてきた。
「報告! 突入兵の目的がわかりました!」
「何ぃ!?」
たしかに相手は漫然と兵士を送り込んでいるわけではあるまい。
城壁の中に立てこもる我々を倒すために、何か明確な目的を持っているに違いなかった。
少数の精鋭を敵陣深くに切り込ませて狙うとすれば……。
一番あり得そうなのが大将一本釣り。
「ひぃッ!? まさかここに!?」
同じことに気づいたのか教団の使者が怖気づく。
「ありったけの兵士をここに集めなさい! 敵を我らに近づけさせてはなりませんぞ!」
「お言葉ながら、敵の目標はアナタ方ではありません」
え?
「アナタが……、いやお前が拘束している隊長たちのご家族……。侵入者たちが無事助け出してくれたぜ。見張りのお前のお仲間も全員ぶっ飛ばしてよぉ……」
「まさか……! まさか……!?」
「人質を取り返せたんならお前に従う理由なんかねえ! 領主様を正気に戻しやがれ!!」
兵士にしこたま殴り倒される教団の使者どもを見て、ワシはなんだか思った。
大変じゃないかな?
「おい、何をしている? 教団の使者に対して無礼な……!?」
うん。
……あれ?
ワシ何をしてたんだっけ?






