401 無粋の戦火
それはもう本当に電撃的だった。
俺たちが第二回オークボ城の準備のため、現地入りした初日に知らされたのだから。
「オークボ城が中止!?」
なんでですか!?
唐突過ぎて言葉も出ない!?
「本当に申し訳ない……!」
俺の前で平謝りするのは、領主ダルキッシュさん。
オークボ城は、彼が治める領地中にあり、彼の許可なしにはイベントを進められない。
ちなみに魔族を嫁さんに貰ってこの世界初の国際結婚カップルとなり、つい最近、待望の跡取り息子を授かったらしい。
あの絡みにくいヘラ女神と頑張って交渉した甲斐があった。
それはともかくダルキッシュさんは、今ではイベント共同開催者の立ち位置だ。
オークボ城開催による利益は領地にも及ぶために彼だって二回目のオークボ城には前向きであったはず。
それが何故今さら開催中止に!?
「アレですか!? 利益が目標値に達しなかったとか!? だから二回目を開催しても意味がないと!?」
世知辛い!
「いや、そんなことは……! そもそも前回の利益高は去年の時点で確定していますし、たった一回のイベントで領全体の上げる年間利益の何倍も稼ぎ出すことができました。感謝してもしきれません……!」
ではどうして中止……!?
「あ! まさかクレームが来たとか!?」
どこかのお堅い団体的なところから『オークが主催するイベントなんてけしからんザマス!』的なことを言われたとか!?
「そういうことなら大丈夫ですよ! 我々のバックには権力の最強格、魔王さんがいますから! 彼にお願いしてモラハラをパワハラで叩き潰せば……!」
正論が常に正しいわけじゃないと教えてやりましょう!!
「いや、そういうことでもありません……! それに魔王様からも、今回の中止については了承を頂いていますから……!」
なんと魔王さんも!?
魔王さんも一参加者として『今年こそ第一関門突破!』と意気込んでいらしたのに!?
「一体何が理由なのです!? 魔王さんまで関わっている中止の理由なんて……!?」
「反乱です」
ダルキッシュさんの口から思ったより物騒な単語が出てきた。
「反乱!? どうしてそんなバカなマネをしたんですかダルキッシュさん!?」
「私じゃないですよ!」
あ、ダルキッシュさんが犯人じゃないんだ。
ビックリして損した。
「反乱の首謀者は、ここから二つ隣にある大領、グランドバルグ領の領主です。二代前の人王の孫という微妙な血統を持ち、人間国滅亡後もあやふやな立場にある人でしたが、まさか反乱を起こすなんて……!」
ダルキッシュさんも忸怩たる顔つきだった。
「人間国は滅びましたが、国内で起こる戦乱を治める義務は領主にあります。私は早急に兵をまとめ、他の領主や魔王軍と協力し反乱鎮圧に向かわなければなりません」
「それでオークボ城も中止に……?」
「反乱を早期に鎮圧できなければ旧人間国全土に戦乱が広がる恐れがあります。のん気にお祭りを開催している場合では、さすがにありません」
た、たしかに……!
「仮に開催しても、反乱を起こしたグランドバルグ領は交通の要衝です。人間国内の多くの地域に住む人があの領を通ってここまで来る」
そこが戦争で封鎖されれば、第二回オークボ城は第一回の集客数から比べようもないほど落ちるだろう。
いや、そんな心配をしている次元じゃない。
もし反乱が長引いて、その何とかいう大領の交通が封鎖され続ければ、ダルキッシュさんの領は人の出入りを断たれて干上がることも。
「反乱はすぐに鎮圧できそうなんですか?」
「…………」
無言が返ってきた。
「…………わかりません。相手は旧人間国屈指の大領です。兵力も物量もある上に、その中心都市メルカイデは城塞都市の異名をとる防衛力を持った街……」
ダルキッシュさんの表情が曇る。
「街を取り囲む城壁は、旧人間国どころか魔国を含めても最大規模。高さも厚さも他を圧倒すると言われています。国内有数の貿易都市でもあるので、蓄えられた物資を頼りに籠城されたら、一体何年がかりになるのか……!?」
何ですか、その小田原城みたいな話は?
たしかに堅固な要塞に引きこもられれば容易に攻め落とすことができず、酷ければ何年がかりのいくさになるという。
長期戦になれば守る側よりも攻める側に負担がかかり、最悪戦線を維持できなくなって撤退ということにもなりかねない。
交通を分断され、内乱状態が継続すれば人々の不安も高まる。
魔王軍の支配に不満を持つ者もまだまだいることだろうし、
長引く内乱に呼応してあちこちでも反乱の火が上がれば、人間国は未曽有の戦国時代に突入ということにもなりかねない。
「……相手もそれをわかってか、自分から攻めてくる動きは見せず完全な籠城戦のかまえです。それだけで交通を分断し、現体制にダメージを与えることができますから……」
「たしかにお祭りしている雰囲気じゃないな……」
ダルキッシュさんだって、念願叶って奥さんとの間にやっと男子を授かったというのに。
生まれたばかりの子を残して戦いに出かけなければならないとは、なんと悲しいことか。
たとえそれが領主の義務だとしても。
戦争は嫌だ。
なら戦争を叩き潰してしまおう。
「その反乱が即座に鎮圧されれば、人間国は安泰なんですよね?」
「え?」
第二回オークボ城も滞りなく開催される。
「オークラ、オークマ」
「「はッ」」
傍らにいたサブリーダーオークたちに呼びかける。
「例の仕掛けはもう完成しているか?」
「手ぬかりなく」「いつでも動かせます」
頼もしいヤツらだ。
「まま、待ってください! たしかに聖者様のお力をお借りすれば反乱ぐらい秒で鎮圧できるでしょうが、これはあくまで人間国の問題! 人間国に住む者たちの手で解決しなければなりません!」
領主として、しっかり誇りを持った発言だ。
「安心してください。アナタたちの職域を侵害するつもりはありません。しかし俺たちもアナタ方の友人として、できる助力を惜しまない」
「何する気ですか!?」
ダルキッシュさんの表情が反乱を告げた時より逼迫していた。
「だってアナタの惜しまない助力って想像を絶するんですもの!」
「大丈夫です。ささやかなお手伝いですよ」
まず俺やオークボ、その他農場関係者は戦いに参加しない。
それをしたら直接関与になってしまう。
人族が自分たちの手で問題を乗り越えることにはならない。
それからもう一つ。
オークボ城に叩きつけられたケチは、オークボ城で報復すべきだ。
俺たちとこの事件の関わりは、全面的にオークボ城を介してのもの。
冬前からずっと楽しみにしていたオークボ城の開催を中止に追い込もうとは。
我々の楽しみを邪魔されてなるものか!
今日中にでも反乱を鎮圧し、当初の予定通り風雲オークボ城を開催してやる!
というていで。
「応援させていただきます」
「本当に応援なんでしょうね!? 第一、オークボ城で報復ってどうするつもりなんですか!? 相手は遥か向こうの、隣の隣の領なんですよ!」
たしかに城は地域拠点。
守るために存在するもので、相手側に打って出るためには使えない。
建築物はその場から動けないのだから。
「しかし不可能を可能にしてこそのエンターテイメントだ」
企画会議の時に上がった一つの案。
その案は採用され、既に実行可能になっていた。
俺たちが博覧会を盛り上げていた最中も、オークラやオークマ、オークニヌシたちが頑張ってくれていたおかげだ。
それでは早速出撃しよう。
反乱鎮圧が遅れるだけイベント開催に支障が出る。
本来戦いなどしたくない俺たちではあるが。
お祭りのために義によって俺たち、そしてオークボ城。
出撃!!






