400 企画会議
さて、博覧会が終わって早々ではあるが……。
次のイベントへ向けてエンジンをふかさなければならない。
風雲オークボ城である。
事の起こりは去年の冬。
『城を建てたい』などというオークボたちの願いを聞き入れて、農場から遠く離れた。
オークチームのリーダー名を取ってオークボ城と名付けられた、いつの間にか。
ただ余所様の土地に建てたのが後々問題になり、侵略行為と勘違いした領主さんが攻めてきたりして迎撃にアスレチックを使用するなど何やかんやあって。
最終的にオークボ城は大規模参加型アスレチックイベント。そしてその開催地となった。
……思い返せば、言葉にするほどにわけわからんな。
第一回、風雲オークボ城は大盛況のうちに幕を閉じたが、それで終わりではない。
あまりに盛況であったため再催しの要望が多く、応える形で第二回の開催が決定した。
去年の開催からちょうど丸一年後。
冬の終わり。
そのタイミングで第二回、風雲オークボ城の開催を目指して、俺たちの準備が始まった。
途中、農場博覧会の開催など唐突に決まってスケジュールがカツカツになったりするものの。
同時並行的に風雲オークボ城の準備も行っていたのだ。
またいつもに増して忙しない冬になったが。
農場博覧会も無事終わったので、あとはオークボ城に一点集中。
ここからしばらくは二回目のオークボ城開催準備と本番のお話となっていくだろう。
ここからは少し時間を戻して、開催準備の序盤から語っていくこととする。
それはまだ農場博覧会の決定も決まっていなかった、冬の直前の頃のこと……。
* * *
「えー、ということで……」
集まった主要メンバーに向かって俺、議題を述べる。
「第二回、風雲オークボ城の企画会議を執り行います!!」
「「「「「わー」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ……。
いや別に拍手するほどのことでも?
企画の段階でここまで盛り上がるって、それだけ皆も楽しみにしてるってことか。
暇な冬の間のビッグイベントだもんな。
「我が君やりましょうぞ!!」
その中でも特にテンション高いのはオークボ。
企画に名も入っていることだし。そもそもの発端人物でもあるし。彼がやる気になってくれないと困る。
しかし心配するまでもなく彼のイベントに対するモチベーションはMAXで、その他、建築マニアのオークたちも気合いたっぷり。
この一点だけでもイベントの成功は約束されたも同然だった。
「我らオーク一同、前回にも増して難解なアトラクションを用意してみせますぞ! クリアを一人も出すまいぞと腕が鳴ります!」
「クソ難易度は不評を生むから適度にクリアできるようにしてねー?」
そう。
前回の反省を踏まえ、どんなアトラクションを用意するかが今回の議題だ。
オークボ城は、ユーザー参加型アスレチックイベント。
前回でも平均台を渡ったり、坂から転げ落ちてくる大岩を避けたりと体全体を使うスリリングな関門が用意された。
「今回はその経験を踏まえ、よりシビアなゲームバランスを追求し、お客様にスリルと興奮とクリアの達成感を得てもらいたいと考えている。アイデアを出し合おうじゃないか」
去年のあのイベントではこうできた、もっと攻めることができたという思いがあるはずなので、それらを元にイベントのビルドアップをしていこう。
「では何よりもまず、このオークボから提案させていただきます!」
「おお」
何につけても本イベントの顔的役割のオークボだ。
それ相応に精力的な案が提出されると思ったが。
「第二回のアトラクションですが、第一回に施設されたものを総とっかえします!」
「ええッ!?」
それはまた大胆な!?
「我がオークボ城は常に進化し続ける! それをユーザーに見せつけるのです! 去年の経験で有利に立てるなどという甘えた考えを一撃粉砕! まったく新しいオークボ城を見せつけてやるのですぞ!!」
オークボはこのイベントに関わるとテンションがおかしくなる。
やっぱり好きが絡むと違うなあ。
「でもアトラクション総とっかえとなると……、ちゃんと代わりは用意できるの?」
「御心配なく! 既に我らオークチーム総勢で知恵を絞り、五六七のアイデアを出してあります!」
「多い!?」
イベントでテンション昂っているのはオークボだけではなかった。
オークが総じてトランス状態。
このまま手綱を引かずにまかせていると、前回を遥かに超えるとんでもない風雲オークボ城が完成したりしないか?
「お待ちください」
そこへ待望のブレーキ役。
農場で学んでいる留学生の一人で、人間族出身の子だった。
何故ここに?
「オレは去年のオークボ城にユーザーとして参加しました」
「おおッ!?」
イベント経験者!?
たしかにユーザー側の意見は貴重だ!
「キミは去年どこまで進めたんだ?」
「第三関門まで。……あの叩けば増えるホムンクルスは初見殺しですよ」
第二関門でリタイヤした俺より進んでやがった。
今年は全クリアしてみせるんだからね!
「去年のイベントを体験した者から言わせてもらえば、何もかも変えてしまうのは戸惑いを生みます。去年を経験し『また来たい』と思う人は、去年と同じ思いをしたいからリピートするんです。まったく違うものにしては期待外れになってしまいます」
「ううむ……!?」
思ったよりしっかりした意見でオークボも鼻白む。
それは続編作りの際必ず巻き起こる論争。
『前回までとはまったく違う新しい○○を作ります!』
『まったく違うなら完全新作でやれや』
という。
その論争に決着がつくことはないのだろう。新しきに挑戦するのも古きを守るのも大事なことだ
だからこの場合も、それぞれの主張をほどほどに取り込むとして。
「前回好評だったアトラクションを残し、旧作半分新作半分程度の割合で入れ替えていこう。まず先にどの旧アトラクションを残すかで話し合う」
「それでは第三関門のアトラクションを差し替えましょう! 初見殺しなので!」
自分が脱落したアトラクションへの恨みがこもっていた。
「オークボも。五百いくらは多すぎるからもっと新アトラクション候補絞ってきて。せめて十個以内に」
「ではこの『地獄! 四方八方から鉄球が飛んできて同時に地面が沈下し溶岩の海に飲み込まれる』アトラクションを是非採用を!」
「却下だ!」
なんで作り手の意識暴走が生み出した壊れ難易度は許容できません。
これ逐一第三者チェックが必要だな。
「御主人様、御主人様ー」
そして満を持してヴィールが参加してきた。
会議に。
「今度こそおれが参加していいんだよな? 何処に配置するんだ?」
「だから参加させません!!」
ドラゴンのお前が入ってきた時点でゲームバランス崩壊することを悟れ!
お前は永遠にオークボ城出禁だ!!
「他に意見のある人!? ヴィールの提案を押し流すためにもじゃんじゃん発表していただきたい!」
「では、こんなのはどうでしょう?」
「おお!?」
「次回は天守閣にこんな改造を施したいのですが。アトラクションとは何の関係もないのですが……」
「おお~」
* * *
ということが冬の直前の晩秋の頃に話し合われた。
思えばこっちのイベントに参加できないヴィールの鬱憤が別のところで炸裂した形なのだろうか?
農場博覧会で彼女が開いた『小麦館』は、素晴らしいクオリティで魔都にグルテン旋風を巻き起こすことになり……。
ヴィールは博覧会を大いに満喫することになった。
博覧会開催中も、オークたちは同時並行で第二回オークボ城の開催準備を進めていて。
主にオークチームのサブリーダー格。オークラ、オークマ、オークニヌシ、オークトーバーらが中心となって城の改修に当たっていた。
博覧会が無事フィナーレを迎え、さあここから俺たちもオークボ城の準備に合流するかとなった時に、異変が起きた。
第二回、風雲オークボ城。
開催中止のお知らせ。