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399 博覧会がもたらしたもの

 そろそろ博覧会も終わりに近づこうとしている。


 当初一ヶ月の開催期間の予定が好評を博しすぎて延長されて二ヶ月になった。

 冬の間の暇な時期とはいえ、人間国でのオークボ城開催も控えているためなかなかに忙しい。


 そんな忙しない二ヶ月もほぼ消化しつくした。


 ただ単に農場でやってることをそのまま移したような博覧会だったが、この二ヶ月で様々なことがあった。


 まずは、各パビリオンの集客率ナンバーワンが決まった。


 途中経過で頭角を現していたレタスレート&ホルコスフォンの『豆館』とヴィールの『小麦館』の一騎打ちとなったな結局は。


 予想できた流れだが食べ物系はやっぱり強い。

 特に目的もなくやってきた一般客は、必ずこの二館に立ち寄り、提供されている豆料理やら小麦調理やらを食し、虜となってリピーターとなる。


 やはり農場の食材はこの世界の人々にとって麻薬並みの美味しさがあるようだった。

 当初『豆vs小麦』という、ある意味主食と主食の争いで派手さに欠けるかなあと思ったけれど、それでも大熱戦になったのは素材が農場産だったからと言えるだろう。


 あと他におかず系の展示がなかったことね。


 開催期間中、抜きつ抜かれつの接戦を繰り広げていたが、やはり応用範囲の広さでヴィールの小麦の方に分がある。

 パンだけでなくうどん、パスタまで投入し着実に売り上げを伸ばしていったものの、途中からレタスレートの『豆館』とホルコスフォンの『納豆館』が合体。


『最初から一緒にやれよ』という気もしないでもなかったが、納豆の中毒性と各種豆の多様性が合わさることで盛り返し、ヴィールを圧倒してきた。


『ぬぬぬ~! ドラゴンと麦の誇りに懸けてニンゲンごときに負けるわけにはいかないのだ~!!』


 と言ったかどうかは知らないが、佳境に入った段階でヴィール禁じ手に出た。


 なんと自分の住み処の山ダンジョンに住みつく樹霊たちを動員し、振る舞うパンやうどんやスパゲティにフルーツを盛りつけ始めたのだ。


 フルーツパンやフルーツうどん、フルーツスパゲティなど本来なら正気を疑うような新メニューも、目新しさと何よりフルーツ自体の美味しさで大盛況。


 決定的な差をつけて勝利確定となったが、仁義に反するので注意しようかと思った。

 その時だった。

 ドリアンの樹霊ドリアン・カイオウまで応援に駆け付けたのは。


『ヴィール様! 私も協力いたしますぞ!』

『ぎゃー!? お前は来るんじゃねえ! 臭すぎてみんな逃げるだろうが!! 手助けしたいならいっそ羽女のところに行ってこい! 悪臭で営業妨害してこい!!』


 と言ったかどうかは知らないが。

 案の定ヴィールの『小麦館』はドリアンの悪臭によって汚染され、グランドフィナーレを待たずして一足早く閉鎖になった。


 この世界にドリアンの美味しさはまだ早かったようだ。

 まあヴィールと樹霊たちの関係が良好であることを確認できたのはよかったが。


 そんな感じでグランプリの栄冠はレタスレート&ホルコスフォンのコンビに与えられた。

 豆で納豆で世界を牛耳る彼女らの野望がまた一歩前進した感じだ。


 他にも成果は多く、元々の博覧会開催のきっかけであった職人チームも実りある期間を過ごしたようだ。


 エルフたちも連日訪れる魔都の職人たちに技を披露できたし、アフターケアとしての新登場エルフの工房配置も順調に進んだ。


 博覧会場へ盗みに入ったエトさんたちのことだが……。


 あれから魔王さんに交渉してみるとすんなり話は通り、エトさんら『辻風の袖切り団』は、各職人ギルドで技術奉公することを労役扱いにし、罪を償うこととなった。


 今は各エルフパビリオンに参加して、エルロンやマエルガら古参エルフから基礎技術を叩きこまれている。

 それをさらに各魔族の職人さんたちへ伝えていくようだ。


 魔都の職工技術を底上げしつつ、根無し草のエルフに定住を促す、一石二鳥の処置となった。


 さらに他にもプラティが主催した『人魚館』。

 人魚の薬は、様々なケガや病気によく効き、連日けが人病人でごった返した。


 どうやら魔国は魔法がある分、医学や薬学の発展が遅れているらしく、プラティの『人魚館』で大きく蒙が啓かれたようだ。

 国家の最頂点に立つ魔王さんとアロワナ王子がマブダチ同士だし、そのうち交易が成立して人魚の魔法薬が魔国に流通する日が来るかもしれない。


 そのきっかけをプラティが作ったのじゃないかな?


 ちなみにいつの間にか現地スカウトしていた人魚さんにプラティが地上人化薬の製法を伝授し、いつでも元の人魚の姿に戻って海に還れるようにしていた。

 でも本格的に交易が始まった場合、彼女に現地指揮者を任せるので当分魔国にいろだってさ。


 その他、バティが仕切っている『被服館』では家族の方や彼氏さんも来て和やかだったようだし、バッカスの『酒館』は酔客が溢れ出して周囲に迷惑をかけだしたため早々に閉鎖になった。


 催し側以外だと先生が最初に来た日から週五ペースで会場を訪れるようになった。


 最初はノーライフキングというだけで先生を恐れていた来場客たちも、段々と打ち解けていき、最終日頃には名物みたいな扱いになっていた。


 特に、先生に子どもを抱き上げてもらうと健康に育つみたいな噂が広がり、博覧会場で先生に出会うと息子娘を抱っこしてもらおうという母親が続出。


 当の子どもは怖いので泣き叫ぶのだが、先生は苦笑しながら子どもたちを抱き上げ、一生心に残る思いトラウマではないを作ってあげた。


 千年ダンジョンの奥底で一人過ごしてきた先生にとっては俄かに騒がしくなり、楽しんでいただけたら幸いだ。


 あと魔王さんも博覧会をきっかけに地方に住んでいるお兄さんたちを呼び寄せ、久々に再会できたことが嬉しそうだった。

 父親である大魔王さんとの仲も修復が進んでいるし、魔国もこれから安泰が続いていくな。


    *    *    *


 そんなこんなの成果を残し……。

 農場博覧会は、無事規定された開催期間を過ごし、フィナーレを迎えた。


 関係各所から『もっと続けてくれ』の声が多かったが、ここはきっぱりと予定通りに終了。

 最終日には過去最高の来場者数を記録し、大団円にて幕を閉じた。


「おつかれー」


 最後のお客さんが退出されたあと、博覧会のスタッフだけで打ち上げを行った。

 それなりに豪華な料理が立ち並ぶ。


「最初はどうなることかと思ったが、なかなか楽しかったな」

「サイコーだったわ! 豆の力は凄いという手応えを始めて持てたわ!」


 とレタスレート。

 パビリオンを一番繁盛させたコイツが一番博覧会を満喫したのかもしれない。


「これにて博覧会は終了だ。今夜はとりあえずお疲れ様で飲み食いするが、明日からしっかり後始末もしないとな」

「後始末?」


 この会場。

 博覧会開催のために急ピッチで建造したはいいものの、必要なのは博覧会開催中のみ。

 終わってしまえば用済みとなってしまう。


「たしかにそうね。どうするのこれ?」

「跡形もなく壊すよ?」


 博覧会≒万博ってそういうものでしょう?

 祭りが終わればすべて消え去る、その儚さがよい。


「というわけで明日から解体よろしくオーク班」

「承知」


 オークボらもその辺は心得ていたようで、みずから手がけた作品をデストロイすることに躊躇はない。

 クラッシュ&ビルドがDIYの要諦とばかりに。


「いや待ってええええええッ!?」


 そこに縋りついてくるのはシャクスさん。

 パンデモニウム商会長の、いわゆる大商人。


 博覧会の仕掛け人の一人でもある彼なので打ち上げには参加していたが、どうしたの?


「こんな素晴らしい建築群を壊してしまうなんてッ! やめてください! いくらでも再利用の方法はあるじゃないですかあああッ!?」

「いや大丈夫ですよ、ちゃんと順序よくバラして、建材は再利用できるようにしますんで」

「そういう意味での再利用ではあああああッ!!」


 なんか頑ななシャクスさんだった。


「でもこんな都市部から離れたところに建物群残したところで、どうにもならないと思いますよ? 放置されるのがオチですって。盗賊やらモンスターの住み処になったら危険ですし……」

「ううッ。……だったら、だったらせめてあの塔だけは残してください!」


 ああ。

 バベルの太陽の塔?


「あの塔を、本博覧会のシンボルとして永遠に残していきますので! どうか、どうかあの塔だけは! 神が降りてきた塔として究極の観光名所になりますうううッ!!」


 たしかに太陽神アポロンが降臨してきたあの塔。

 壊してアポロン神の不興を買い『やっぱ魔族滅ぼす』となったら問題だよなあ。


「わかりました。あの塔は残しておきましょう」

「やったあッッ!!」


 俺自身手掛けた塔で愛着もあるしな。


 ではそうした後処理の方針も色々と決定し、長く熱狂した博覧会もここに終結したのだった。


「次はオークボ城かあ……、イベント続くなあ……!?」

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