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398 再びエルフお白洲

 ハーイ、俺です。


 朝出勤してみたらエルフ盗賊団がお縄になっていた。

 衝撃の光景。


 出勤っていうのは、農場から博覧会場に移動することね。

 行きも帰りも転移魔法で一っ飛びだから夜はちゃんと農場に帰って寝るのだ。


 そして朝起きたら会場へ移動して、開催準備。

 博覧会開催中はずっとそういう生活サイクルだったが、今日は出勤して初めての状況。


 見知らぬエルフがたくさん倒れていた。

 それを逃がさぬように見張っている……何あれ?


 おばけ?

 子どもの絵本に出てきそうな、白風船にマジックで目鼻を書き込んだような簡単なおばけ。しかも複数。


 何あれ? 本当におばけでいいの?


「あれっ、ジンが起動している?」

「ジン? 何それ?」

「警備用に張っといた防御術式よ。夜間に許可なく侵入されたらあの霊体魔法生物が捕まえるか追い払うかするようになってるのよ」


 そんな仕掛けが!?

 プラティからの説明にビックリだ!?


「この博覧会に展示してあるものって興味を引くものばかりだから、よからぬことを考えるヤツは出てくるでしょう? 用心ぐらいして当然よ」


 たしかに!?


「製作は先生やベレナだから通常のジンより数段強力よ。……中には留学生が実習で作ったものもあるみたいだけど……」


 注意力散漫なヤツがそうか。

 で、そのジンさんとやらに捕まえられたエルフは何者?


「んー? あれはもしやエト?」


 一緒に出勤してきたエルロンが言う。

 知り合いか? エルフ同士だしありえそうだが?


「同業者だ。……いや、元同業者?」


 何故言い直した?


「だって! 私はもう盗賊だった過去とキッパリ決別したんだ! そして一つの器に美を追求する道をひた走ると決めたんだ!」


 すっかり陶芸家の道に目覚めてしまって……。


「話の流れから推察するに……、このエルフたちはドロボー?」

「大方博覧会の展示物を狙ってきたんだろう」


 お縄になったエルフたちは何十人といて、皆おばけにやられたらしく気絶したまま縄で縛られていた。

 縄かけたのはおばけたち? 意外と多機能だなおばけ……!?


「おらッ、起きろエト! 裁きの時間だぞ!」

「ごうぇっぐッ!?」


 眠っている(気絶している?)エルフの一人に、エルロンが蹴り入れて叩き起こす。


「こおおおおッ!? 闇夜から顔が……!? ……ってあれ? ここどこ?」

「お縄についた盗賊ほど不様なものはないなエト。我が身を恥じろ」


 捕まえた盗賊相手に全力でマウント取りに行くエルロン。

 キミだって過去捕まったことがあるだろうに。元盗賊。


「えー、あれッ!? お前はエルロン!? 久しぶり何故ここに!?」

「お前らの愚かさゆえの再会というところかな? まったく聖者のシマを荒らそうとか命知らずもいいところだ」


 そういうアナタだって農場に盗みに入って捕まりましたよね?

 忘れてないよキミたちとの初めての出会いだもの。


「エルロンよ、彼女らの紹介を」

「コイツらはエルフ盗賊団だ。我々とは別のな。たしか名前が『辻風の袖切り団』だったっけ?」


 相変わらず振りかぶったセンスだなあ。


「頭目はこのエトだ。盗み先で鉢合わせしたことがある」

「エルロン何故お前がここにいるというのだ!? お前が率いる『雷雨の石削り団』は解散したのではなかったか!?」

「そう私たちは新しい道を見つけ、その道に心魂を捧げたのだ。私はもはやエルフ盗賊団の頭目エルロンではない。魂の陶芸家エルロンだ!!」


 それ堂々と名乗っちゃっていいの?


「何いッ? それではまさか、ここで展示されているという陶器は……!?」

「ふふッ、私の作品もついに盗賊から狙われるようになったか。迷惑千万な話だな!」


 困った風を装いつつ嬉しそうなエルロンだった。


「困ったものだな聖者よ! これが有名税ってヤツか!? よっぽど知れ渡らないと盗賊の耳にまで入ってこないよなあ!?」

「はいはいわかったわかった」


 反響を実感して浮かれない。


「え? じゃあ一つ金貨数百枚ってする器もお前が作ったものなの? なんで!? そんなのに大金出すってアホじゃない!?」

「アホじゃない! 器の中に表現された美の世界を理解してもらえた結果だ!」


 俺は既に理解できなくなりつつあるけどね。

 それはともかく……。


「エルロン! 見損なったぞ!」


 と捕まった盗賊エルフが喚きたてる。


「同じエルフ盗賊団の頭目として一目置いていたのに! お前は誇りを失った! エルフとしての誇りを失ったのだ!」

「何を言う? 私は日々誇りをもって器を焼き続けているぞ!」


 そこじゃねえよ。


「エルフは森の民! 屋根の下で暮らしもしないし、屋根の下で寝起きするような種族とも馴れ合わない! それがエルフの誇りではないか! 誇りを失ったエルフなど、ただの美人のおねーさんだ!」

「ああ、そういうことか……!?」


『今思い出した』みたいな反応しないで森の民。


「そうは言うがなエト。お前考えたことはないのか? 盗賊だって充分誇りの持てない生き方だと」

「うぐッ!?」


 図星を突かれたのか、エトさんなる新キャラエルフは絶句してしまう。


「いやお前……、それ言ったらお仕舞だろうがよ……! 盗賊でも誇りが持てるようあくどいヤツからしか盗まないようにだな」

「義賊だろうと盗賊であることは変わりない!」

「お前が言うなよ!!」

「それにエトよ。お前たちだって盗賊家業がそろそろ苦しくなってきてるんじゃないのか?」

「うぐッ!?」


 エトさんがまた図星を突かれて絶句した。


「私もかつては同業だったからわかるぞ。最近は盗みに入れる悪徳金持ちもいなくなってきてるだろう。魔国じゃ改革が起きて、そういうのどんどん没落していってるからな」


 え? そうなの?


「人間国も悪徳の大元である王族教団が排除されて自浄作用が進んでいるし、義賊の活躍の場が少なくなってきている。盗めないと生活も困窮する。だからこんな微妙な条件のところに盗みに入ったんだろう」

「くそ……!」


 反論がないところを見ると、完全に図星らしい。


 社会悪がはびこるところでないと義賊は活躍できない。

 何やら切ないな。


「お前たちもそろそろ商売替えしないと、それこそ誇りを捨てることになりかねないぞ。お前たちが夜盗に成り下がるのは、かつての同業者として忍びない。いっそ今この時点で魔王軍に突き出すのも一種の情けか……!?」

「えッ!? それは嫌だ助けて! 逃がして!」


 清々しいほど率直な命乞いだった。


「さてどうしたものか……?」


 俺は博覧会の今日の営業開始を前にして悩む。

 良識と法律順守の精神に則れば、彼女たちを魔王軍に引き渡すべきだろう。ここが農場ならば治外法権で農場主である俺の裁量で決められるが、ここは魔国の中だからな。


 魔国で起きた犯罪は魔国によって裁かれるべきだ。


「いいか聖者よ?」


 エルロンから提案される。


「コイツらの処遇について私に考えがあるんだが。聖者を通じて魔国と話をつけてくれないか?」

「法律は破れないよ?」

「わかっている。しかし魔国にも利がある話だ。うま味を感じ取ってくれたら恩赦ぐらいだしてくれるだろう」


 エルロンは一体何を考えているのか。


 俺も法律は守りたいが悲しいお話も嫌なのでひとまずエルロンの提案に乗ってみることにした。


「で、どうするの?」

「コイツらにも職工を覚えさせる」


 えー?


「農場の道具作り班はキミらで事足りているよ?」

「農場に住まわせるんじゃない、魔都の各職工ギルドに引き取ってもらうのだ。魔都の職人連中は、我らエルフの技を欲しがってるんだろう?」


 なんと。


「この博覧会を開催するきっかけもそうだったし。ここで見学していったぐらいじゃ我らの技術に追いつくのに何百年かかるかわからん。コイツらに助っ人させれば技術向上の援けになるし、コイツらも大手を振って娑婆を歩ける身分になるだろう」

「ちょっと待て! そんなことできるか!?」


 エルロンのよさげな提案に、囚われエルフが反発する。


「エルフの誇りがあるんだぞ! 屋根の下で暮らすぐらいなら野宿がマシだ! 我々は決して他種族に屈したりはしない!!」

「じゃあお前ら魔王軍に捕まって速やかに縛り首な?」

「待って考えさせて」


 俺かねてから思ってるんだけど……。

 エルフたちの誇りって案外軽いよね。

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