03 住み家作り
スキルではなくギフトだから『至高の担い手』は神官たちのパラメータ読み取りに反応しなかった?
真実のところはわからないが、結果的にそれは俺にとってラッキーだったに違いない。
『至高の担い手』ギフトの凄さは、鎌で草を刈り、鍬で土を耕しただけでも圧倒的にわかった。
もしこんな力をもっていると王様たちが知ったら大喝采。俺は伝説の剣でも握らされて問答無用に戦いの最前線へと送られていたことだろう。
そんなのは死んでもゴメンだ。
こうして人里離れた場所で土いじりに精が出せるのも、我がギフトが無駄な主張をせず、控え目にしてくれたおかげ。
本当に感謝するばかりだ。
神への感謝を噛みしめつつ、開拓を進めようではないか。
まず何より衣食住の確保。
人間が人間らしい暮らしをするために最低限必要なのが、それだ。
そのために食物を安定供給する農業は基本のキであったが、だからこそこうしてまず『至高の担い手』の効力をたしかめるついでに畑を作った。
畑。
農作業である。
ここに種を撒いて、色んな野菜を収穫できるようになれば、食生活に不安はない。
「とは言っても、すぐには無理だなあ」
王都から多数の農具工具と一緒に作物の種も買い込んであったが、この地の土がちゃんと作物を育てるだけの養分を保持しているか不安なところだ。
もちろん早く種を撒けばそれだけ早く収穫できて、食糧事情も安定することだろうが、それでしくじって枯らしてしまっては元も子もない。
失敗はできない。
ここは肥料を与えつつ、じっくり土から育てていこう。
その肥料もどこから確保してくるかなあ……?
やっぱり肥溜めとか作るべきか?
まあじっくり考えよう。
俺は別の方面に意識を注ぐことにした。
衣食住のうち、住だ。
ここで暮らしていくのに、雨露をしのぐ屋根は欲しい。
実際この場に立ってみて、気候は良好、日差しはうららか。野宿だってバッチコイ! と言いたくなるような環境ではあったが、この住みやすさが年中続く保証はない。
今夜にでも一雨来て地獄を見ることになるかもしれない。
それにここから見渡せる範囲に、海岸線があるのも不安の種だ。
海からの潮風は、冬にでもなったらさぞかし堪えるだろう。
夜風を防ぐために是非とも家は必要だが……。
「……家を建てる位置も考えた方がいいかな?」
そもそも潮風がガチ当たりするような場所に家を建てるなという話だ。
そしてそれは畑を作る場所にも言える。
海から吹きこむ潮風が、作物の育成にいい影響を与えるわけもないし、津波とか起きて畑が塩水を被ったら、その瞬間にアウトだ。
「もうちょっと奥まったところを耕せばよかったかなあ……!」
『至高の担い手』の効果を試すためとはいえ、調子に乗って広げた耕地が見渡す限り広がっていた。
「ま、色々試していけばいいか」
既に自分の耕した土地に愛着でも移ったのか、俺は鍬を入れて柔らかくなった土を、直にその手で掬い上げる。
「これから頼むぞ。たくさんの美味い野菜を育ててくれよ」
そんな願いを込めて、掬い上げた土を畑に戻した。
実に感傷的な行為で、見る人にとっては失笑の対象ともなりかねない。だが、この行為が重大な意味を持つことになると、俺は後になって知ることとなる。
* * *
ともかく家だ。
大工道具はちゃんと買い込んであるので、材木さえあれば家一軒建てるぐらい造作もない。
何しろ俺には『至高の担い手』があるのだから。
そして材木の確保も問題ではなかった。
俺が住処と定めた最果ての土地、海が近いが山も近い。
山に入って斧を振るい、差し当たって真っ直ぐに伸びた良質な材木を確保。
そして材木を持ち運ぶ際にも『至高の担い手』は威力を発揮して、本来なら数人がかりで抱え上げるような丸太一本、一人で軽々持ち運ぶことができた。
これなら丸太を武器にして戦うこともできそうだ。
そして一応、作ったばかりの畑を見渡せる位置に家を建てる。
『至高の担い手』ギフトを利用すれば、ノコギリ、カナズチを持っただけで俺は名工だ。建築にもさしたる困難はなかった。
元々そこを本格的な住居にする気もなかったので、簡易的な掘っ立て小屋。
夜露を凌ぐにはこれで充分だろう。
それでも作業が完了する頃には充分いい時間になっていて、日は水平線に沈みかけていた。
今日の作業はこれくらいにしておこう。
王都から持ち込んだ携帯食で腹を膨らませる。明日からは食料も自分で調達しないとな。
幸い、この土地には山もあれば海もある。
しばらくは双方を行き来して、海の幸山の幸を採取するのが生きる手段となるだろう。
畑の作物が実って収穫できるようになるまでは。
衣食住のうち、衣も重要な問題だな。
王都から出来るだけたくさんの着替えを買って持ち込んだが、それもいつかは尽きる。
それまでに自分で繊維衣料を獲得する術を見つけ出すか、街に行って買い付ける方法に絞るか、見極めをつけないとな。
そんなことを考えつつ眠りに落ちて、俺の異世界開拓生活一日目は終わった。
* * *
翌朝。
朝起きて小屋を出ると、驚愕すべき出来事が起きていた。
「芽が出てる……!?」
昨日耕したばかりの畑に。
種なんか何も撒いていないはずの畑に。
芽が出ているのだ。
「何故!? どうして!?」
耕した土に雑草の根が残っていたか。それともどこからか野生種の種が風に乗って運ばれてきたかと思った。
しかし芽は、不思議なことに雑多に生えているわけではなく理路整然と並んで生えている。
こんなことが自然に起こり得るだろうか?
「まさか……!?」
俺は思い出した。
昨日、耕したばかりの土を直接手で掬い取り「いい野菜を育ててくれよ」と声掛けした。
そして、そのまま土を畑に戻したが、その時土は我が手に触れていた。
どんなものでも握れば達人化させる、あるいは触れたものの能力を最大限引き出す『至高の担い手』ギフトを帯びた手に。
まさか『至高の担い手』は、俺の握った土に作用して撒いてもいない種を芽吹かせたと?
土を手にした瞬間『至高の担い手』は俺のことを最高の作物の育み手にしたと!?
いくらなんでも凄すぎだろう。
何でもありか!?
混乱するものの、芽吹いてしまったものは仕方ない大切に育てていこう。
俺の異世界開拓生活は、順調な滑り出しを得たようだ。