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397 不測の珍客・エルフ窃盗団来襲

 私の名はエト。


 エルフ族の傍系からもなお外れ、エルフにとって神聖なる『エル』の語の半分しか名に組み込むことを許されなかったエルフ。


 故郷の森に住むことも叶わず、出奔して寄る辺なく放浪する日々だ。

 そんな私に寄り添う同族も増えていき、いつの間にか大所帯になっていく。


 集団になれば、その集団自体に名前も必要ということで、このように名付けられた。


『辻風の袖切り団』。


 このご時世、森から外れたエルフの生業といったら盗賊しかない。

 私たちの一団は自然、富める者から盗みを行うための一団となり、各大都市にて恐れられる盗賊団となった。


 森の外のエルフ界隈においては我ら『辻風の袖切り団』と『雷雨の石削り団』が二大盗賊団の双璧。

 そして先ごろ、私たちと盗みの凶悪さを競い合った『雷雨の石削り団』も頭目がお縄になり、大きなダメージを受けた。


 あれからとんと名前を聞かなくなったし、自然消滅したか、立て直すとしても相当な時間がかかるだろう。

 つまりその間は我々『辻風の袖切り団』の天下というわけだ!!


 商売敵の同業者とかち合うこともなくどこの豪邸にも入り放題!!


 今日も張り切ってあくどい連中から盗みまくるぞ!


    *    *    *


「……さて諸君、仕事の話をしようじゃないか」


『辻風の袖切り団』総勢七十八名が、秘密のアジトに一堂に会していた。


「お頭、仕事ですか!?」

「新しい獲物が決まったんですか!?」


 活きのいいメンバーたちが早くも沸き立っていた。


 私は親玉としての貫禄を保ったまま鷹揚に答える。


「おうともよ、今回盗みに行く先は大きいぞ。成功すれば私たち全員一生遊んで暮らせるかもしれん」

「マジですか!?」


 そんな大きなお宝が眠っていて、かつ警備は薄そう。

 労少なくして功多し。ローリスクハイリターン。

 そんな夢のような盗み先を発見したのだ。


 そこは……。


「博覧会だ!!」

「「「「「博覧会!?」」」」」


 そうだ。

 ただ今魔都の外れで博覧会が開催されている。

 そこには兼ねてから話題になっているファームの製品がゴロゴロあるという。


「ファーム!? あのブランドの!?」

「最近になって綺羅星のごとく市場に現れ、人気と話題を独占しているというあの!?」

「魔都のセレブたちがこぞって欲しがり、今や目の飛び出るような高値が付いているというあの!」


 我が団員たちよ説明ありがとう!


 いかにもそのファームブランドだ。あの博覧会はファームの作り手どもが主催しているという。

 よってヤツらの作った商品が山ほどあるということだった。


「これまで工房の所在がわからず、侵入するかどうかの検討もできなかったが絶好のチャンスだ。我々は速やかに博覧会場へと潜入し、お宝を両手いっぱい持ち帰ろうと思う!」

「お頭! お聞きしたい!」


 団員のエルフが挙手する。


「我ら『辻風の袖切り団』はただの盗賊ではありません、義賊です! 貧しい者から奪わず、富める者、特にあこぎな手段で荒稼ぎしている悪徳商人悪代官だけを標的とするべきです!」

「そうです! 今回の相手は、我々から盗まれるべき悪行を重ねているのでしょうか!?」


 ふふっ、皆拘りを持っているな。

 たしかに私も頭目として、我が団の誇りを忘れたわけではない。


 盗むならば悪党から、その誇りがあるからこそ我ら『辻風の袖切り団』も『雷雨の石削り団』と並ぶ大盗賊団として認知されてきた。


「大丈夫だ、このファームとかいう連中も我々義賊から奪われる資格をもっている」

「オッケーですか!?」「どんなあくどいことしてるんですか!?」


 食いつく団員たち。

 ならば聞かせてやろう。


「悪いことは特にしていない」

「「「「「えーッ!?」」」」」

「話は最後まで聞け。世によくある一般的な悪行はしていないが、もう一つ別の意味で許しがたい汚点があるのだヤツらには。我らエルフにとってこそ許しがたいことがな」

「私たちエルフにとって?」「どういうことですお頭?」


 うむ。

 ではここで大々的に発表しよう。


「ファームで働いている職人の中に、エルフがいる!」

「「「「「な、なんだってーッ!?」」」」」



 ほうら、やっぱり驚いた。


「我らエルフは森と共に生きる種族。たとえ森から離れたとしても森での生活を忘れない。屋根の下で寝起きなどしない。それがエルフの誇りだ」

「その通りですお頭!」

「しかしファームに所属するエルフどもは誇りを忘れ、屋根の下で暮らし、火を使って仕事している! 油臭い魔族や人族どものように!」


 これがエルフにとって許されるべきことか!?


「許されない!」

「誇り知らず! 恥を知れ!」

「我らエルフ全体を侮辱する行為です!!」

「罰を下すべきだ! 罰を!!」


 皆怒っているな? 私も同じ気持ちだ。


「誇りを忘れたエルフに天誅を下すべし! よって博覧会場は我らの盗みの標的に入ると判断した! ヤツらがエルフの誇りを捨てて作り上げた贅沢品を、盗んで捨て値で売り払ってしまえ!」

「「「「「それが天誅!!」」」」」


 我ら『辻風の袖切り団』の意志は固まった。

 皆の力を合わせて、いざ潜入せん博覧会場。


    *    *    *


 夜。

 盗賊が忍び込むと言ったら夜だ。


 夜の博覧会場は、昼間とは打って変わって人っ子一人おらず、静けさに満ちている。


「本当に誰もいないな?」


 営業時間外と言えども警備の兵士ぐらいはいるものと警戒していたんだが……。

 おかげで実に簡単に忍び込むことができた。


「不用心というレベルじゃないな……。この会場の管理者はアホなのか?」


 警備が手薄どころか最初から警備していない。

 何でもかんでも盗んでいってくださいと言っているようなものだ。


 ま、そんなアホならこっちも好都合。

 盗みを警戒しないなら『盗んでもオッケー』ということだ。

 好意に甘えて、ある者全部持っていこうじゃないか。


「しかしお前たちわかっているな? 盗むのは陶器、革細工、木工品、ガラス細工の四種類だけだ!」


 下調べでエルフが製作に関わっているのは、その四種のみ。

 それ以外に手を出したら義賊の誇りが失われる。


「これはあくまで誇りを破ったエルフへの天誅なんだからな!」

「オッケーです!」「わかってますお頭!」


 よし。

 まず真っ先に目指すのは陶器が展示してあるパビリオン。そこにある陶器には一つ金貨数百枚の値がつくものがあるという。


 たかが土塊にそんな値打ちがつくなんてまったく理解できないが、そんなものを一枚手に入れただけでも大儲けだ。


「そうこうしているうちに着いたな」


 ここが『陶器館』か。


「ではお邪魔します。お土産を貰いに来ましたよ……」


 とパビリオン内部に足を踏み入れた。

 その瞬間だった。


 巨大な顔が私の前方至近に立ちはだかった。


「ふぎゃああああああーーーーーーーーーーーッッ!?」


 顔!? 落書きしたような簡単な構造の顔!?

 しかし私の体全体ぐらい巨大な顔が、パビリオンに踏み込んだ途端現れた!?

 何これ幽霊!?


「無人じゃなかったのかああーーッ!?」

「じじじじ、ジンです!? これジンですよおおおーーーッ!?」

「霊体状の魔法生物!? 高位の魔術師が生み出して使役するっていうあの!?」


 そんなのを潜ませて警備に当てていたっていうのか!?

 そりゃ大手を振って無人なわけだ!!


「逃げるぞ! 我々の能力でジンに敵うわけがねえええええッ!?」

「矢が当たらない!? すり抜ける!?」

「だから効かねえって言ってんだろ。なのに向こうからの攻撃は当たるってズルすぎる!」

「トラップ発動したから建物から出ても追ってくるーーーッ!?」

「ぎゃーーッ!? 数が!? 数がどんどん増えて!? 取り囲まれるううううッ!?」

「逃げ道がないいいいいッ!?」


 魔法霊体の群れに取り囲まれて、我ら盗賊団は逃げ道を失った。


 博覧会潜入、いただきミッションはこうして大失敗となりました。

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