表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
398/1447

396 博覧会の来客その四

 私の名はゴマメ。

 人魚族ですわ。


 ……いや、正確には人魚族『だった』というべきかしら?


 今の私には、あのしなやかで煌めく鱗に覆われた尾びれはない。

 醜く枝分かれした二本の脚が股から伸びるだけ。


 住んでいるのも麗しき海水に満たされた海中ではなく、地獄のごとき陸。


 何故そんなところに住んでいるかというと、そう、私は罪人人魚。

 ある罪を犯して海中から地上へ永久追放されてしまった


 人魚国ではつい最近できた刑罰だけど。人魚王家始まって以来の天才と謳われたプラティ王女が半永久的に効果持続する陸人化薬を開発した結果ね。


 私はその受刑者第一号と言っていいかもだわ。


 一体どんな罪を犯してそんな過酷な刑罰を受けたのか、気になる?

 ……そうね。今思えば大それた真似をしたのかもしれないわね。


 王族を騙って無銭飲食しまくったのだから。

 ただの無銭飲食じゃないわよ?

 人魚国最大の魚市場とされるトゥキーズ市場で、獲れたて新鮮な海の幸を片っ端から喰いまくったのね。

 その時不幸なことに、私が喰いまくった魚介類の中に王家に献上されることが決まっていた超希少、高級食材メタリックプラチナシルバーウニがあったのね。


 超美味しかった。


 しかし、そのメタリックプラチナシルバーウニを楽しみにしていたプラティ王女が超激怒。

 地上追放という重刑を課してきた。


 一説によればプラティ王女は、その時の怒りによって完全陸人化薬を完成させたとかなんとか。


 どっちにしろ私は、ちんけな食い逃げ犯から重犯罪者にランクアップ。

 追放先の陸で、故郷の海とはまったく違う暮らしを強いられているのよ。


 しかし陸での暮らしも慣れてみれば思ったほど辛くはないわ。


 私も女人魚だけあって魔法薬の製作に心得はある。魔女と呼ばれる連中に比べれば見劣りするけれど。

 薬の知識がない陸人らには私程度のクオリティ魔法薬でも飛ぶように売れて、収入を獲得できた。


 今では陸でもっとも栄える魔国の首都、魔都にてお店を開けるようになった。

 魔王城に納品したりもするのよ。


 そんな風に、慣れない陸での暮らしも順風満帆になってきた頃……。


    *    *    *


 妙な噂を聞いた。


 ここ最近魔都の外れで開かれているという博覧会。

 そこで人魚の薬が売り出されていると。


「『人魚館』とかいってさー。人魚が薬を作る工程をわかりやすく解説してるんだとさ」

「実際に人魚の薬も販売してるんだって。この店のより効くそうだから倒産の危機だねー?」


 ウチも薬屋だけあって、そういう噂が随時舞い込んでくる。


 不審だった。人魚の魔法薬が陸に出回る奇怪さは、人魚である私が一番よく知っている。


 私と同じように陸に追放された人魚でもいるの?

 正直言って陸に魔法薬が出回る経緯としてはそれ以外考えられない。

 私は真偽をたしかめるためにも店を休みにして博覧会とやらに行ってみることにした。


 思った以上に盛大なイベントだわ。

 スペースは来場客でごった返しているし、居並ぶパビリオンはどれも高水準。


 この中で、人魚の魔法薬が販売されているパビリオンはどこかしら?

『人魚館』とかいってたわよね?

 ここは『納豆館』だったわ間違えたわ。

 でも納豆美味しいわ。


 多少の寄り道はあったものの、無事『人魚館』を発見することができたわ。

 なんかパビリオンの外装がやたら凝ってて、海底をイメージさせる意匠だったわ。


 ……。

 くっそ郷愁が。


 いくら陸での生活が軌道に乗ってると言っても、望郷の念は消せない。

 ウニ食べたい。


 こんな海への想いを甦らせるなんて、ふてえヤツね?

 一体どんな追放人魚が経営しているのかしら?

 私はとりあえず『人魚館』へ入ってみた。


 内部も思った以上に人魚だったわ。

 展示してある魔法薬の解説は、まさに正解そのもの。

 まるで人魚国の魔法薬学校のようだわ。


『こんなの他国で堂々と開示していいの?』と心配になってくるほどの細やかな解説で、こんなの連日満員御礼となるのも仕方がないと思った。


 そして問題のお土産物コーナー。


 噂を肯定するかのごとく人魚製魔法薬が所狭しと並べられていた。


 検証。

 結論。


「本物じゃあああああああッッ!?」


 マジの魔法薬。

 魔法薬使いの女人魚でなければ生み出せない。


 魔法薬は魔法の産物。


 薬の材料もいるけど、それに加えて製作者の発する魔力も必要不可欠。だからレシピがあって材料が揃っていても、結局人魚の魔法薬使いにしか魔法薬は生み出せない。


 だからこれに人魚が関わっているのは間違いない!


 でも一体何者が裏に潜んでいるの!?


 一目でわかる。土産物コーナーに並んでいる魔法薬のハイクオリティ。

 魔法薬の品質は、製作した人魚の腕前がモロに反映される。


 この魔法薬を製作したのは、間違いなく私よりも遥かに高い技量を持った魔法薬使いに間違いなかった。

 この魔法薬が魔都で本格販売されたら私の店確実に潰れるってぐらいに……!


 一体、マジで誰が作ったものなの……!?


「店員さん、店員さーん!!」

「はーいー?」


 呼ぶと店番の一人がレスポンスよく駆け寄ってきた。

 なんか赤ちゃん抱えていた。子守しながら接客?

 まあいい……!


「ここにある魔法薬なんですが、素晴らしい品質ですね!? 人魚国本土でもこのレベルの魔法薬はそうありません!」

「あらあらわかります? お目が高い」


 なんか店員さん嬉しそう?

 まるで自分が褒められたみたいに?


「違いのわかるお客様とお会いできるなんて。陸でそこまでの見識を得られるとは博識でいらっしゃるのね?」

「いえいえ、私の場合は元人魚ですから」

「え?」


 魔法薬で無理やり尾ひれをお尻と美脚に変えられた私は元人魚と言って差し支えないはず。


「しかし、久々に故郷を感じ取れる事物と出会い、郷愁の念が抑えがたくなってしまいました……! この魔法薬の製作者と会うことはできませんか? せめて同郷の方と向き合うことだけでも……」

「そういえば、思い出したアンタは……」

「ん?」

「アタシの名を騙って市場で暴飲暴食しまくった食い逃げ犯」


 ん!?


 そういうアナタは……!?

 この顔、この巨胸、この神々しいまでの天才オーラ!?


 この御方こそまさしく……!?

 プラティ王女!?


「プラティ王女が何故ここに!?」

「何故ってアタシがこのパビリオンの主催だからよ。他の箇所はともかく、薬を直接販売するここだけは経験知識のある人魚が詰めとかないとねー」


 いやそれ以前に!

 なんで人魚国のプリンセスであらせられるプラティ様が陸に!?


 このお土産屋の魔法薬、するってーとプラティ王女謹製!? ハイクオリティなわけだ!!

 いいんですかそんな貴重なものをお土産として売って!?


「いやー、ごめんね一目見るだけで気づけなくて。遥か昔のことだったんで忘れてたわ」

「私も同じですし……!?」


 まさかプラティ王女が陸におられるとは思いませんでしたし。

 しかも胸にお抱きになっている赤ん坊は……? まさか自作!?


「何? 今魔都で生活しているの? 逞しいわね陸の上に追放されながら一人で頑張って生きて……」

「いえあの……、運がよかっただけで……!?」


 何この?

 急に絡まれてるみたいになってるわ!?


「思えば当時の私も若かったわ。ご馳走を横取りされただけでマジギレして国外追放の沙汰とはね。でも美味しいのよね、メタリックプラチナシルバーウニ……」

「はい、超美味しかったです……!」

「あれから私もいろんな経験をしたわ。ウニの他にも美味しいものがたくさんあるってことをね。野菜炒め……、とんかつ……、本当に旦那様との出会いは天啓だわ」


 あの王女……?

 ヨダレ垂れてますよ? 抱えられてるお子さんがばっちがってますよ?


「だから今の私には、あの当時のことを許せる度量が今はある! アナタの国外追放の達しを解きましょう!」


 えええええーーーッ!?

 まさか、夢にまで見た人魚国への帰還がこんなところで果たされるなんて……!?

 希望はある日突然やってくるのね……!


「やった!」

「と思ったけど……」


 あれ?


「今思い出したのよね。魔国からアタシに嫁入りの申し込みに来た時、『どこからアタシの評判が伝わってきたんだろう?』って、海と陸とじゃ情報もなかなか往来しないものじゃない?」


 あ。

 そういえば、プラティ王女って嫁取り騒動が起こってたんですっけ?

 噂程度には聞き及んでいました、結果までは知らないけれど。


「誰か国外追放された人魚が陸でアタシの悪口でも言い触らしてんのかなー? と推測してたんだけれど、……そう」


 魔都在住の私を見る。


「アンタが犯人だったのね?」


 待って!

 違います! いや、たしかに心当たりがある!


 酒場で飲むたび国外追放を言い渡したプラティ王女の悪口言ってた気がする!?

 それが回り回って魔族のお偉いさんの耳に!?


 待って出来心なんです!?

 でもなんで悪口が嫁取りの指標に!?


「とりあえずウチのパビリオンも人手足りなくて困ってたところなのよね。専門知識がいるお土産コーナーが特に。留学中の人魚学生アテにしてたんだけど『当学園はアルバイト禁止です』とかカープの先公が言いやがるもんで……!!」


 プラティ王女が、私の肩をグッと掴んだ。


「ところでアンタ今、暇よね?」


 赤ちゃんから『ご愁傷さま』的視線を貰った。

 以後、博覧会が終了するまで私は自身の店を閉め、こっちで臨時アルバイトすることになった。

 ここで頑張れば海に還る道のりが見えるかもしれない!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bgb65790fgjc6lgv16t64n2s96rv_elf_1d0_1xo_1lufi.jpg.580.jpg
書籍版19巻、8/25発売予定!

g7ct8cpb8s6tfpdz4r6jff2ujd4_bds_1k6_n5_1
↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ