392 特別な客
俺です。
最近先生の様子がおかしい気がする。
元気がないというか。
いや、既に死してるノーライフキングに元気があるべきものかどうかもわからんのだが。
とにかく寂しそうだ。
ここ最近は博覧会の運営で俺始め多くの農場住民が会場入りしているから、その関係かなあと思ったが。
俺たちが博覧会にかまけている間も、多くのオークゴブリンその他の住人が残って冬の間の細々な作業をしている。
何より留学生たちの授業で先生も忙しいはずだから寂しいということはないはずなんだが……?
「もしかして先生も行きたいんですか博覧会?」
『いやいやいや……ッ!?』
明らかに図星を突かれた時の反応だった。
わかりやすくて親しみ深い。
「お越しになればいいじゃないですか? 別に人里に行くのは初めてじゃないでしょう?」
前にも三母神を召喚するためにダルキッシュさんの領へ赴いたじゃないですか。
その時は千年ぶりに故郷人間国の土を踏み、人々と触れあえて先生めっちゃ楽しそうだったのに。
俺たちも先生が来てくれたら盛り上がるんですけれどもよ。
『思い直したのです……。軽はずみなことをしたとね』
それは以前、人里を訪れたこと?
『ノーライフキングは人類にとって凶悪の存在。遭遇は死を意味する。死から解放されたゆえに命を軽んじ、人の生死を塵とも思わぬ心なきバケモノなのです』
「何をそんな……?」
『そんなノーライフキングが気軽に生者と交わってはいかぬと思いましてなあ……』
先生ひょっとして。
こないだシルバーウルフさんに必要以上に怖がられたり、社会見学で他の凶悪ノーライフキングを実見したことを引きずっているのかな?
「大丈夫ですよ先生! 先生は他のノーライフキングとはまったく違います! 先生が優しいのは俺たちが一番よく知っていますよ!!」
『いやしかし……!?』
ガラにもなく煮え切らない先生に、俺だけでなく若い少年少女たちまで群がってくる。
各種族の留学生たちだ。
「先生! 弱気にならないでください!!」
「先生はオレたちのことを親身になって指導してくれるじゃないですか!」
「先生は悪いヤツじゃありません! いい者です!」
人魔人魚と種族を問わず励ましてくるのへ、先生は胸を熱くしているようだ。
『お前たち……!!』
教え子たちから勇気を貰い、先生は再び農場を出て人里へ繰り出すことになった。
今度は完全な観光目的で。
* * *
博覧会に特別なお客様が来る。
事前にそう告知しておいたので、来場者たちはパビリオンを回りながら誰もがそわそわしていた。
「特別な来訪者って誰だ……!?」
「有名人?」
という感じに。
まさか人ですらないとは誰も予想していまい。元人類ではあるけれど。
そして実際先生が現れた途端、博覧会場は恐怖のズンドコ……、もといどん底へと叩き落とされる。
「ぎゃあああああモンスターだ!?」
「アンデッドだああああああッ!?」
「いやノーライフキングだあああああッ!?」
来場客の中には先生を見て恐怖に腰を抜かす者、失神する者、失禁する者が続出。
先生は既に魔法で瘴気を抑えているので、純粋にノーライフキングへの恐怖からだろう。
『やっぱり……!』
先生の心が折れかけていた、その時だった。
「先生! よくぞおいでくださった!」
諸手を上げて先生を迎える魔王ゼダンさん。
今日は魔王さんまでお越しくださっていた。
『おお、まさかワシのために……!?』
「当然です、我もアナタの教えを受けたのですからな。生徒の一人というわけです!」
魔王さんは一時期農場に隠棲して、先生に魔法を習っていたことがあったっけ。
その恩義に応える魔王さんであった。
「ワシもおるぞー」
「大魔王さんまで!?」
魔王さんの父親にして先代の魔王。
文化好きで今回の博覧会開催にも大きく関わってきたのだが……。
『なんと、なんと有り難い……!?』
先生が感動で泣きそうだった。
周囲の来場客たちも……。
「魔王様だ……!?」
「魔王様と大魔王様。和解されたのか!?」
「二人揃ってノーライフキングを出迎え!? そんなに重大な相手なの!?」
「今日の特別なお客様ってもしや!?」
「魔王様! 大魔王様! ノーライフキング! どれが重要なお客様なんだ!? どれもあり得過ぎて判別つかん!」
「全部じゃないかな?」
ともかく魔王さんと大魔王さんの暖かい出迎えのお陰で、周囲の先生を包む空気も柔らかくなっていく。
「さあ先生、共に博覧会を見て回りましょう。よければそのあと魔都にもお越しください。様々な名所をご案内しましょう」
「ノーライフキングが客として魔都を訪問するなど千年の記念となりましょう。どうか満喫してくだされ」
最高権力者からの国賓扱いに先生が感涙に咽ぶレベルだった。
『ありがとうございます。……来てよかった。よかったですぞおおお』
ちなみにこの間、俺の気分がどうも『おじいちゃんと都会に遊びにきた孫(成人)』みたいになっていたことは秘密だ。
こうして先生も博覧会を楽しめるようで、とにかくよかった。
* * *
余談。
魔王さんと大魔王さんの他にももう一人、先生と面談する魔族の男性がいた。
それなりの偉い人っぽいが、何だか緩い雰囲気であまり偉そうという感じがしない。
「ご紹介いたします先生。彼が魔王軍四天王の一人で魔軍司令のベルフェガミリアです」
この人が?
噂には聞いていたが俺も初めて会った。
『おお、おぬしが。話は聞いておりますぞ』
「私もお噂はかねがね。面倒くさいですが一目お会いしたいと思っていました」
と握手を交わす先生とベルフェガミリアさん。
何この慣れ親しんだ雰囲気?
まるで知り合いみたいな?
『彼のことは以前から聞いておったのですよ。知り合いの弟子でしてな』
と先生。
先生の知り合いがこの人のお師匠って、どういうこと!?
「老師と肩を並べる『三賢一愚』の一角が魔王様と既知になられたというんで、本当なら真っ先に挨拶すべきだったんでしょうが、どうも僕は面倒くさがりで……」
『わかっておるよ。老師のお弟子ならさもありなん』
と交わして『あはははは』と笑い合うハイレベルなお二方だった。
詳しく話を聞くところでは、ノーライフキングの中でもトップクラスの強さを持つうちの一人、ノーライフキングの老師に弟子入りし、生きながらにしてノーライフキングに匹敵する強さを得られる秘密の呼吸法を伝授されたのがベルフェガミリアさんだ、とのこと。
…………
想像が追いつかん!






