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391 久々の聖剣の呟き

 邪聖剣ドライシュバルツでっす。


 私のこと忘れてる?

 聖者と呼ばれる主の武器として愛用されている聖なる剣のことよ。

 剣に意思があるとしても大した問題じゃないのよ聖剣だから。


 もんのすっっっっっっっごい久々の呟きなんだけど、生存していたわよ。

 まあ死亡説が出るくらいに音沙汰なかったのも仕方ないけど。何しろ喋ることが全然なかったからね。


 元々私たち聖剣は、人族を打ち倒すため冥神ハデス様によって作り出されたもの。

 七振りの聖剣が戦い合って喰らい合って、最後に勝ち残った一振りが最強の真聖剣となって人族を砕くという。

 そういうシステムだった。


 しかし想定外にも折れた聖剣が復活して、聖剣たちの争いをひっくり返した。

 そうこうしているうちに魔族が人族を打倒して戦争に終止符を打った。それによって聖剣がそもそも必要なくなった。


 その上でどうやって私たちの存在を主張しろっていうのよ!

 終わったわ!

 私たち聖剣の役目は終わったわ!


 これで潔い存在だったら『私の役目は終わった……』ってサラサラ消滅しても問題ないぐらいの綺麗な終わりっぷり!


 もう聖剣たちは戦う必要がない!

 戦った末に滅ぼすべき人族も敗退した!


 じゃあ私たちこれからどうすればいいの!? 私たちの存在理由は!?


 ……という感じで塞ぎ込んでいました。しばらくは。


 塞ぎ込んでいる間は何されようと取り合う気にはなれず、主がどれほど私を雑に扱おうとノーリアクションだった。


 私のことを包丁代わりにしたり。

 私のことをノコギリ代わりにしたり。


 斧代わりとか、草刈り鎌代わりとか、鉋代わりとか、ノミ代わりとか、彫刻刀代わりとか、糸切りバサミ代わりとか、裁ちバサミ代わりとか、高枝切りバサミ代わりとか、ケーキナイフ代わりとか、バターナイフ代わりとか!

 ようかんナイフ代わりとか!

 フードプロセッサ代わりとかッ!!


 ……ハア、ハア。

 すみません取り乱しました。


 でも怒ってはいないわよ?


 だって私は、既に役割を失った聖剣。

 もう捨てられてもいいぐらいなのに、依然として使ってもらえるだけでもありがたいのよ。


 食材だって木材だって石材だって。

 何でもいいから斬れるうちは幸せな証拠なのよ。


 っていうか最近は、食材を新鮮に保ったまま斬れるかってことが楽しくなってきてね。


 もういっそこのまま包丁になっちゃおうかな、その方が余生楽しそうだな。

 そう思い続ける日々だった。


 ……だがしかしよ。

 ここ最近私に転機が訪れてきてない?


 主が私をちゃんと武器として使ってくれてる機会が多いのよね。


 印象に残ったのは、こないだの海の底に行った時。

 最初は何考えてるんだって思ったけどね。剣である私を丸ごと海中に浸しやがって。海水だ塩水だ。水分塩分錆びる死ぬ! って思ったけれど私さすが聖剣。


 塩水程度でどうにかなる材質じゃなかった。


 しかもそこでまさかのバトルよ!

 何か知らないけど人魚族の猛者と連戦でね!

 ……まあ、最強の我が主はほとんどの対戦相手を私なしの一捻りで勝ち上がったけど……。

 しかし最後の対戦相手がね! なんと海神の武器トライデントよ! レプリカだったけど。


 初めての神の武器同士のバトル!

 興奮したわ!

 元々このために生み出されたんだなって最近忘れたことを思い出した! 生まれてから一番最高な瞬間だったわ。


 なんか来てる?

 私にかつてないビッグウェーブが来てる?


 という予感がしたわ。

 でも待って、ここで調子に乗っちゃいけない。

 わかっているのよ私という剣は、ノリに乗った時こそ大きな落とし穴に落ちるのだと。

 今まで毎回そうだったわ。


 だからこそ今回も、糠喜びしないように心を律していくのよ。

 ヘタな期待なんかしない!


 そう心を守っていた私に……。

 さらなる浮かれるべき事態が襲い掛かった。


    *    *    *


「……紳士淑女の皆様方、当展示室へよく起こしくださいました」


 司会役の男が仰々しく言う。


 誰か知らないわ。

 博覧会のために雇った現地人でしょう。


「既に様々なパビリオンを巡り耳目を驚かせたことと存じます。こう思っていることでしょう。『もう驚き慣れた、多少のことでは驚かないぞ』と。しかし、それでも驚かされるのが当博覧会の凄さです。……さあ、この宝物をご覧になってもう一度驚いてください!」


 と言って司会の男、私に掛けられた布幕をバッと取り去った。

 露わになる私の刀身を見て、観客たちの驚嘆の声が上がる。


「聖剣です!! 魔王様が携えし怒聖剣アインロート、それと並ぶ兄弟剣。その名も邪聖剣ドライシュバルツ! 魔国にて初のお目見えです!!」


 私に向けて注目と感歎が飛んでくるわ!


 凄い! こんなに注目されたのって千年前に人族どもに拾われて以来じゃない!?

 いや、今の方が注目の興奮度が凄いように思える!

 さすがハデス神に創造された魔族は、同じくハデス神に作られた私の価値をよくわかるようね!


 ……さて。


 ここでちょっと段階をすっ飛ばしちゃったので、詳しい経緯を語りましょう。


 発端は、博覧会とかいうヤツよ。

 今主たちがハマってるアレね。


 色んな催し物を立ち上げてるけれど、その中で一つ目玉になるような展示品はないか? という話をしていたのだわ。


 珍しくて、有名で、名前を聞いただけで見に来たくなる。そういうもの。


 色々話し合われた結果、私が選ばれたのよ!!


 農場博覧会の目玉となるべき展示品に!

 そうして私が特別展示館に設置され、大勢の見物客に囲まれている。

 展示館!

 私のためだけに建てられた館!


「あれが聖剣……!?」

「魔王様が持たれる剣と同じもの……!?」

「なんと禍々しい漆黒の剣気……!?」

「ママ怖いー」


 見られている……! 見られているそして恐れられている……!

 畏怖されなおかつ魅了している……!


 そうよ! これこそ聖剣のあるべき姿なのよ!


 やっぱり私は聖剣! 包丁でもノコギリでもない!

 あらゆる生命に斬裂という死を与える恐ろしき凶器なのよおおおお!!


 気持ちいい!

 気持ちよすぎる!!


 感嘆の視線に晒される快感に絶頂していると……。


「買った!」


 なんか変な声がしてきたわよ?


「その剣買った! いくらだ!? いやいくらでも出す! その聖剣をワシに譲ってくれ!?」


 誰かしら?

 数え切れないほどいる見物人の中から、みすぼらしいジジイが『買う買う』と喚いているわ?


 それに対して司会の男が困った表情で……。


「申し訳ありません。この聖剣は売るために展示しているのではありません。持ち主には必ず返却するという約束の下に貸し出されていまして……!」

「ならば持ち主に会わせろ! 直接交渉して買い取る! 魔王様の事物と同じ聖剣。手に入れれば我が家系にこれ以上ない箔が付くわ!」


 あらあら。

 優れた私を欲しがるのは仕方ないけれど、アンタみたいな弱々しいヤツは私の主には不適格よ?


 それこそ今の主のように最強でないと……。


「ちょっと待て! その聖剣は私のものだ! 持ち主はいくらほしいと言っているのだ!? 金貨二百枚なら今すぐ出せるぞ!?」

「せこい値段でしゃしゃり出るな! ならこっちは金貨五百枚だ!」

「千二百枚!」

「お待ちください! これはオークションではありません! 値段を釣り上げないでください!!」


 私を巡って醜い争いが起きていた。

 しかもお金で。

 お金で私を手に入れようとするなんて。

 …………。


    *    *    *


 そして。

 足元に転がっている私に気づいて拾い上げる主。

 一番最初に出会った時と同じように。


「あれ、聖剣じゃないか? 展示室にあるはずが何故ここに?」

「また自分の力でここまで這いずってきたんじゃないの? 前にもあったじゃない」

「仕方ないヤツだなあ」


 私にも剣としてのプライドがあるわ。

 実力もないヤツから飾り物にされるよりは、包丁扱いでもノコギリ扱いでも毎日のように使ってくれる人の方がいいのよ。

 まして主と認めた人が、地上最強であるのならなおさら。


「あとで必ず迎えに行くって言っておいたのになあ」

「寂しがり屋なのよ。想像以上に旦那様に懐いているのね」


 何とでも言いなさい。

 とにかく今の主が生きている間は、他のヤツに振るわれる気はないわ。


 ちなみに。

 展示館から唐突に私が消えたことで来場客全員に窃盗容疑がかかり、私を携えた主が駆け付けるまで館内の出入りが禁止になる事態になったんだって。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
魔王妃2人の聖剣も展示すれば、催しに更に箔が付いたのにw
[一言] ( ;∀;)聖剣さん今回は切ない……頑張れ…超頑張れ
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