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388 バベルの太陽の塔

 私は太陽神アポロン。


 天の神の系譜に連なり、その頂点ゼウスからもっとも愛される息子の一人である。


 父神ゼウスが、やらかしによって向こう三億年は幽閉から解放されない。

 その間、父上に代わって天空を統治するのは、父上にもっとも愛された息子である、この私の役目だった。


 元々から妹神アルテミスと共に天の運行を司ってきた私である。

 父上がお勤めを果たして出所してくるまで、天空は私が無事統治してみせるぞ!


 そのためにも、新しい一発ギャグを開発しなければ!!


 ……一発ギャグだ。

 なんだその目は?


 私は太陽神アポロン。

 太陽の管理、天の昼間の運行を司っていると同時に、芸術文化を司る神でもある。


 芸術といえばお笑い、文化といえばお笑いではないか。


 そこで私は日夜、天地海を大爆笑の渦に叩きこむ面白ギャグを開発し続けているのだ!

 今度こそ誰もが笑う、優良ギャグの完成を!


 我が妹にして、夜の運行を司る月神アルテミスから『お兄様のギャグは寒いんですわ、死ね』とか言われないためにも!!


 そんな風に私が、たゆまぬ努力を続けていたある日のことだった。


    *    *    *


 なんか地上が騒がしいなあ、と思った。


 太陽神であると同時に芸術文化の神でもある、このアポロンの文化センサーにビンビン来る。


 何事かと思って地上を見下ろしてみたら、なんか賑やかだった。

 催しかな?


 地上の人どもが一つ所に集まって、和やかに騒いでいる。

 こういう雰囲気を見ると芸術神である私は興味を引かれないわけにはいかないのだ。


 どれどれ、私のメガネに適いそうなほど高尚な文化的集いなのかな?

 ……と思って、よくよく観察してみたらガッカリ。


 魔族たちの催しではないか。


 ゼウス父上の兄弟、冥神ハデス伯父が創造した魔族たちは私の管轄外。

 いわばどうでもいい相手だ。


 そもそも父上が幽閉されるきっかけも、父上が創造した人族が魔族に敗北したことから。

 その点を鑑みれば魔族に恨みを持ってもいいほどだ。


 文化的集いに興味はあれども、魔族が主催しているというなら天神的にもこのアポロンは無視を決め込まねば。


 芸術神に黙殺された文化的集いなど、これほど哀れなものはないと吠え面をかくがいい!!


 ……ん?

 ところでなんだあれは?


 地上で展開されている魔族たちの催しの一点。

 ある区画で、何かが建造されている?


 既に開催されているのに、その時点から建造が始まるとかズレすぎだろ? とも思ったが……。


 何を建てているんだ?


 塔か?


 もしかして。

 人類が塔を築く。たしかそれはよくない兆候で注意しろと父上が言っていた。


 こんな時は!

 ゼウス父上が幽閉前に託してくれた『神マニュアル』の出番だ!


 神としての振る舞い方、人類が調子に乗った時の天罰の下し方などが六百六十六項目! 豊富に事細かに記されている!

 よその世界の経験豊かな神が実体験を書き記したそうなので信頼性バツグンだ!


 何か困ったことが起きたら、このマニュアルに従って人類を困らせてやれと父上から渡されていたのだ!


 こんな時こそ神マニュアルで……。

 索引から塔を検索して、とう、と、たちつてととと……、っと……!


 ……あった!

 四万九千五百七十二ページだな。


『人類が塔を建て始めた時の、思惑と目的』


 えーと、何々?


『塔を建てるのは、人類が思い上がった証拠です。人が神々より高い場所に登ろうと、高い建築物を欲するのです』


 何だって!?

 塔の建設に、そんな恐ろしい意味があったとは!?


 思えば魔族たちは、人族を倒して地上の覇者となった。

 この上さらに人族を裏で操っていた天神をも排除しようと戦いを挑むのも自然なこと。


 そのために天へと登る手段としての塔か!? そうなのか!?


 これは一大事だ!?

 父上の留守を守る太陽神として対策を講じなければ!!


 どうすればいいんだ!?

 ここは再び神マニュアルで対応策を検索してみよう!


『人類が塔を建て出した時の対処(一例)』


 おおッ!?


『人々の使う言葉を乱して意思疎通不可能にしてやりましょう。さすれば協力できなくなるので二度と塔を建てなくなります』


 ひぃッ!?

 こわッ!?


 何て恐ろしいこと書いてあるの、このマニュアルは!?

 書いた神絶対性格悪いだろ!!

 やり口が陰険すぎる!


 カラッと明るい太陽神の私としては、もっと平和裏に対処したいんだがなあ。

 あと文化の神でもあるから洗練されたビビッドな裁可を下したい。


 う~ん、どうするかな?

 そうやって悩みに没頭していたせいだろうか。


 足元の注意が疎かになってつるっと滑って……。

 こけた。


『あ……ッ?』


 しかもこけた場所が悪かった。

 天神たちの住む天界。神々が住み暮らしている雲の上の端っこであったために……。


 私は見事に雲から落ちて、地上へ真っ逆さま。


『あーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーーッ!?』


 落ちた。


 天の神の領域は、天空高き雲の上。

 だからそこから踏み外すと、落ち行く先は……

 そう地上。


    *    *    *


(落下中)


    *    *    *


 ずどーん。

 どうやら地上まで落ちてきたらしい。


『いたたたたた……!?』


 久々にやってしまった。

 昔はよくこうやって天の神は不注意で天界から落下してきたものだ。父上なんか『あー、足が滑ったー』とわざとらしく落ちて戻ってくるたび愛人と子どもを増やしたものだが。


 協定が締結されてからはそんな言いわけも通じなくなってきて、めっきり不注意はなくなったのに。


 しかも、落ち着いて周りを見回してみてわかった。

 ここは問題の塔の上じゃないか!?

 あまりに意識が向かい過ぎたために、ここへ落下!?


 ああ、しかも!

 この催しに集った魔族たちが私に注目している!?


 塔の一段高いところに立っている私に大勢の客!

 これはまるで……!?

 私のソロライブ(満員御礼)のようではないかッ!?


 塔の上の私を見上げる魔族たち……。


「あれは何……!?」

「神だ! 神様だ……!?」

「しかもあの御姿は、天の神でもっとも輝かしいとされる太陽神アポロン……!?」

「天空の神が、何故魔族の博覧会に……!?」

「御降臨……!?」


 いかん、客が困惑している。

 観客に笑いと興奮を提供し、一瞬たりともダレる時間を与えないのが本物の芸人クオリティ。


 私も文化と芸術を司る神として、全力で会場を温めなければ!


 よし、今こそあれを出す時だ。

 本当は、今度の神懇談会で初披露するつもりだった新ネタを!

 大爆笑必至の渾身ネタを!!


 私は、両腕を下の位置で組んでから……。


『楽しいぃ~~』


 バッと両腕を振り上げた!

 右腕左腕、双方を各々斜め上方へ!


『~~ワイ!!』


 どうだ!?

 バンザイした両腕と体幹の形が『Y』の字を描くかのようで、それと掛け声の『ワイ』を掛けた高度なギャグ!

 神々ですら理解できない高度さが、人類ごときに通じるか!?


 パチパチパチパチパチパチ……。


「神の御降臨じゃ……!?」

「この博覧会を神が祝福されている……!!」

「天の神とか地の神とかどうでもいい」

「ありがたや。ありがたやぁ……!!」


 めっちゃウケてるううううう……!!


 凄く嬉しい!

 これ実際神々の前で披露しても、また妹のアルテミスから『だからつまんねーんですって、死ね』とか言われると思ったのに!!


 人類とはなんと理解の深い! 文化的に進んだ生物なのだ!

 いや魔族だからか!? 人格者のハデス伯父さんが創造した魔族だからか!?

 もうこの際、人族とか魔族とかどうでもよかろう!


『我ら天の神は、種族に関わらずすべての人類生物を祝福し。守護することをここに誓う……!!』

「おおおおおおお~~ッ!?」


 そうだ。

 文化を理解する者同士に争う理由などないではないか。


 この世界は今まさに、ギャグを通じて一つとなった!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言]おじさんの時代はアポロンと言えば「UFO戦士ダ◯アポロン」でした。「ヘッダー、ドラングー、レッガー」合身…って知らねぇだろうな〜!?
[良い点] 『我ら天の神は、種族に関わらずすべての人類生物を祝福し。守護することをここに誓う……!!』 [一言] これは良いやらかしwww
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