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387 塔を建てよう

 博覧会が開催されて早や数日。

 それでも人気は衰えることもなく来場者数はうなぎ登りだ。


 運営側の集計によると、各パビリオンでもっとも来場者数が多いのはレタスレートの『豆館』。

 意外かつ『それでいいのか?』感が強いが、やはり内容のシンプルさで老若男女に伝わりやすいこと。そして食べ物という鉄板題材が効いたらしい。


 お土産の豆が飛ぶように売れて、レタスレートもウハウハらしかった。


「人気にあやかって私の納豆もよく売れています」


 とホルコスフォンが言っていた。

『マジで!?』と思った。


 次に人気なのがヴィール主催のパビリオン。

『アイツも出展してたの!?』とまずそこから驚いたが、出展していたらしい。

 しかも意外と人気。


 一体どんなテーマで出展したのかとたしかめてみたら、パンやうどんを紹介するパビリオンらしかった。


 その名も『小麦館』。


 ヴィールが、みずからパンを焼いたりうどんを打ったりして、調理法を実現しつつ、小麦を素材にした料理たちの美味しさをアピールしていくんだそうな。

 ヴィールみずから、というところに一瞬大変驚いたが。

 ……たしかにアイツ思い返してみたら、いつの間にかパンこねたり、うどん打てるようになっていたが。

 やっぱドラゴンだからやろうと思えば何でもできるヤツなのかな?


 今や生粋のグルテンジャーになってしまっていたヴィールであった。

 魔国に小麦旋風を巻き起こしてやろうとか息巻いているらしい。


 で、大人気。

 やっぱ食い物系は強いな。


 今はまだタイトルから現物を想像しにくいということでレタスレートの後塵を拝しているが、新メニューとしてパスタまでも取り入れて、ペペロンチーノ、ミートソース、ナポリタンと各メニュー取り揃えて追い上げ態勢を整えているとのこと。


 粉物の美味しさが周知されれば猛烈な追い上げが予想されるので、いずれレタスレートとヴィールのトップ争いが白熱することだろう。


 その他、ポーエルのいる『ガラス館』はパビリオンの建物自体が珍しいと好評を得ていた。

 何でも総ガラス製で壁も屋根もガラスで透明。

 輝く華麗な外観から『クリスタル・パレス』と勝手に呼ばれているらしい。

 連日、見物客が訪れて大好評だ。


 そんな活発な様子も見て、思うようになった。


「俺もなんかやりたい……」


 今さらである。

 開催前は特に燃える要素もなく傍観しようと決めてたんだけど、いざ実際に始まってみたら思った以上に楽しそうで、俺も混ざりたくなってきた。


 しかしなあ。

 今さら俺もパビリオンを開いたところでレタスレートやヴィールに勝てる気がしない。

 美味しいところは先行組が全部持って行ってしまったし。

 どうせやるなら勝ちたいし、勝てないイベントならやりたくない。


 ということで俺は何か別のアプローチで博覧会に噛んでいくことにしよう。


 ということで……。

 ……そうだ。

 いいこと思いついた。


    *    *    *


「……モニュメント、ですか?」


 早速シャクスさんを呼び出して相談。

 今では彼は博覧会の運営委員長的立場にいるので。


「そう、建てたいんだけど俺が」


 モニュメントとは記念碑。

 何かを象徴し、未来に遺すための建造物。


「農場博覧会を象徴するものをね、形にしたいんだよ! それを俺が手掛けたい!」

「聖者様がなさろうとすることなら、こちらは反対などできません。土地も充分余っていますし、かなり自由なことができると思いますが?」


 あえて会場を市外に設営した利点が出てきた。

 いくらでも土地を利用できると言う利点が。際限がなくなるという危惧もあるが……。


「……で、モニュメントというとどんなものを建造するおつもりなのですか?」

「塔です」

「塔?」


 シャクスさんが呆気にとられた表情になる。


「モニュメントで塔を建てるのですか?」

「だって万博といえば塔でしょう?」

「博覧会ですが?」

「博覧会も万博も似たようなものでしょう」


 俺も凄くヴィヴィッドな塔を建てて皆からの注目を浴びたい!!

 というわけで塔を建てます。


 そして博覧会に華を添えるのです。


 善は急げということで、早速塔建設が始まった。

 建設予定地は、博覧会場の外れの空き地。何度も言ったように市外に設営された博覧会場は、周囲が空き地でいくらでも増設可能。


 そこで建設大好きなオークボたちを招集し、作業を始める。

 オークボから質問があった。


「我が君、塔を建てるとのことですが、どのようなものを拵えるおつもりですか?」

「いい質問だ!」


 イメージの共有は大事だからな。


 今回、塔は塔といっても存在目的は実用ではない。

 あくまで博覧会を盛り上げるシンボル的なものだ。


「そこで見た目を派手にし、誰の目をも引く芸術的なものに仕上げたい!」

「芸術的……、ですか?」

「たとえばこう、バーンと両手を広げるような!」

「両手!? 塔なのに!?」

「そして顔をつける!」

「塔に顔をつけるんですか!?」

「その顔が太陽のように光り輝く!」

「もしかして何かパクッてませんか!?」


 オークボが鋭い。


 仕方ないだろう。実のところ博覧会と聞いて真っ先に思い浮かんだのがあれなんだ。

 全世界の度肝を抜いたあの塔を異世界でも再現して、さらにもう一回度肝を抜くのだ!


 とにかく設計図を描いて実際に塔建設に着手した。

 オークボたちも戸惑いながら手伝ってくれたおかげで、これまた高速で完成した。


 異世界版モニュメントの塔!


 一目見て度肝を抜かれるインパクト満点の外観!

 ド派手な色彩!

 何故かついている顔!


 そのあまりに意味不明な外観のために、通りすがろうとする誰もが振り返る。

 塔自体が巨大な建造物なので、目に留まる範囲は広域に及ぶ。


「なななな、なんだあれはぁー!?」

「塔だ! しかしなんて奇抜な外見を!?」

「あれは芸術だ!! 建築物自体を芸術にするなんて!」

「なんて並外れたスケール!」

「この博覧会は、何処まで我々を打ちのめせば気が済むんだぁー!?」


 主に反応がよかったのは、職人たち。

 各技術系パビリオンに入り浸りの彼らだが、外部でモニュメントの塔を一目見て衝撃に襲われていた。

 あそこまで驚いてくれたら、こちらも建てた甲斐があるというものだ。


 真の芸術は世界の垣根を超えて人の心を揺さぶる。

 博覧会に来た人のすべてが、その奇異な姿を脳裏に焼き付けて帰ることだろう。


 俺も大変満足したところ……。


「なんだあれは?」


 大衆の中からそんな声が聞こえた。


「上を見ろ」

「空から何か降ってくるぞ!?」


 皆が異常に気付き始める。

 俺もつられて見上げると、たしかに空から何かが降りてくるのが見えた。


 まっさらな晴天から、光り輝く一粒が地表へ向けて降りてくる。

 あまりの明るさに太陽が落ちて来たかと思ったが違う。


 太陽のように光り輝いてはいるが、太陽よりも小粒だった。

 太陽のように輝く小さな何か。


 それがよりにもよって俺が建てたモニュメント塔のてっぺんに留まりやがった。

 一体何が始まるのだ!?


 博覧会の来場者も、こうなっては注目せずにはいられない。

 全員の視線が釘付けになったところで、降臨した光に動きがあった。


 モニュメント塔の頂上から、多くの人々を睥睨しつつ語り出す。


「……我はアポロン。父神ゼウスからもっとも愛される太陽の神である」

少し遅い盆休みをいただきたいと思います。

次の更新は8/26(月)の予定です。しばらくお待ちください。

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