386 竜馬がゆく
こうしてギガントロック号に客車を引かせる馬列車が正式に採用された。
ヤツのパワーなら二両満員にしても引くことができるということで、移動手段としては大いに便利だ。
速度としては、元来パワータイプのギガントロック号だけに精々人が走る程度だろうと推測される。
しかしそこは特に問題なかろう。
元から博覧会場と魔都はそれほど離れていないんだし。問題となっていたのは市外の野っ原を一般市民に歩かせることによって生じる危険だ。
客者には先生によるモンスター除けの魔法をかけてもらうし、さらに御者としてオークボも付き添えば、万に一つの危険もあるまい。
ただまだ問題があるとしたら……。
「ギガントロック号一頭だけじゃつらいだろう?」
ギガントロック号も生物。
モンスターと合成されたホムンクルス馬とはいえ、生きているなら疲れもするし腹も減る。
来場者を運ぶため、博覧会場と魔都の間を常に往復し続けるというのはあまりに無茶な話だ。
それこそ電車のように一日中走り続けよなどと。馬車馬のように働く次元をも超えている。
「かと言って、ギガントロック号の進行速度を考えると休憩を挟むわけにも……!?」
さっきも言ったように、ギガントロック号が客車を引いて走る速度は、精々人が走る程度のもの。
休憩を挟みつつやっていたら、日に数本程度の往復になってしまう。
それでは多くの客を効率的に運ぶという当初の目的に届かなくなってしまう。
「せめてもう一頭いれば交代しながら効率よく送り迎えができるのですが……!」
オークボが妙案を出すが、なかなか現実的ではない。
ギガントロック号は、それこそパワーにおいては地上並ぶものなき名馬なのだ。
客車を引いて運ぶような常識外れのマネ、ギガントロック号の他にできる馬がいるとは思えない。
「ミミックオクトパス号にもできるとは思えないしな……」
ミミックオクトパス号はゴブ吉の愛馬で、速さと俊敏さで並ぶものなき駿馬だが、だからこそパワーでは期待できない。
「他にいるとしたら……!」
あ。
いたよ。
すべてにおいて最強の名馬が。
* * *
ドラゴン馬サカモト。
俺の馬だ。
そもそも農場内移動用に馬を欲しがったのがきっかけでウチにやってきたホムンクルス馬。
ギガントロック号よりもミミックオクトパス号よりも高い能力を持つことで自然、俺の愛馬ということになったのだが……。
そいつは今、農場の空き地で勝手に草を食んでいた。
「おーい、こっちこーい」
呼んでも反応がない。
耳だけ反応して動いてやがるので聞こえてないわけじゃないのだろう。
意図的に無視してやがる。
なんで。
「長いことかまわれなかったんで拗ねているのでは?」
一緒に来たオークボがアドバイスするように言った。
そういえば、オークボやゴブ吉は何やかんやいって自分の愛馬と接すること多く、彼らに跨って登場することも多かった。
しかし俺、最近少しもアイツに乗った記憶がない……!?
「いや、ジュニアが生まれたものだからつきっきりになったり、逆にやたら遠出になることが多かったし……!?」
「その前からあんまり乗ってなかったような気がしますが?」
言われてみればそんな気が……!?
さすればドラゴン馬のサカモトは、さながら捨てられた子犬のような気分になっておると!?
「ごめんよー! 放っておいてごめんよー!!」
言いわけをさせてもらうと、俺やっぱ根っからの農民なんで乗馬なんて恐れ多かったんだよー。
でもそれがキミを傷つけてしまってたんだね!?
「でも大丈夫だ! 今日は仕事があるんだ! お前にしかできない特別な仕事だぞ!!」
と言うと覿面サカモトは草を食むために下げていた頭を上げてこちらを向いた。
好反応。
やはりあの馬は必要とされることに飢えていたのだ。
そんなアイツの希望に応えようと、今回のミッションを説明してみたら……。
「ブルヒヒヒィーーーーーーーーーーーーーンッッ!!」
なんかキレられた。
そのいななきを意訳すると『この竜の血を引くサカモトに馬車馬をさせようとは何事かぁーッ!?』という感じだろうか?
プライド高い。
さすがドラゴンの遺伝子を使用して生み出されたホムンクルス馬。プライド高くて面倒くさい。
「しかしなあ、こんなことができそうな馬ってサカモトしかいないと思って声を掛けたのに……」
ピクッと反応する。
「元々はギガントロック号ができるからって言って始まった企画なんだけどなー。やっぱりこんなことできるのはギガントロック号しかいないよなー?」
「ブルヒヒヒィーーーンッッ!!」
さらに怒りのいななきを発するサカモト。
意訳的には『ふざけんな! 他の馬にできてオレにできないことがあるかぁ!!』といった感じだろうか。
上手く乗ってきた馬だけに。
ドラゴンの遺伝子を受け継いでいるせいかプライド高くてホント挑発に乗りやすい。
『やったろうじゃねえか! この農場にオレ以上の馬などいないことを証明してやらぁ!!』
と言っている気がする。
しかしなんで俺たちこんなに意図が通じ合えるんだろう?
* * *
そして実際にサカモトが客車を引いてみることになった。
いまだに客も乗せていない車輪もついていない試作車両だが、サカモトはそれを引っ張ったまま……。
……飛んだ。
「うっそ!?」
飛びやがった。
走ることすらぶっちぎって!?
いや、ドラゴン馬であるアイツが空を飛ぶことは知っていたけど。
まさか引く車ごと飛ぶとは!!
引かれる客車もサカモトと並行に浮いてるしどういうこと!?
「これがドラゴンの力なのだー」
困惑しているとヴィールが現れた。
もってこいの解説役!
「おれたちドラゴンは飛ぶ時、竜魔法で重さを消してるからな。半分おれの血が混じったサカモトにもできて当たり前だろう」
サカモト製造時の遺伝子提供者はコイツだからな!
「サカモトは後ろの荷台にまで魔法を作用させて重さを消し去ったんだろ。だから一緒に引っ張って飛べるのだ。ま、おれの力を受け継いでいるんなら当たり前のことだがな!!」
そこのところを重ねてアピールし、ヴィールは去っていた。
またジュニアのところに行くのだろう。
さすがはドラゴン馬のサカモト。俺の想像を超える結果を出してくれた。
客車ごと浮くなら、これからつける予定だった車輪も付けなくていい。
浮いて進むのだから。
これこそまさにリニア!
電車を一足飛びにした異世界リニア馬車ではないか!?
色々盛りすぎな気もするが……!
これですべてが一気に解決だな!
サカモトに引かせれば多くのお客さんを安全かつ快適に、最速で送り迎えすることができる!
サカモトはどんなに重い荷物を引かせても、重さ自体をなくすことができるために少しも速度を損なわずに走行することができた。
魔都~博覧会場程度の距離なら数秒で行き来できる。
速く移動できる分充分な休憩も取れるし、あらゆる問題が解決された。
これは決まりだな!
* * *
……というわけで翌日から早速、サカモトによる異世界リニア馬車が開通し、多くの来場者を魔都から会場へと運ぶことになった。
その物珍しさからリニア馬車自体も博覧会の一部として大きな話題となり、リニア馬車に乗ることを目的に博覧会に訪れる人も出るほどだった。
サカモト自身は、やはり馬車馬の真似事をするのはプライドに障るようで不機嫌だったが、乗客たちが口々に『凄い凄い』というので、すぐ上機嫌になった。
こういうところ本当ヴィールにそっくりだな。
こうしてサカモトが久々大活躍して彼の空虚を慰めつつ、博覧会での問題も解決できてオールオッケーな結果となった。
その陰で……。
「仕方ないよ、サカモトは我が君の愛馬なんだから敵わないのは。お前にはお前のいいところがあるよ」
出番を取られてショボンとなっているギガントロック号を慰めるオークボの姿があった。
自分の馬に気を使える優しい男だった。






